来月からパリで開催予定の第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)は、国連会議としてはこれまでかつてないほど、年初から世界的な注目を集めている。このことは、気候変動の問題に、世界中の人々が大きな関心を向けつつあり、その中からユニークな形である種の世界市民性が育まれている証左といえるだろう。
【パリIDN=A・D・マッケンジー】
有名なオルセー美術館近くのセーヌ川沿いを歩く観光客や地元民はいま、3か所の一風変わった場所で携帯電話を充電することができる。それは、太陽光で発電される街灯だ。
太陽光パネルが取り付けられたこの高いポールは、ここフランスの首都で国連の次の気候変動協議であるCOP21が開催されるのを前にして、気候変動問題への市民の意識を高めるべくフランスのNGO「国境なき電気技師たち」(ESF)が設置したものだ。
「気候変動との闘い、そして、世界の一部における電気不足の問題には解決策があるということを市民に示したかった」と語るのは、ESF広報担当のローラ・コルヌ氏である。
ESFはこの20年で、アフリカの農村地帯やヨルダンの難民キャンプ、ハイチ・ネパールでの震災後のテント設営地に、太陽光パネルを設置してきた。セーヌ川沿いに設置された太陽光発電の街灯は、気候変動問題に対する革新的な行動を募集したパリ市長の呼びかけに応えて提出された170件にも及ぶプロジェクトのうちのひとつである。
他方、この街灯からほど近い場所にあるのが、セーヌ川クルーズのための太陽光推進船に観光客が乗り込む乗船場である。雨の日には、冷たい風に観光客が震えていても、船自体はバッテリーに溜めたエネルギーで走ることができる。
一方、晴れた日には天井の太陽光パネルがとらえた力を推進力とし、乗組員たちは、太陽光技術と首都パリの「魅力」について乗客に語りかけるのである。
太陽光発電による街灯とクルーズ船は、COP21開催(11月30日から12月11日迄)に向け、気候変動問題が突き付けている深刻な現状を、世界の指導者や国際社会に理解してもらおうとフランスが取り組みを強化する中で実施された、人目を引く取り組みの一例である。
フランスのフランソワ・オランド大統領は9月、閣僚が列席する中、COP21を成功させるための野心的な試みを開始した。しかし大統領は一方で、同会議が失敗に終わる可能性が現実にあると警告した。
オランド大統領は、「奇跡などありません…成功する可能性はありますが、失敗するリスクも大いにあります。」と、政治指導者、芸術家、科学者、CEO、非政府組織、学生などを集めてエリゼ宮で開催された半日間の会議で語った。
フランス政府は、NGOの他にも、数多くの会議やプロジェクトを支援している。そうしたなか、パリ市は、9月27日を、隣国のベルギーの首都ブリュッセルが数年実施してきた先例に倣って、新たに「ノーカー・デー」に指定した。
さらに、歌や踊り、芸術プロジェクト、市民行進、COP21記念切手の発行、フィットネス用の自転車でエネルギーを作って音を出すなどの革新的なベンチャーへの注目等を通じて、COP21に向けた機運が高まりつつある。
こうしたなか、フランスのローレン・ファビウス外相は、「動かそう:気候対策支援に関与する市民社会」という公開フォーラムを10月3日に開催した。地元の大学と新聞が共催した同フォーラムには、約500人が参加して気候変動問題について議論した。
また、11月1日に開催予定の「地球のための24時間瞑想」や、COP21開催まで毎月1日に断食を行うことを呼びかけている「気候のための断食」プロジェクトなど、市民によるユニークな行動イベントに参加することも可能だ。
「芸術を通じて行動を訴える人々」の中には、「アートCOP21」という集団もある。彼らは「気候変動の問題を人々の課題として取り組む全市を挙げた文化イベントを開催し、そこで積極的で持続可能な変化をもたらすための文化的な青写真を創出する計画を立てた。
