【ローマIPS=ポール・ヴィルゴ】
今月初め、英国ではチャールズ3世の戴冠式が国際メディアの注目を浴びていたが、少なくともそれと同等のスポットライトが当てられて然るべき別の話題はほとんど報じられなかった。
最新の「2023年版食料危機に関するグローバル報告書」(GRFC)によると、食料不安が深刻化し、急性食料不安(十分な食料を摂取できないことで、その人の生命や生活が差し迫った危険に晒されることを言う:INPSJ)を経験している人の数は、2022年に58の国と地域で約2億5800万人に上り、7カ国の人々が餓死の危険に晒されていると推計されている。
これは2021年の53の国と地域の1億9300万人からさらに増加したもので、緊急の食料、栄養、生活支援を必要とする人々の数が4年連続で増加したことを意味する。
ここで注目すべきは、これが世界中で飢餓の影響を受けている人々の数ではないという点だ。その数値は、はるかに大きなものとなる。国連は毎年7月、「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」報告書において、慢性的な飢餓状態にある人々の数を推定しており、昨年の報告書では、2021年の飢餓人口を最大8億2800万人と発表している。
一方、GRFC報告書は、最も深刻な形態の飢餓(IPC/CHフェーズ3-5)のみを統計の対象としている。(飢餓の「リヒタースケール」と呼ばれる食料不安を測る世界標準「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」は5段階からなり、フェーズ1が「食料が十分にある状態」、フェーズ2が「食料不安」、フェーズ3が「急性食料不安」、フェーズ4が「人道的危機」、フェーズ5が「飢饉(=1万人のうち少なくとも2人が餓死或いは関連する原因で病死)」である。」
それによると、7カ国の人々が2022年のある時点で急性食料不安の最も深刻な段階である壊滅的な飢餓(飢饉)(IPC/CHフェーズ5)に直面していた。その半数以上がソマリア(57%)で、アフガニスタン、ブルキナファソ、ハイチ、ナイジェリア、南スーダン、イエメンでもそうした極限状況が発生していた。
同報告書によると、39カ国で約3500万人が次に深刻なレベルの緊急事態の飢餓(IPC/CHフェーズ4)に直面し、これらの人びとの約半数は、アフガニスタン、イエメン、コンゴ民主共和国、スーダンのわずか4カ国で暮らしている。
2億5800万人という数字は報告書史上最も多く、今年はさらに状況が悪化している
「2022年、2.5億人以上の人々が深刻な食料不安に直面しました。この年は、食料危機に直面した人々の数が、僅か12ヶ月で33%増加した年でした。」と、国連世界食糧計画(WFP)のジェームズ・ベルグレーブ報道官はIPSの取材に対して語った。WFPはGRFCレポートを発行している「食料危機に対するグローバルネットワーク(GNAFC)」のメンバーである。
「そして、2023年のこれまでの経過を見ると、WFPが活動する79カ国で、実に3億4500万人が高レベルの食糧不安に直面していることがわかります。これは、2020年初頭のパンデミック前の水準から2億人近く増加したことになり、状況がいかに急速に悪化しているかが浮き彫りになっています。2023年に世界食糧計画が創立60周年を迎えるにあたり、私たちは現代における最大かつ最も複雑な食糧安全保障の危機の真っ只中にいることに気づきました。」と、ベルグレーブ報道官は語った。
実際、GRFCの報告書は発行開始から7年しか経過していないが、その間に最悪の形態の飢餓に苦しむ人々の数が大きく増加したことが記録されている。フェーズ3以上の飢餓を経験している人々の数は、2016年には1億500万人と現在の半分以下であった。
報告書で分析された42の主な食糧危機国のうち30カ国で、3500万人以上の5歳未満の子どもが消耗症、つまり急性栄養不良の状態にある。このうち920万人以上の子どもが低栄養状態の中で最も危険な状態で、子どもの死亡リスクの高い重度の消耗症に苦しんでいる。
2022年は、紛争や異常気象が継続して深刻な食料不安や栄養不良を引き起こしている一方で、特に食料や肥料などの輸入依存度が高く、世界の食料価格の影響を非常に受けやすい最貧国では、新型コロナウイルスのパンデミックによる経済不安やウクライナでの戦争の影響も飢餓の主な原因となっている。
このような極端なショックに対して、世界の人口の多くが脆弱であることは、農村部の貧しい零細農家の回復力を強化し、食糧不安に立ち向かう努力が不十分であることが原因の一つである。
GRFCの最新レポートにおいて深刻な飢餓に直面している人々の数値が上昇したのは、分析対象国の人口増加を反映している部分もあるが、これらの国々で急性食料不安を経験している人々の割合が2021年の21.3%から22年には22.7に増加していることは、人口動態の要因にかかわらず状況が著しく悪化していることを示している。
報告書は、各国と国際社会は、事前対応や危機対応型セーフティネットなどの革新的なアプローチを含む、より効果的な人道支援に焦点を当て、食料危機と子どもの栄養不良の根本原因に取り組むための投資を拡大し、農業食料システムをより持続可能で包括的なものにすべきだと述べている。
ベルグレーブ報道官は、「世界の飢餓との戦いは後退しており、今日、世界は、近代史上最大規模の未曾有の食糧危機に直面しています。世界で最も弱い立場にある人々の生活は日々厳しくなり、苦労して勝ち取った開発の成果も損なわれつつあります。WFPは3つの課題に直面しています。それは、深刻な飢餓状態にある人々の数は、資金が追いつかないほどのペースで増え続け、食料と燃料の価格が上昇したため、食料援助の提供コストがかつてないほど高騰していることです。」と語った。
「ソマリアのように飢饉の危機に瀕している国では、国際社会が政府やパートナーと協力して、人々を死線から引き戻すために懸命な取り組みを行っています。しかし、人々を生かすだけでは不十分で、さらに前進する必要があります。命の危険に晒されている人々を救う一方で、地域社会がレジリエンスを高め、自分たちの食料需要を満たすための基盤を提供するという、2つの側面から取り組まなければなりません。」(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau
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