地域アフリカ│中央アフリカ共和国│住民が逃げるなか支援に入る困難さ

│中央アフリカ共和国│住民が逃げるなか支援に入る困難さ

【国連IPS=ジョナサン・ローゼン】

「民族的宗教的浄化」、「喪失した国家構造」、「許容できない宗派間暴力」などと国連が形容している内戦によって荒廃した中央アフリカ共和国。人道支援を試みる人びとにとって、この国に入り込むのは、時として命の代償を伴う至難の業となっている。

国際連合児童基金(ユニセフ)中央アフリカ事務所のジュディス・ルベリー副代表は、「昨年だけでも9人の人道支援活動家が命を失うなど、極めて不安定かつ暴力的な状況が続いており、この国にいる全ての人々にとって、治安確保は深刻な課題となっています。」「中央アフリカ共和国は私にとって7番目の赴任地ですが、ここほど悲惨な状況を目のあたりにしたことはありません。」と語った。

Central African Republic
Central African Republic

中央アフリカ共和国の内戦は、イスラム系反政府武装勢力の連合体「セレカ」が政府に対する攻勢にでた2012年に始まった。翌年3月、セレカの指導者ミシェル・ジョトディアによる軍事独裁政権(同国初のイスラム政権)が成立したが、新政権下で行われた民衆弾圧に反発したキリスト教系の民兵組織「アンチ・バラカ」(バラカは「なた」を意味する)が反セレカ闘争を展開したため、次第に国内は無政府状態に陥るとともに、内戦は宗派間抗争(国民の約50%がキリスト教徒、15%がイスラム教徒)の様相を呈していった。

「交戦中の武装勢力による妨害に遭うため、支援を必要としている人々の元に物理的にたどり着けない状況が出てきています。」「各地の道路が武装勢力により封鎖されており、ルート変更を迫られるほか、援助物資を略奪されたり、援助要員が襲われたりするケースもでてきています。」と、国連世界食糧計画(WFP)のスティーブ・タラベラ広報官はIPSの取材に対して語った。

国連によると、首都バンギに関しては、昨年後半に軍事介入した旧宗主国フランスとアフリカ連合の治安維持部隊が増強され、(イスラム政権の崩壊に伴って)イスラム教徒が大挙して街を去ったことから、戦闘は下火になっている。

スティーブ・タラベラ広報官/WFP
スティーブ・タラベラ広報官/WFP

にもかかわらず、約220万人におよぶ人道支援を必要としている人々に援助物資を届けようとしている援助要員にとって、いつどこで民兵組織に襲撃に遭遇するか分からない現状は、深刻な治安上の問題となっている。

「ひところ、中央アフリカ共和国への援助物資の搬入ルートとして使用してきたカメルーンから首都バンギに向かう唯一の道路が完全に封鎖される事態に陥ってしまったことがありました。原因は、イスラム教徒が多いカメルーンの運転手が、国境越えを怖がったためです。」とWFPのファビアン・ポンペイ地域広報官は語った。

「現在は道路封鎖が解除され、国境越えの道路で食料を中央アフリカ共和国に運び込むことができますが、アフリカ主導中央アフリカ国際支援ミッション(MISCA)による警護が必要になっています」。

「中央アフリカ共和国では、元セレカやアンチバラカ等のグループによる市民の殺害、略奪、性的暴力、児童兵の雇用等が横行しており、人道状況が極度に悪化しています。このような状況下で車を運転して物資の輸送を行うのは困難です。また、盗難のリスクを考えると車を自宅の敷地にとめるもの複雑な問題です。」と国際赤十字委員会中央・南部アフリカ事務所のマリー・セヴァンヌ・デジョンケール広報官は、IPSの取材に対して語った。

国際治安部隊の駐留

潘基文事務総長は2月20日、安全保障理事会で演説し、①中央アフリカ共和国への人道支援を確実に実施できる環境の確保、②フランス軍及びアフリカ連合による治安維持部隊の増強など6項目からなる中央アフリカ共和国の事態への対応策の概要を提示し、国際社会に対し、同国における殺害をくい止め、危機的状況を打開するための集団行動を促した。

