【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】
西洋諸国の指導層は、「南」の人々よりも先進国の人々の命の方が重要だと言外に述べているようである。
米国のチャック・シューマー上院議員は、スイスの巨大製薬企業ロシュ社に対して、鳥インフルエンザのウィルス「H5N1」に効く唯一の既存の薬である「タミフルー(Tamiflu)」の特許権を放棄するよう圧力をかけた。この結果、ロシュ社は特許を放棄し、米国の4つのジェネリック薬(他の製薬メーカーが、特許期間が切れた後で製造する、同じ成分・同じ効果の薬のこと:IPSJ)製造企業に権利を譲り渡すことで10月20日までに合意した。
しかし、こうした事態は、東南アジアを鳥インフルエンザが襲っていた昨年はじめには現れず、欧州への拡散が深刻に懸念されるようになってから初めて起こったことであった。アジアでは、例えばタイで13名、ベトナムで43名がこの病気のために亡くなっている。
バンコクに拠点を置くNGO「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」のニコラ・ビュラード氏は、こうした欧米の反応は、単なるダブル・スタンダードだというのみならず、実にばかげていると憤る。
途上国においては、いかに健康問題が深刻であろうとも、寛大な措置が取られることはない。エイズでは年間300万人、結核で200万人、マラリアで100万人が亡くなっているが、ほとんどの人々は薬を買うことができない。例えば、世界貿易機関(WTO)に昨年加入したカンボジアは、自国の製薬企業を保護しようとする欧米のプレッシャーにより、エイズ用の安いジェネリック薬を利用する権利を奪われようとしている。
また、欧米諸国はかつて、「強制実施権(compulsory licensing)」と呼ばれる権利を頻繁に発動していた。これは、不測の事態が起こったときに、政府がある医薬品の特許を破棄して、地元企業にジェネリック薬を作らせることができる権利である。しかし、途上国はこうした特権を持ってはいない。
医薬品の製造をめぐる、世界のダブル・スタンダードについて報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan