ニュースQアノンと大衆のデジタル過激化: 平和構築と米国人の反乱

Qアノンと大衆のデジタル過激化: 平和構築と米国人の反乱

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=リサ・シャーク】

米国在住の右翼過激主義者たちは、ソーシャルメディアのプラットフォームを利用して偽情報を拡散し、新メンバーを集め、連邦議会議事堂襲撃を計画し、国内の憎悪と分断をいっそう煽った。2021年1月6日の議事堂襲撃以前も、対テロおよび対反乱の専門家たちは、ソーシャルメディアを駆使した陰謀による米国人の「大衆過激化」を指摘していた。ロイターの世論調査によれば、米国の人口の13%が議事堂襲撃を支持していた。(原文へ 

1月6日の襲撃に責任があるのはソーシャルメディアだけではない。米国の新たな反乱を激化させている要因は、過激主義的なラジオのトーク番組、分断を煽る大統領、白人の優越性が脅かされているという感覚など、さまざまである。これらの要因すべてが、何十年にもわたって米国社会でくすぶり続けてきた。ソーシャルメディアは、問題を作り出したのではなく、増幅させたのである。

1月6日の議事堂襲撃を主導したのは、極右陰謀論「Qアノン」のソーシャルメディアフォロワーのようである。2020年9月の時点で、新たに選出された議員を含め共和党員の60%近くがQアノンを信じていると伝えられる。8月には、ウォール・ストリート・ジャーナルが、新型コロナウイルスによるパンデミックの最初の5カ月で、Qアノン関連のFacebookグループのうち最大で10グループのフォロワー数が600%増加したと報じた。

米国で平和を構築するには、暴徒を駆り立てるあらゆる種類の問題に対処する必要がある。この泥沼から抜け出す解決策を見いだすには、Qアノンという新たな現象、そして大衆のデジタル過激化におけるソーシャルメディアの役割について分析する必要がある。

ソーシャルメディアの陰謀論は、「主流メディア」への攻撃から始まる

信頼できる情報源を持たない大衆は、容易に操作することができる。虚偽の陰謀論は、大衆の混乱に乗じて広まる。何が真実で、何が真実でないかを人々が知らなければ、真実の伝達者と称する情報源の言い分を受け入れやすくなる。民主主義や多文化主義を弱体化させようとするなら、真っ先に、ニュースメディアの正当性を否定する必要があるのだ。

ラジオのトーク番組のホスト、ラッシュ・リンボーは、トランプ主義の基礎を築いた。リンボーは自身の信奉者たちに対して、「四大ペテン」は政府、学界、科学、メディアだと訴え、事実を非正当化した。このような不信感を創出することによって、トランプとQアノンは忠実な信奉者を獲得し、大衆をコントロールしたのである。

ニュースジャーナリストたちがトランプの性格、腐敗、無能を暴露する一方、大統領は連日ニュースメディアを攻撃し、彼の言う「フェイクニュース」の被害者を演じた。トランプ信者たちは、「もうひとつの事実」を求めるようになった。2017年、Qアノンはあらゆることについて「主流メディア」に取って代わる右翼的見解を発表し始めた。

Qアノンの陰謀論はトランプ支持と反乱を煽った

1月6日の襲撃以前から、FBIはQアノンの陰謀論者を「過激主義者」であり、国内テロの脅威となりうると分類していた。機密情報にアクセスできる政府高官とされる「Q」は、トランプが政治と「主流メディア」を牛耳る民主党員に率いられた悪魔崇拝主義の小児性愛者からなる腐敗した世界的ネットワーク「ディープステート」から、人類を救おうとしていると主張する。度々トランプをキリストになぞらえつつ、Qの語りは、民主党員、ユダヤ人、ハリウッドのエリートからなる邪悪な「カバル(秘密結社)」を中心に展開する。彼らは老化を防ぐために、赤ん坊を殺し、その血を飲んでいるというのである。

Qは、ソーシャルメディアに自身の立ち位置を示す「パンくず」を投稿し、人々をしてそれを「健全な批判的思考」へと誘導している。事実の断片と排外主義的な嘘を混ぜ合わせ、アノンたちはニュースジャーナリストの信頼性を傷つけようとする。操作されたQアノン動画は、過去の反ユダヤ主義的な虚偽を再燃させ、新型コロナウイルス感染症、世界的な人口移動、性的虐待、人身売買、乳児殺害、その他多くの問題をカバルのせいにしている。Qは、小児性愛者ネットワークを運営する者どもが大量に逮捕される「嵐」や、人々がこぞってQを信じるようになる「大覚醒」を予言しているのだ。

「アノン」とはQの信奉者であり、Qアノンのグループに温かく迎え入れられ、「いいね」や肯定でお互いに報いを与え合っている。暴力的な過激主義の生態系の中で、孤立と混乱を深めるこうした個人的要因は、パンデミック下のソーシャルディスタンスとロックダウンによって、いっそう大きな役割を果たしているように思える。