にも関わらず、依然として同国の治安状況は深刻で、引き続き武装勢力による援助要員への襲撃が頻発している、と国連は4月3日付で報告している。

現在のところ、中央アフリカ共和国内で活動している国際部隊はフランス派遣軍(サンガリス)の約2000人とアフリカ連合(AU)が派遣した約6000人(MISCA)のみである。国連安保理の要請で欧州連合が1000人の派遣を予定しているが、まだ実現していない。

ユニセフとWPFの援助要員は、国際治安部隊のエスコートを得ることで、治安状況が特に厳しい地域へも立ち入ることができるようになった。

「現在は、MISCAのセネガル人治安部隊の兵士のエスコートを得て、人道支援活動を実施しています。…しかし、これはあくまでも最終手段と考えています。私たち人道援助機関は、厳正な中立を堅持することが重要であり、必ずしも武装エスコートを利用したいと考えているわけではありません。」とユニセフ中央アフリカ事務所のルベリー副代表は語った。

3月3日、国連安保理は1万2000人規模の平和維持部隊の派遣を提案した。国連安保理のジョイ・オグウ議長(ナイジェリア大使)は、記者会見において、「4月第2週ごろに採決に移るが、実際に派遣されるのは9月になるだろう。」と語った。

交渉でアクセスを確保する

他方で、「国境なき医師団(MSF)」や「国際赤十字委員会(IFRC)」のように、治安維持部隊のエスコートに依存せず、紛争当事者との直接交渉によって、支援を必要としている人々へのアクセスを確保しようとする動きもある。

「私たちは、紛争当事者の配慮を信頼して、武装エスコートを利用していません。紛争当事者への呼びかけや交渉に多くの時間を割いています。」とバンギに拠点を置くMSF事務所のシルヴァイン・グル―所長は語った。

「私たちは武器を携行しませんし、武装エスコートを利用することもありません。」とIFRCのベノワ・マーシャ・ルペンティエール広報官は語った。

IFRC
IFRC

「現在、政府高官レベルとボランティアレベルで、支援を必要としている人々への援助要員の安全なアクセスを保障するよう、交渉が進められています。」

IFRCには、各国内で地域に根差した活動を支援する赤十字社があり、中央アフリカ共和国の赤十字社は、IFRCや同国への人道支援を行うにあたって制約を受けている他の人道援助組織を支援するうえで、重要な役割を果たしている。

IFRCのデジョンケール広報官は、「もし現地の情勢があまりに危険な状況にある場合は、現地パートナーを通じて援助物資の提供を行っています。中央アフリカ共和国における主なパートナーは、同国の赤十字社です。同赤十字社は国中に強固なネットワークと多くのボランティアを擁しています。」と語った。

視点の転換をはかる

人道支援ができるよう被災現場へのアクセスを尊重するという考え方を広めることは、援助要員が中央アフリカ共和国で戦災に苦しむ人々への支援能力を高めるうえで、重要な要因である。

「国際人道法を尊重するという考え方を広げることは、国際赤十字の任務の一つです。私たちは長年に亘って、戦時においても尊重されるべき人道上の基本的ルールについて話し合う会合を開いてきました。そうしたルールには、人道支援要員に安全なアクセスを保障することも含まれています。」とIFRCのデジョンケール広報官は語った。

「私たちは支援を必要とする人々に食料を配給しています。私たちにとっての最優先事項は困っている人々に支援の手を差し出すことなのです。全ての紛争当事者に支援要員の通行を認めてもらうために、この点を常に訴えていくことが極めて重要です。」

既に数千人が殺害され、60万人以上が住まいを追われた中央アフリカ共和国では、深刻な人道危機に直面している人々に一刻も早く援助物資を届けることが緊急の課題となっている。ただし、それは長期的な解決策にはならない。

「最善の選択肢は、国内の諸勢力を和解に導き、内戦を政治的に解決することです。」と前出のWFPのポンペイ広報官は語った。(原文へ

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