地域アフリカ|モロッコ|歴史的な日の訪れを告げる大規模な恩赦

|モロッコ|歴史的な日の訪れを告げる大規模な恩赦

【カサブランカIPS=アブデラヒム・エル・オウアリ】

次期国王が誕生した直後に、とりわけ十数人の死刑囚が恩赦を受けたことは、モロッコがアラブ世界で初の死刑制度廃止国になるという歴史を刻みつつある兆候ではないかと解釈されている。 

2月28日、モハメッド6世国王の妻であるララ・サルマ王妃は、国王夫妻の長女、ララ・ハディージャ王女を出産した。この吉報の直後、モロッコのモハメド・ブズ法務大臣は全国放送のテレビに出演し、これまでで最大規模の、14人の死刑囚を含むおよそ9,000人の受刑者に国王が恩赦を与えると発表した。「公式声明」を読みながら、法務大臣は何度もこの恩赦には死刑囚も含まれると繰り返した。これがモロッコ国王の死刑制度廃止支持を明らかに示すものと見なされている。

 モロッコ国民に対する国王からのメッセージは、法務大臣がモロッコの伝統的な民族衣装でテレビに登場するという異例の行動によって強調された。それはまた、モロッコで死刑制度の正式な廃止が速やかに近づいていることを告げた。死刑制度廃止の最終的な決断は、モロッコ議会によって下されることになる。だが、首相およびその他の要職にある大臣を任命する国王は、国の既存の憲法と法律制度における重大な変化に対して、支持を示す必要があった。 

2月にパリで開催された「死刑制度に反対する第三世界総会」で、モロッコの国選人権諮問委員会のベン・ゼクリ委員長は、モロッコの国会議員の中に死刑廃止について全体的な合意があると認めた。モロッコの報道機関は、6月に終了する今期の国会中に、この問題に関して議会での投票が行なわれると予測している。死刑廃止法案はすでに作成されていて、政府に提出されている。国王もまた、国の法典からの死刑制度除去について検討する特別法律委員会を設立した。 

1993年以降、モロッコは死刑執行を一時停止している。モロッコを含み、10年以上死刑を執行していない国がアフリカでは20カ国ある。1956年にフランスから独立して以来、モロッコでは500人以上が裁判所の判決により、あるいは超法規的に、死刑になったとされている。今回の恩赦以前には、人権運動家の話によると、131人が死刑囚となっていた。 

世界の死刑制度反対活動家は、モロッコが法令から死刑を排除することで、北アフリカと中東の国々の手本となるのを期待している。この地域の22カ国のうち、死刑制度を廃止した国はない。サウジアラビアとイランにいたっては毎年100人以上を処刑している。 

死刑制度廃止に向けたモロッコの着実な進展は、2005年の公平和解委員会の最終報告書に大きな後押しを得た。この報告書は死刑廃止を1999年にモハメッド6世国王が即位して以来行なわれてきた司法改革および政治改革を強化する手段として推奨した。 

委員会は国王の参謀であるドリス・ベンゼクリ氏が委員長を務め、独立してから1999年までに起きた重大な人権侵害を調査した。委員会はさらに公聴会を開催し、全国ネットのテレビで放映されたが、アラブ世界では前例のないことだった。 

モロッコのテレビはまた、死刑に関する国民的論議に主要な役割を果たした。昨年10月には全国死刑反対連合が、モロッコの首都ラバトの弁護士クラブ本部において死刑に関する討論を企画し、これも全国にテレビ放映された。 

その後に、死刑に関するドキュメンタリーがテレビで放映された。このような番組がアラブ各国で制作されて公表されたことは一度もないと、死刑に反対するパリ世界総会に出席した代表者の1人はいう。 

このドキュメンタリーによって、多くの人々が死刑支持者から死刑制度廃止論者へと転向するよう説得されたようだ。 

「テレビ番組を見た後で考えを変えた」と弁護士助手のケルツーム・アルーフ氏はIPSの取材に応じて語った。さらにイラクのサダム・フセイン前大統領の処刑される姿を見せた最近の映像が、断固として死刑反対を決意させたという。 

「サダム・フセインは犠牲祭の日に処刑された。あの映像は非常に残酷であり、今でも夢に見る」とアルーフ氏はいう。 

モロッコの圧倒的多数のイスラム教徒のすべてが、廃止論者の議論に説得されたわけではない。多くは今なおコーランと聖典が定める死刑を正当と考えている。モロッコの法律専門家の中には法律のいかなる変更も好まないものもいる。 

「廃止論者は生命の権利に関して誤った取り組みをしている」と弁護士のモハメッド・チェムシー氏はIPSの取材に応じて語った。「この権利は、まさにこの権利を他人から奪ったものを守るために利用されてはならない。廃止を支持する人々は犯罪者のことだけを考えてはならない。被害者の家族についても考えなければならない」 

さらに付け加えて、「死刑は民主主義、独裁制、イスラム教およびその他の宗教と結びつけてはならない。死刑は正義と結びつくものだ。死刑を廃止する必要はない。必要なのは、すべての人々にとって公正な裁判と、どんな罰にせよ公正に判決を言い渡す独立した司法を保証することである」と述べた。 

けれども、医者でアムネスティ・インターナショナルの活動家であるアフメッド・クーザ氏は逆の見方をしている。 

「廃止はこの国のイメージを改善し、生命の権利が何よりも大事にされる人権の尊重を強化するのに役立つ」とIPSの取材に応じて述べた。「死刑判決と処刑によって犯罪がなくなった国はない」。 

司法の過ちは無視できない。犯罪者の更生と社会復帰が重視されるべきだ。「イスラム教徒として、神のみが生死をもたらすと信じている」とクーザ氏は言い添えた。 

モロッコの死刑廃止はほんの数ヶ月先に実現すると明らかに示唆しながら議論は続いているが、裁判官たちはいまだ死刑判決を下している。2月にラバトの法廷は、モロッコ人のカリム・ジマクに、イタリア人外交官とそのベルギー人妻を殺害した罪で死刑を言い渡した。 

「この判決により、モロッコが死刑廃止問題を考え直していると解釈されてはならない」とチェムシー氏はいい、「モロッコは死刑制度廃止を政治的に必要としているので、死刑廃止は間違いない」と断言した。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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