【ウィーンIDN=ジャムシェド・バルアー】
包括的核実験禁止条約機関(CTBTOとしてよく知られる)準備委員会は2013年、新型大量破壊兵器到来の先駆けとなる核実験を禁止するこの条約の発効に向けて、あらたな契機が生まれることを期待している。
こうした楽天的な期待の背景には、昨年12月3日の国連総会において、包括的核実験禁止条約(CTBT)への支持が圧倒的多数の加盟国により、ほぼ満場一致でなされた事実がある。「アクロニム研究所」のレベッカ・ジョンソン氏によると、CTBTは「核時代に(人類が)やり残した仕事の中で、主要な部分を占めるもの」だという。
このCTBT決議にはかつてない支持が集まり、184か国が賛成した。一方、反対は北朝鮮のみで、棄権はインド・モーリシャス・シリアの3か国であった。決議は、「CTBTに署名していない国家、とりわけ批准が同条約発効の要件とされている国々に対して、速やかに署名・批准するよう」促している。
核技術を持つ44か国のうち依然としてCTBTに加盟していない8か国は、中国・北朝鮮・エジプト・インド・イスラエル・イラン・パキスタン・米国である。
この投票結果は、CTBTを支持する国家の数がかつてない規模に拡大したことを示している。昨年(2012年)のCTBT決議の賛成国は174であり、反対・棄権国は同数であった。パキスタンは未署名国ではあるが、決議には賛成した。
国連総会はまた、核兵器の完全廃絶に関する決議も採択している。日本政府が起草したこの決議には、「包括的核実験禁止条約に署名・批准していない国に対して、できるだけ早い機会にそうするよう求める」という文言が入っている。この文言には165か国が賛成し、唯一、北朝鮮だけが反対した。決議全体は賛成174・反対1・棄権13で採択されている。
国連総会の決議には法的拘束力はないが、関連する問題についての国連加盟国の政治的立場を示す重要な勧告となる。他にも、「核軍縮」「核兵器なき世界に向けて」「核兵器の使用およびその威嚇の合法性に関する国際司法裁判所の勧告的意見に関するフォローアップ」の3本の決議がCTBTの重要性を強調している。
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国連総会会合はCTBT閣僚会合の2か月後に行われたが、この閣僚会合では、CTBTは核軍縮に向けた「死活的な措置」であるとした共同声明を発している。国連の潘基文事務総長は、CTBT未署名・未批准国に対して「国際社会の一員としての責任を果たしていない」と訴えかけている。
成功の15年
核能力をもつ44か国中8か国がCTBTに加盟していないが、CTBTが1996年に署名開放されて以来、世界の国の95%が、全ての核爆発を禁ずる規範に准じている。
2012年2月に創設15周年を迎えたCTBTO(本部:ウィーン)によると、[世界の]核実験は事実上の停止状態にあるという。条約の前例のない検証体制―10億ドルが投資された「諸システムのシステム」と呼ばれる―はほぼ完成され、探知されない核実験が行われないようすでに始動している。
技術的背景:CTBTOは、加盟国からの支援を得て、さらに9つの監視施設を設置することができたという事実を誇っている。これによって、国際監視制度(IMS)は85%完成した。7つの新規施設の設置も始まっている。米国では、国家研究評議会が、2012年3月、検証体制の探知能力に関する技術的・科学的評価を行っており、肯定的評価を下している。
財政的支援:CTBTOはまた、183の加盟国からの定期的分担金支払いが、世界の経済状況の悪化にも関わらず、昨年よりも多かったと指摘している。さらに、CTBTOによると、欧州連合(EU)があらたに500万ユーロ(約700万ドル)の自発的支払いを行った。これは、核爆発を探知する監視能力の向上のためと、途上国を支援して共同の取り組みにより積極的に参加してもらうために使われることになる。
「とりわけ緊縮財政下にあるときにこの規模の負担がなされたということは、EUのCTBTとCTBTOに対するゆるぎない支持を示すものだ」とCTBTOのティボール・トート事務局長は語った。
また、CTBTOによれば、日本からなされた73万7000万ドルの自発的支払いにより、より精度の高い空中放射能測定の能力向上が図られるという。
今年の見通し
CTBTOは、今年6月から9月の間に3つの重要行事を予定している。
「2013年科学技術会議」(SnT2013)は、ウィーンのホーフブルク宮殿で6月17日~21日に開催される。この科学会議では、科学者たちがCTBTの検証体制をさらに強化する方法を討論する場が与えられる。
8月1日には、加盟国によってCTBTOの次期事務局長として選出されたラッシーナ・ゼルボ氏が、7月31日に任期を終了するティボール・トート事務局長に代わって、任務を開始する。ゼルボ氏は現在、CTBTO国際データセンターの所長を務めている。
9月の国連の閣僚ウィークの間、加盟国は、CTBT早期発効へ向けた勢いを生むために、次の「第14条会議」を開催する。前回(第5回)会議は2007年9月18日に閉会したが、未署名・未批准国家に早期に署名・批准するよう緊急に呼びかけた。このときは、2つの未署名国を含む106の加盟国が2日間の会議に参加した。
2013年の間、CTBTOは、次の大きな現地査察演習の準備へと進むことになる。次のいわゆる「統合現地演習」はヨルダンで2014年に開かれる。前回の査察からは3年ぶりとなる。
現地査察は、加盟国が包括的核実験禁止条約に従っているかどうかを検証するために実施される。つまり、現地査察は核爆発が(加盟国によって)実際に引き起こされたどうかを立証するために実施されるのである。こうした査察の間、条約違反の可能性を確かめるために証拠が収集される。したがって、現地査察は、CTBTの下における最後の検証手段なのである。
こうした前提の上で、潘基文国連事務総長のCTBTO創設記念における次の発言は意義のあるものとなる。「私は、外交官として、CTBTによるものも含めて、軍縮・不拡散にかなりのエネルギーを割いてきました。国連事務総長として私は、この大義に、そして、『核兵器なき世界』というビジョンを実現するためにますます努力する所存です。」(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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