ニュースラテンアメリカと核廃絶の追求:トラテロルコ条約から核兵器禁止条約へ

ラテンアメリカと核廃絶の追求:トラテロルコ条約から核兵器禁止条約へ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=シーザー・ジャラミロ 】

2014年2月14日、核兵器の人道的影響に関する第2回国際会議が終了し、フアン・マヌエル・ゴメス・ロブレド議長(当時のメキシコ外務次官)は、閉会の辞において、会場にみなぎる空気を力強い言葉で表現した。核兵器廃絶に向けた国際努力において、この会議は「後戻りできない分岐点」となったと。彼の楽観的な結びの言葉は、拍手喝采を浴びた。(原文へ 

メキシコ政府が沿岸のナジャリット州で開催したこの会議は、核兵器の使用がもたらす破滅的な結果を特に重点的に取り上げた3回の会議の2回目に当たる。第1回と第3回は、それぞれノルウェー政府とオーストリア政府が開催した。一連の会議でまとまった重要な認識は、国際法のもとで、他のすべての種類の大量破壊兵器は明示的に禁止されているにもかかわらず、最も破壊的な核兵器だけが禁止されていないという異常な状況を是正するには、法的禁止が必要だということである。

ゴメス・ロブレド議長がナジャリット会議で述べたように、「これまで、兵器が非合法化された後に、それらの兵器が廃絶されてきたことを考える必要がある。我々は、これが核兵器なき世界を実現する道だと考える」。あらゆる困難を乗り越え、また、核兵器保有国やその同盟国による真っ向からの反対にもかかわらず、その道は現にたどられている。ナジャリット会議から3年半近くを経た2017年7月17日、ニューヨークの国連本部にて核兵器禁止条約が122カ国の賛成により採択され、そのプロセスと結果の両方にラテンアメリカ諸国が影響を及ぼした。

メキシコがTPNWの歴史的採択をもたらした土台作りに決定的な役割を果たしただけでなく、ラテンアメリカのすべての国が交渉に参加し、同条約の採択に賛成票を投じた。さらに、条約交渉会議はコスタリカのエレイン・ホワイト・ゴメス軍縮大使が議長を務めた。コスタリカは、TPNWを最も強力に支持する国の一つであり続けている。

より最近の2020年10月24日、ホンジュラスがTPNWを批准した50番目の加盟国となり、核軍縮の歴史に足跡を残した。ホンジュラスが批准書を国連に提出したことをもって、90日後の条約発効に向けたプロセスが開始された。2021年1月22日、TPNWは正式に国際法の一部となり、ラテンアメリカ諸国の不滅の足跡を残すものとなる。

TPNWに最初に加盟した50カ国のうち、ラテンアメリカ諸国のは、ホンジュラスの批准によって12カ国に達した。他の11カ国は、パラグアイ、メキシコ、キューバ、ベネズエラ、コスタリカ、ニカラグア、ウルグアイ、エルサルバドル、パナマ、ボリビア、エクアドルである。このほかに、グアテマラ、チリ、ドミニカ共和国が署名を済ませ、批准に向けた国内の法整備を進めている。

念のために言うと、TPNWに対するラテンアメリカ諸国の強力な支持は、ほとんど驚くべきことではない。それはむしろ当然のステップであり、それ以前の条約に基づく核兵器廃棄の取り組みと完全に一致するものである。

ラテンアメリカ地域の国々はすでに、ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約、通称トラテロルコ条約に加盟している。ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止機関(OPANAL)の指揮の下、この条約は地域を非核兵器地帯(NWFZ)として確立した。これには、核兵器の保有、移譲、使用の禁止、ならびに核物質の使用を平和目的に限定する義務が含まれる。

1967年に署名開放されたトラテロルコ条約は、ラテンアメリカ地域の長期にわたる核廃絶の取り組みの説得力ある証となっている。同条約は、ほぼ普遍化している核不拡散条約(NPT)よりも前から存在しており、地域のすべての国がNPTにも加盟している。ラテンアメリカ諸国が決意をもって核軍縮に取り組んできたことは、核軍縮が共通の国際的責任であり、大小を問わずすべての国がこの大事業に積極的な貢献を行うことができるという事実を如実に示している。

核兵器は廃絶しなければならないし、廃絶することができるというラテンアメリカ諸国の強い信念は、国際関係に対するナイーブな、あるいは粗野な理解に基づくものとは思われない。核兵器保有国とその同盟国が、国家安全保障ドクトリンおよび戦略において、核兵器を明確に位置付けていることはきわめて明白である。しかし、核兵器保有の利点が認識されているとしても、それは誤った主張に基づくものであり、いかなる場合も、核兵器が人類文明そのものにもたらす脅威のほうがそれをはるかに上回るということは、繰り返し、説得力をもって論証されている。

近年、核兵器の人道的影響が改めて注目を集めており、それがラテンアメリカ諸国の核軍縮努力への関与に重要な役割を果たしている。また、2017年の核兵器禁止条約採択にも重要な役割を果たしている。また、多国間の軍備管理・軍縮プロセスを形成する伝統的な力の属性に変化が起きていることを示している。これは、軍事力や経済力が突如として的外れになるという意味ではない。しかし、軍縮の人道的必然性は、ラテンアメリカ諸国にとって有効な触媒として、また結集点としての役割を果たし得る。

TPNWは、NPTが核廃絶を実現できないといった、国際的な核軍縮・不拡散制度における多くの失敗や不足を踏まえたものである。NPTは、非核兵器保有国が核兵器を獲得することを防ぎ、核兵器保有国にそれらを廃絶させることを目的としていたが、核兵器保有国は、彼らの条約義務だけでなく、世界中に沸き起こる核兵器廃絶への支持に抵抗し、回避し、あるいは無視している。しかし、過去半世紀にわたる核廃絶努力の歴史が何らかの兆候を示すのであれば、ラテンアメリカ諸国は懸命の努力を決してやめることはない。

シーザー・ジャラミロは、カナダに本拠を置くNGOプロジェクト・プラウシェアーズ事務局長、SEHLAC(ラテンアメリカ・カリブ地域における人間の安全保障ネットワーク/Network on Human Security in Latin America and the Caribbean)会員、そして、核兵器廃絶国際キャンペーンのパートナーを務めている。また、核兵器の人道的影響に関する多国間会議やTPNW交渉会議に参加した。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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