【国連IPS=ハイダー・リツヴィ】
国連の主導する軍縮問題に関する協議が7月23日にジュネーブで再開されるなか、核備蓄維持の予算を減らし、その分を開発予算に回すよう核兵器国に求める声が大きくなっている。
米国に拠点を置く「核時代平和財団」のデイビッド・クリーガー代表は、「核兵器に依存し続けること自体が意味を成さないように、核兵器に費やされている資金にも意味がない」とIPSの取材に対して語った。
このコメントは、国連加盟国193ヶ国中9ヶ国だけが、核兵器を削減するとの公約にも関わらず、核兵器の維持と近代化にあてる予算を増やし続けている事実を示唆している。
独立系機関の推計によると、昨年、核兵器国は1050億ドルを関連の予算に当てた。米国だけでも610億ドルを費やしている。
米国を拠点とした軍縮を訴えるグループ「グローバル・ゼロ」によれば、2011年、ロシアは149億ドル、中国は76億ドル、フランスは60億ドル、英国は55億ドルをそれぞれ核兵器に費やした。
4つの事実上の核兵器国もまた同じような行動パターンを示し、核兵器への予算を増やした。すなわち、インドは49億ドル、パキスタンが22億ドル、イスラエルが19億ドル、北朝鮮が7億ドルである。
「グローバル・ゼロ」によるこのコスト計算は、核兵器の研究・開発・調達・実験・運用・維持・更新にかかる予算のみであり、多くの関連活動を含まれていない。今年の支出額も同じぐらいになるだろうという。
このことは、多くの政府が、長きにわたる経済不況による財政上の制約に直面し、社会保障予算をさらに削減しようとする中で起こっている。
クリーガー氏は、世界の数多くの人びとが飢えや病気、住居なき生活などで苦しんでいるときに、核兵器の予算を増やそうとするのは「けしからんこと」だと語った。
「核兵器は、ミレニアム開発目標(MDGs)達成のために用いることができるはずの資源を吸収してしまっている。」とクリーガー氏は語った。
国連の専門家らは、開発のために年間4000億ドルが必要だとしている。しかし、ほとんどのドナー国が公約を果たさないため、この目標を達成することはますます難しくなっている。
国連によると、政府開発援助(ODA)には1670億ドルの不足があり、そのために2015年を目標としたMDGsのすべてを達成することが難しくなっている。平和活動家によれば、この不足は、核兵器の維持と近代化にかかるコストを大幅に削減することで容易に乗り越えることができるものだという。
「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のティム・ライト氏は、声明の中で、「核兵器国は、彼らの核戦力のために1日あたり3億ドルを費やしています。」「明らかに、われわれすべての脅威となるこの兵器にこうした資金を使うよりも、まともな道があるのです。」と述べている。
核不拡散・軍縮に関連した問題で国連と緊密な協力をとって活動する非政府組織である「リーチング・クリティカル・ウィル」(Reaching Critical Will)によると、現在、世界には推定で1万9500発の核弾頭があるという。
新START(戦略兵器削減条約)が2010年に署名されたが、米ロ両国とも、既存の核戦力を強化しつづけている。英国、フランス、中国、それに他の4つの事実上の核兵器国についても状況は同じである。
5つの公式の核兵器国の関連支出の実態は、透明性が欠如しているために詳細まではわからないが、研究者らによると、事実上の核兵器国に関しては、核兵器支出の正確なデータを得ることはより困難であるという。
たとえば、核不拡散条約に加盟していないパキスタンの場合、核兵器のコストに関するアカウンタビリティはまったく存在しない。それは国家機密事項なのだ。
パキスタンの核関連コストに関する質問に答えたあるパキスタンの外交官は、最近こう話した。「わかりません。米国の外交官などに聞いてみたらどうでしょうか。彼らだって、どれだけのお金を使っているか国民に知らせているでしょうか。」と語った。
この答えは、公式の核兵器国が公にした数字もまた正確なものではないことを示唆している。しかし、この地域の平和活動家は、この議論に反論する。
プリンストン大学で平和と安全保障に関するプロジェクトを率いるジア・ミアン氏は、「すべての核兵器国は、核計画を国民に知らせないままスタートしています。核政策の内部で何が起こっているのか、そして公金がどれだけ使われているかを秘密にすることで、社会の目から逃れようとしているのです。」と語った。
「核政策の最初の犠牲者は、それが保護しようとしている当の国民自身です。」と彼は述べ、パキスタン国民の約半数は、読み書きができないのにも関わらず、GNPの1%しか保健・教育に費やしていないという最近のデータを示した。
クリーガー氏は、核兵器国の指導者らが「世界からこれらの兵器をなくそうとしないことは、苦しむ人々に対する冷酷な無関心を示していると同時に、(核兵器国の)国民自身が核兵器の標的にされているということを意味するのです。」と語った。
国連の軍縮会議[IPSJ注:ジュネーブ軍縮会議(CD)のこと]は、9月14日に会期末を迎える。国連総会に毎年の報告義務があり、65ヶ国で構成される同会議は、自ら議題を定めることができ、全会一致方式で運営されている。
過去には、核不拡散条約や包括的核実験禁止条約など、主要な国際取り決めの交渉の場になったこともあった。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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