【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】
ソマリア生まれの陸上走者モハメド・アブディ・ジャマ・ファラー(通称モー・ファラー)は、オリンピックと世界選手権で連続して長距離ダブルスを制した史上2人目の男性で、10個の金メダル(4つのオリンピックと6つの世界選手権タイトル)を獲得している。
しかし、彼はそれ以上のものを手に入れた。ファラーは、子どもの頃に人身売買で英国に不法入国をさせられ、他の子どもたちの世話をすることを余儀なくされた過去を告白する場を勝ち取ったのだ。
BBCとレッドブル・スタジオが制作した新しいドキュメンタリーで、ファラーは9歳の時に児童売買で家族と引き離され、隣国のジブチから偽造渡航文書で渡英させられ、その際に名前もフセイン・アブディ・カヒンから現在の名に変えられたことを明かしている。
ファラーは、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸東端のソマリランド(1991年にソマリアから一方的な独立を宣言した国)で生まれた。
アフリカを離れるとき、ファラーは欧州に行って親戚のところに住むのだと思い、連絡先を書いた紙を持っていた。しかし、その女性は英国に到着後、彼の書類を破り捨て、ロンドン西部にある自宅のアパートに彼を連れて行き、食事と引換えに家事や彼女の子供の世話を強要したという。
ファラーは12歳になってようやく学校に通うことが許され、それから英国での運命が変わったという。このドキュメンタリーでインタビューに応じた教師は、「当時のファラーは家庭ではまともに面倒を見てもらえず、『感情的にも文化的にも疎外され』ていたようで、英語もほとんど話せなかった。」と回想している。
ファラーは、やがて体育の教師に自分の身の上を打ち明けた。その先生は、地元の役人に連絡し、ソマリア人の家族に里親として引き取ってもらうことになった。彼はまもなく陸上競技の世界で才能を開花させた。
現代の奴隷制度は、密室で行われ、被害者にトラウマを与えるため、しばしば隠蔽される犯罪である。
モガディシュを拠点とする子どもの権利擁護団体「ピースライン」を運営するアーメド・ディニ氏は、ファラーの悲惨な子ども時代を憂いて、「児童売買が横行する背景には、貧困、教育機会の欠如、治安の悪さなど、多くの要因があることが 明らかになってきています。」と語った。(原文へ)
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