SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)新たな優先順位の設定: EUは国内平和と開発プロジェクトから軍事政策に移行

新たな優先順位の設定: EUは国内平和と開発プロジェクトから軍事政策に移行

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

EUの外交・安全保障政策は、不明確な概念、矛盾する利害、加盟国間の激しい論争に苦しんでいる。もっかのところ、軍事的・防衛的役割を強化することに優先順位が置かれている。10年前によく言われた「平和の力」としてのEUは脇へ押しやられ、地政学的野心が最前線に移動した。これは、国際平和と安全保障に逆行するステップであり、特に国連の優位性がすでに揺らぎつつある現在においては残念なことである。(原文へ 

2012年、EUはノーベル平和賞を受賞し、激しい武力紛争によって荒廃した数世紀の後に、休戦のみでなく真の平和を欧州にもたらすために果たした役割を特に称賛された。これは、紛争により分断された他の多くの地域にとって啓発的な模範となった。今日、エマニュエル・マクロン仏大統領は、特に軍事戦略と軍事力という点でEUには「戦略的自律」が必要であるという自説を繰り返している。グローバル戦略や近隣諸国との紛争解決には、時に“ハードパワー”が必要である。おおまかに説明すると、「現在のような対立的な世界秩序において、もはや米国が料理をしてEUが皿洗いをするという場合ではないのでは?」ということである。そしてEU委員会は、より断固とした外交・安全保障・防衛政策を呼び掛けることによって援護している。この考えを裏付けるものとして、米国の撤退がもたらす真空状態をEUが埋めなければならないと見なす地政学的考察がしばしばなされる。一方では、EUが国際危機に際して行動する政治的能力も軍事的能力も不足しているという不満が頻繁に聞かれる。他方では、各国政府は防衛政策における国家主権を慎重に堅持しており、それをEU本部に委ねてはいない。

EUがより強力な軍事的役割を果たすことを重視する考え方は、二つの問題に直面している。第1に、全ての加盟国がこの方向性に同意しているわけではない。第2に、資源不足を考えると、長期的に見れば、この政策はいわゆる「欧州平和ファシリティ」を犠牲にすることになる。ブレグジットが完了する前、英国はEUが強力な防衛的役割を果たすことに反対していた。いまや、防衛政策はEU中核国においておおむね推進されている。より正確に言えば、フランスが強力に推進し、ドイツ政府がそれを補完している。しかし、他の多くのEU加盟国は、脇に追いやられることを喜んではいない。EU拡大に伴って加盟国が増えており、なかでもバルト3国は、実のところEU加盟国以上にNATOの防衛力を当てにしていた。EU加盟27カ国は、シリア、リビア、ウクライナなどにおける紛争解決に関して、それぞれ異なる政策を表明し、追求している。中国のシルクロード構想への対応や自律型兵器の使用について意見の不一致があり、核兵器禁止条約(TPNW)には欧州諸国のほとんどが反対しているが、オーストリアは同条約を推進する原動力であったし、アイルランドは同条約に署名し、批准している。また、フランスの核兵器がEUの安全保障政策において果たす役割は、依然としてタブー視されている問題である。したがって、EUとしての政策に至る道は、明確と言うには程遠い。

より強力な軍事的役割を果たすことを主張する人々でさえ、それをいかに実施するかについては意見が異なる。フランス政府が「レアルポリティークの再発見」について語るとき、彼らは主に軍事的介入を念頭に置いている。そして、フランス政府が考える介入は、圧倒的にテロに対抗することを目的としている。ドイツの立場は、それと異なる。ドイツ国民は、圧倒的多数がドイツ連邦軍による海外での軍事介入に反対しており、被介入国における“安定”の名のもとに関与が必要なのだと常に“レクチャー”されている。かくしてフランス軍は、例えばマリにおいて、そしてリビアではハリファ・ハフタルの国民軍に軍事的支援を行うことによって、陰に陽に戦闘に従事しており、一方ドイツ軍は、アフガニスタン、マリ、イラク、アフリカの角、南スーダン、コソボにおいて治安部隊の訓練と装備提供に専念している。このような姿勢の不一致が、その結果である。ドイツ政府の顧問を務めるウォルフラム・ラッハーは、「マリとリビアの危機的状況におけるドイツとフランスの政策の成果は、嘆かわしいものだ。ドイツの関与はおおむね効果がないものにとどまり、フランスの政策はさらなる不安定化に寄与することが多かった」と結論づけている。また、共通安全保障防衛政策を支援する軍事部隊であり、2007年から存在している欧州連合戦闘群が展開されたことはない。

EUによる過去の軍事介入を振り返ると、2003年に東コンゴでアルテミス作戦を最初に展開して以来、EUは、自ら定めた責任において動きが遅く、かなり自制的である。全体的に見れば、西側の軍事介入はせいぜい功罪相半ばといったところである。アフガニスタン(2001年)からイラク(2003年)、リビア(2011年)、マリ(2013年)に至るまで、軍事的成功の後に不安定な状況が長期にわたって続いた。これらの軍事的関与は全て、いまや面目を保つことができる出口戦略を模索している。バルカン諸国への(NATOの指揮下における)介入は、やはり非常に物議をかもしたものの、比較的良好な結果をもたらし、旧ユーゴスラビア諸国のいくつかは現在EUの加盟国となっている。

文民危機防止と平和促進におけるEUの実践は、それよりはるかに積極的である。その能力と可能性は極めて大きい。興味深いことにEUは、主にアフリカ諸国とバルカン諸国における開発プログラム、文民平和ミッション、民主政策に、軍事介入よりもはるかに多くの資金を費やしている。EUの資料に記された海外ミッションは、現在進行中のものが18件、完了したものが2ダース近く0ある。EUによる海外ミッションの3分の2は文民ミッションであるが、人員数に占める割合はわずか20%である。2021~2027年のEU予算案では、1000億ユーロ近くが近隣政策と開発政策、人道支援、人権、国際協力、安定性に配分されている。これらのプログラムは、EU市民の間では軍事介入よりはるかに人気がある。反軍国主義の潮流、軍事作戦の高いコストへの懸念、過去の悲惨な経験、長びく、あるいは永遠に続くかと思われる海外軍事関与といった複合的要因により、EUの軍事的野心に対する支持は低い。

そのような過去の経験にもかかわらず、EUエリート層の間で交わされる安全保障論議の主な懸念と焦点はいまや軍事介入であり、いずれもEUの世界的役割という名目で論じられている。防衛問題は、数十年にわたり欧州委員会にとって「不可侵」領域だったが、加盟国に防衛協力を促すリスボン条約が2009年に発効するに伴い、変化が訪れた。以降、欧州委員会は拡張的役割を担い、現在のEU予算ではその目的のために財務資源が配分されている。近頃では、防衛問題に関するロビー活動が平和ファシリティにまで入り込むことに成功している。「欧州平和ファシリティ」は、その名称にもかかわらず、軍事介入資金源としても利用することができる。

「欧州平和ファシリティ」は全体的にはポジティブな影響を及ぼしているが、国連とEUのより良い協調努力によって、また、地政学的野心や軍事的野心と関わりを持たないことによって、さらに強化することができるだろう。防衛費をGDPの2%以上とする公約に固執するのではなく、EUは、GDPの0.7%を開発に配分するという長期目標を達成するために努力するべきである。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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