アートCOP21のローレーヌ・ガーモンド代表は、「芸術家は時として、政治家の声が届かない人々にもメッセージを届けることができます。しかし、私たちのこうした試みが、来月にCOP21が閉幕する際に各国が合意に至るかどうかということについて、どの程度影響を及ぼせるかは分かりません。」と語った。
オランド大統領は、望ましい結果を得るための「成功への鍵」を握るのは、2020年以降、毎年1000億ドルが必要だとされている対途上国援助資金の問題を解決することにあると繰り返した。
この資金は、気候変動に対して脆弱な国々がこの問題に対処していくために必要不可欠なものだと考えられており、その資金集めについては、とりわけ10月半ばに開催される欧州評議会のサミットで議論されることになっている。オランド大統領は、「こうした手段の中には金融取引に対する課税も含まれます。」と指摘したうえで、フランスの取り組みについて語った。
オランド大統領はまた、気候変動が、紛争や「独裁者、テロ」と同じように難民を生み出していることから、「(気候変動に関する)資金調達で世界の難民問題の緩和につながる可能性があります。」と指摘した。
フランスのマニュエル・ヴァルス首相はさらに、「地球温暖化によって主に被害を受けているのは『最も脆弱かつ貧しい』人々であり、フランスは、この問題に対して行動を起こす『決定的な役割を担っています。』」と語った。
エリゼ宮での会議の参加者の一人でグアドループから来たビクトリン・ルレル氏は、IDNの取材に対して、地球温暖化が小規模な島嶼国家に与える影響について、「例えばカリブ海諸国は、温室効果ガスの主要な排出者でないにも関わらず、海岸線の喪失、激しさを増すハリケーンの襲来などの被害を受けています。」と語った。
「これは私たちにとって死活問題であり、カリブ海諸国は、誰が(地球温暖化の)大きな責任を負っているかという問題は別にしても、地球温暖化は普遍的な問題であるとの意識喚起を図っています。」と、フランス海外領土であるグアドループ地域評議会の会長であるルレル氏は語った。
フランスのエコロジー・持続可能開発・エネルギー大臣であるセゴレーヌ・ロワイヤル氏は、「市民社会の中で行動が『非常に盛んに』なってきていることを喜ばしく思います。この機運がCOP21に向けて、そしてその後も継続していくことを期待します。」と語った。
ロワイヤル氏は、人類が直面している課題をシンプルに表現した。すなわち、森林などの環境破壊を止める、海洋などの汚染を減らす、(温室効果ガスの)排出を減らす、資源の過剰搾取を止める、ということである。
フランス政府によると、COP21はフランスがこれまで主催した会議の中で最も重要なものになるという。それは、世界が難題に直面しているからというだけではなく、「数万人」もの人々が物理的に会議に参加し、同時に会議の経緯を注視することになるからだ。
フランスのNGOにとっては、COP21はまた別の意味で重要な機会になるという。つまり、フランスは、ドイツやスイスといった国に比べて、国民の環境問題への意識が低く、おそらく(今回の会議によって)フランス市民がNGOの意見に耳を傾けるようになるのではないか、と期待されているのである。
これまでの気候変動会議開催期間中になされた非公式調査では、例えば、パリの街中にいる人々は、気候変動問題や協議の行く末についてほぼ関心を示していなかったという。多くの人々が、炭素ガス排出に向けた交渉や、地球の温度を「2度上昇」以下に抑える国際的目標について、何も知らないと答えている。
「私たちの意見に十分耳を傾けてもらっているとはまだ考えていません。」と語るのは、世界自然保護基金(WWF)フランス支部で自然保護プログラムの責任者を務め、NGOネットワークの代表でもあるダイアン・シミュー氏である。
有名なフランス人監督による環境についての映画を含め、芸術面から後押しすることは有効だろうか?
この問いに対してオランド大統領は9月に次のように述べている。「もう遅いし、恐らくは遅すぎるのかもしれません。」「したがって、緊急の行動が求められています…今さら知らなかった、などと言うことはできないのです。」(原文へ)
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