Qアノンのソーシャルメディアへの投稿は、有機栽培農家、性的虐待問題に関心を持つ人々、政治に無関心な母親たちのグループからハーバード出身者など教養ある人々まで、多様なグループの心に訴えかけようとしている。自分は2020年の大統領選に勝利したが、邪悪な世界規模のカバルが選挙を「盗んだ」のだというトランプの主張を、アノンたちは支持している。Qは、民主党員と多文化的な民主主義を実存的脅威として描いている。

ソーシャルメディアのプラットフォームがQアノンとトランプのメディア攻撃を増幅した

 ソーシャルメディアは、「テックトニックシフト(techtonic shift=テクノロジーを震源とする地殻変動)」の進行とともに、世界中の国々で紛争と民主主義に影響を及ぼしている。ソーシャルメディアプラットフォームの利益モデルとアルゴリズムは、虚偽の過激な陰謀論を増幅することにより、分極化を促進し、米国の民主主義を弱体化させているようである。

ソーシャルメディア各社は、広告主に消費者を提供するためにユーザーにより多くのQアノン関連コンテンツを表示し、人々をプラットフォームにもっと長く滞在させることが利益につながる。アルゴリズムは、Qアノン関連コンテンツがユーザーの注意を引き付けることを正確に予測し、その表示数を増やす。

Qアノンが大勢の人々を過激化させているという警告を受けると、IT企業は「言論の自由」を主張した。しかし、権利擁護の活動家たちは、虚偽や扇動的なコンテンツの増幅に「到達する自由」などというものはないと指摘する。

議事堂襲撃事件の後、FacebookとTwitterは、トランプをプラットフォームから排除し、Qアノンに関連する何万件ものアカウントを凍結した。人権活動家や民主主義活動家の警告を何年間も無視した後に、ようやく下された決断である

プラットフォームから排除したことによって、将来的なソーシャルメディア上の害を防ぐことはできるかもしれないが、カルト陰謀論信者の解体または洗脳解除には役に立たない。すでに何百万人もの人々が、より小規模で規制の少ないソーシャルメディアプラットフォームに乗り換えている。

Qアノンとソーシャルメディアの大衆過激化に対する平和構築策

米国の平和構築者たちは、今後、手ごわい課題に直面する。今回の反乱は年月をかけて形作られてきたものであり、いまや米国の民主主義と人命への持続的な攻撃を行うために必要な大衆の支持を集めているようである。平和構築者にとっては、陰謀論と虚偽の霧から米国人を脱出させることが新たな任務となるだろう。

第1に、世界が急速に変化しているときほど、人々は陰謀論を受け入れやすくなる。そのようなストーリーが世界を理解するために役立つからである。平和構築者は、政治的分析と心理的分析を融合し、デジタルフォークロア、平和に関連するミーム、メタストーリーを織り込んで、すべての人にとって人間性、帰属、尊厳への信頼を呼び起こす新たな言説を作り上げることができる。

第2に、平和構築者はこの反乱を民主主義の失敗というより、米国の多文化主義の前進に対する揺り戻しと見ることを選択することができる。アナンド・ギリダラダスの言葉を借りれば、「バックラッシュは歴史の原動力ではない。それは原動力への抵抗なのである」ということだ。米国人は、インドとジャマイカにルーツを持つ初めての女性副大統領を選んだ。そして、歴史的に奴隷貿易の中心地であったジョージア州から、新たにユダヤ系米国人とアフリカ系米国人の2人の上院議員が選出された。「ブラック・ライブズ・マター」は、社会正義を求める歴史上最大規模の抗議運動となった。2020年、米国人はかつてないほどに投票し、抗議した。米国人は、ピープルパワーを見いだしたのだ。

そして最後に、パンデミックの真っただ中にあり、また、内省する十分な機会がある今、米国は白人至上主義、気候危機、消費中心の経済の脆弱さについて国民的議論を交わしている。パンデミックは、我々が変化し、適応できることを示した。それは、Qアノンの恐怖利用を打ち消し、懸念を払拭するために重要な教訓である。2020年は、厳しい一年となった。しかしそこには、コロナワクチンの開発に寄与する米国のイノベーションと想像力、平和的な選挙、気候危機への新たな注目、そして歴史の傷もそれを白日の下にさらすことによって癒すことができるという認識が織りなす、素晴らしいストーリーも含まれている。

リサ・シャークは、戸田記念国際平和研究所の上級研究員、米国の非営利団体Alliance for Peacebuilding(平和構築のための同盟)の上級研究員、およびジョージ・メイソン大学 紛争分析解決学部の客員研究員を務めている。これまでに10の書籍と、数多くの査読付き論文や学術誌掲載論文を執筆した。国家と社会の関係や社会的結束を向上させる、テクノロジーを活用した対話や調整を模索するこれまでの研究成果を生かし、2018年には編著“The Ecology of Violent Extremism(暴力的過激主義の生態学)”を出版した。

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