SDGsGoal3(全ての人に健康と福祉を)4年を経てもなお不明確 WHO報告が浮き彫りにした国際協力の欠如

4年を経てもなお不明確 WHO報告が浮き彫りにした国際協力の欠如

新型コロナウイルスの起源はいまだ謎に包まれ、秘密主義、停滞した研究、そして国際的な不作為が進展を阻んでいる。

国連IPS=シュレヤ・コマール】

世界を一変させた新型コロナウイルスの発生から4年以上が経過したが、その起源はいまだ解明されていない。SARS-CoV-2は動物から人間へ自然に感染したのか、それとも研究所からの偶発的な流出なのか。世界保健機関(WHO)の最新報告書は新たな明確さを欠き、国際協力と科学的透明性に深刻な疑念を投げかけている。

WHOの「新興病原体起源に関する科学諮問グループ(SAGO)」は2025年6月27日、第2次報告書を公表した。しかし数年にわたる調査にもかかわらず、その成果は大きく批判され、目新しい発見に欠けるとされた。最大の問題は「含まれていないもの」にある。中国から求められていた重要データが提供されず、調査に大きな空白を残したのである。

WHO
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『Viral: The Search for the Origin of Covid-19』の共著者であるリドリー卿は次のように語った。
「この報告書は、数年前に少数の独立研究者が明らかにした内容以上のものをほとんど付け加えていない。5年をかけ、23人もの人員を動員して『ほとんど役に立たない』文献を出すに至ったのは、率直に言って恥ずべきことだ。」

新型コロナの起源解明は単なる学術的関心にとどまらない。ウイルスがどのように人間社会に入り込んだかを理解することは、次なるパンデミックを防ぐ上で不可欠である。科学者たちは、今後も新たなコロナウイルス流行の可能性は高いと見ている。野生動物市場からの自然な感染か、研究所事故かを突き止めることは、将来の備えを大きく左右する。

SAGO報告書は動物由来説と研究所流出説の両方を依然として「可能性あり」としつつ、さらなる証拠が必要だと指摘する。しかし、その証拠はいまだ得られない。

「中国が当初から透明性を保っていれば、すでに原因を特定できていたはずだ」と、2020~2021年にホワイトハウスの新型コロナ対策調整官を務めたデボラ・バークス博士は語った。

大多数のウイルス学者はいまも自然起源説を支持している。2025年7月15日に公開されたドキュメンタリー『Unmasking COVID-19’s True Origins』でも専門家が「ウイルスは自然起源であると理解する研究者が圧倒的多数だ」と述べている。しかし初期サンプルや完全な記録にアクセスできない以上、両説は科学的に排除できず、政治的緊張も調査を曇らせ続けている。

今回の報告書は、世界的保健政策の大きな節目の直後に出された。2025年5月20日、世界保健総会は「WHOパンデミック協定」を採択した。これは将来の感染症流行に備えるための法的拘束力を持つ条約であり、コロナ禍で露呈した深刻な欠陥――協調の遅れ、データ共有の停滞、ワクチンや治療への不平等なアクセス――を是正することを目的としている。

同協定は、病原体情報の迅速な共有、疾病監視における協力強化、ワクチンなど医療ツールの公平な分配を加盟国に義務付ける。ただし国家主権は尊重され、公衆衛生の決定権を譲渡することは求められない。病原体サンプルとその利用利益の共有に関する条項などは、2026年に最終調整される予定である。

WHOが2022年6月9日に出した第1次SAGO報告も、両説を「あり得る」とし、中国当局に追加データ提供を求めていた。その後も透明性が欠如したまま時間が経過し、科学者たちの苛立ちは一層強まっている。協力の呼びかけは、このウイルスだけでなく次なる脅威への備えでもある。

一方で、新型コロナや将来の呼吸器疾患に対抗するための重要研究は停滞している。2024年、オハイオ州立大学はSARS―CoV―2や長期的後遺症に関する新治療法を研究するため、1,500万ドルの助成を受けた。その一環で低酸素性呼吸不全の治療薬を試験する有望な臨床研究が進んでいたが、米国立衛生研究所(NIH)は資金を突然打ち切った。

SDGs Goal No. 3
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打ち切りにより50万ドルの節約にはなったが、すでに150万ドルが投入された後であり、研究は中止を余儀なくされた。その結果、毎年約100万人が新型コロナやインフルエンザなどで入院する呼吸不全に対し、有効な治療法が遅れる事態となった。オハイオ州立大学のある研究者は次のように嘆いた。

「これは私たち全員にとって大惨事だ。いつ残りの助成金を失うか分からない状況で、皆、不安と絶望の中にいる。私たちは人々の健康を良くするために懸命に働いてきただけなのに、攻撃されていると感じる。次のインフルエンザ・パンデミックは必ず来る。家畜で起きていることは本当に恐ろしいのに、私たちにあるのは酸素と希望だけだ。」

科学界の指導者たちは、今起きていることとは逆に「研究投資を増やすべきだ」と強調する。停滞や資金不足に陥った研究を復活・拡充し、特に中国のようなホットスポット地域の研究者と国際的な連携を深めなければならない。そうして初めて、次なる脅威に備えられる。

WHO自身も「SARS-CoV-2の起源解明作業は未完である」と認めている。だが透明性、資金、政治的意思が欠ける限り、この状況は長く続くだろう。そのとき世界は、次のパンデミックに対しても再び無防備なままにされる可能性が高い。(原文へ)

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