気候変動と紛争

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タウキエイ・キタラ

2020年10月19日、太平洋諸島出身の鋭い知性を持つ有識者たちがフォーラムに登壇し、母国での生活や気候変動の影響と戦う日々について、幅広い豊かな経験を人々に伝える。スピーカーのうち2名は元国家首脳で、元ツバル首相のエネレ・ソポアガ(Enele Sopoaga)閣下と元キリバス大統領のアノテ・トン(Anote Tong)閣下である。太平洋諸島フォーラム事務局気候変動アドバイザーのエクスレー・タロイブリ(Exsley Taloiburi)氏、気候変動活動家であり詩人であるマーシャル諸島出身のキャシー・ジェトニル=キジナー(Kathy Jetnil-Kijiner)氏も討論に参加する。10月19日のオンラインフォーラムは、気候変動と主権を議題とするオンラインフォーラム・シリーズの第1回となる。狙いは、島ならではの知識と経験に脚光を当てることである。それは、太平洋諸島における主権のあり方がなぜ独特であるか、また、長年受け継がれてきたヴェストファーレン的主権概念(我々は、これを脱植民地化する必要がある概念とみなし始めている)となぜ異なるのかを理解するために不可欠である。(原文へ 

太平洋諸島の人々が、土地や海への直接的脅威となっている気候変動と戦っていることは、誰もが知っている。しかし、気候変動のために、私たちが政治的独立とアイデンティティーを求める戦いも強いられていることを、どれだけの人が知っているだろうか? これは、私たちの主権の問題である。たとえ祖国の土地が大きなリスクにさらされていようとも、主権を私たちの手から奪われるままにするわけにはいかない。

主権という概念に初めてふれる人のために説明すると、主権とは、それぞれの国が独立した国であり、国民や領土に関して独自の決定を下すことを認める基本的な国際法である。私の祖国であるツバルは、独立国家であるために、英国とキリバスの両方からの独立を確保するために、必死に戦った。ツバルの独自の文化を他者に支配されたくなかったからであり、自分たちの決定を自分たち自身で下したかったからである。自分たちの文化と国民のことは、自分たちが最もよく知っている。主権なくして、人々のために決定を下すことはできない。また、ヴェストファーレン体制では居住可能な土地があることが条件とされる。他国の一部の人々は、気候変動によって私たちの国が常に居住可能ではなくなったのだから、より大きな国で安全な居住地を手に入れる代わりに主権を放棄すればよいと考えているようだ。しかし、気候変動はほとんど私たちのせいではないのに、土地が居住困難になったからといって、なぜ私たちが、国民として国民のために決定を下す権利を放棄しなければならないのだろうか?すべての人は安全な居住地を持つ権利があるが、気候正義と人道主義のあらゆる原則に鑑みて、私たちの土地に何が起ころうとも、私たちが大切にするもの、つまり主権を放棄しなければならないということがあってはならない。その土地に根差す人々は、その領土に対する権利を持ち、その領土について決定を下す永遠の権利を持つ。たとえ領土がどれほど変化し、他の国々が私たちに何を負わせようとも、それは変わらない。

いずれ私たちはより安全な居住地を必要とするとしても、それを手に入れるために主権を放棄する必要はまったくなく、また、私たちの海を放棄する必要はまったくないと、私たちは認識する。豊かな国々は、私たちの豊かな海へのアクセスを求めるが、海は彼らの所有を得るためのものではない。大国は、私たちの豊かな海、私たちの祖国である島々、私たちの祖先が住み、私たちが文化を通して深く結びついている場所を奪う方法を模索し始めている。私たちは今、自分たちのものを持ち続ける権利を求めて戦う必要がある。何があろうとも、私たちの主権を守る必要がある。それを実現する方法について論じ始める必要がある。

10月19日のオンラインセッション(https://events.humanitix.com/climate-change-challenges-to-the-sovereignty-of-our-pacific-atoll-nations)は最初の一歩であるが、2021年には再びオンラインセッションが開催される。その際はさらに多くのスピーカーを迎え、もしかしたら対面の会議となるかもしれない。このオンラインフォーラムは、太平洋諸島の人々の視点から見た主権、そして、気候変動が太平洋地域に散らばる多くの小さな島々の主権にどのような影響を及ぼすかについて意見を表明し、公開討論する場をもたらす。オンラインフォーラムでの議論を足掛かりとして、いずれ、ここオーストラリアや太平洋地域から有識者、市民社会団体、関心を持つコミュニティーメンバーを招いた対面会議が行われるだろう。対面会議によって参加者同士の交流や議論が深まり、政策決定に役立つ、そして太平洋地域ならびに国際領域における法的境界の保全に影響を及ぼすビジョンが生まれるだろう。私たち太平洋島嶼国は、私たちの土地、価値、慣習、海洋領域に対する主権を気候変動によって奪われるままにすることはできないし、またそうするつもりもない。

タウキエイ・キタラはツバル出身で、現在はオーストラリアのブリスベーンに居住している。ツバル非政府組織連合(Tuvalu Association of Non-Governmental Organisation/TANGO)というNPOのコミュニティー開発担当者であり、ツバル気候行動ネットワークの創設メンバーでもある。ツバルの市民社会代表として、国連気候変動枠組条約締約国会議に数回にわたって出席している。ブリスベーン・ツバル・コミュニティー(Brisbane Tuvalu Community)の代表であり、クイーンズランド太平洋諸島評議会(Pacific Islands Council for Queensland/PICQ)の評議員でもある。現在、グリフィス大学の国際開発に関する修士課程で学んでいる。

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