INPS Japan/ IPS UN Bureau Report国家による殺人事件が過去最高を記録

国家による殺人事件が過去最高を記録

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1996年、タリバンが政権を奪取したとき、最初の政治行動が、捕縛したアフガニスタン前大統領のモハメッド・ナジブラーの死体をカブールのアリアナ広場で吊るすことだった。

2021年8月15日、再びタリバンが、米国が支援するアシュラフ・ガニ政権を打倒した。ガニ前大統領は元世界銀行職員で、最も権威あるアイビーリーグの教育機関(コロンビア大学)で人類学の博士号を取得した人物である。

首都陥落前にアラブ首長国連邦(UAE)に亡命したガニ前大統領はFacebookの投稿で、ドバイに避難した理由は、「タリバンに吊るされる恐れがあったから」を記した。もしそうなっていたとしたら、タリバンは世界で唯一、2人の大統領を吊るした政府という不名誉な栄誉を手にすることになっていただろう。

しかし、不幸中の幸いそうはならなかった。またガニ前大統領は、国庫から盗んだ数百万ドルの入ったスーツケース数個を携えて大統領府から逃げ出したとする風評を否定した。

1980年4月12日、サミュエル・ドウは軍事クーデターを起こし、リベリアの大統領官邸でウィリアム・R・トルバート・ジュニア大統領を殺害した。リベリアは19世紀にアフリカ系アメリカ人の解放奴隷によって設立された国で、首都モンロビアの名称は、米国の第5代大統領ジェームズ・モンローにちなんでいる。

捕縛された前政権の閣僚らは全裸で市中を歩かされ、首都モンロビアの海岸で銃殺された。BBCは1980年4月、「リベリアで追放された前政権の13人の主要幹部が、新しい軍事政権の命令で公開処刑された。」と報じた。

この時処刑された人々の中には、元閣僚数名と、暗殺されたトルバート前大統領の兄が含まれていた。「彼らは首都モンロビアの陸軍兵舎に隣接する海岸で杭に縛られ、銃殺された。処刑を見るために兵舎に連行されたジャーナリスト等は、(処刑は)残酷で雑なやり方だと語った。」とBBCは伝えた。

しかし、一部の国では国家主導の殺人が増加している。

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人権団体アムネスティ・インターナショナル(AI)は5月16日に発表した調査報告書において、2022年はイラン、ミャンマー、中国、サウジアラビア、エジプト、北朝鮮、ベトナム、米国、シンガポール等20カ国で死刑が執行され、総件数は前年比53%増の883件にのぼり、「2017年以降、世界的に最も死刑が執行された。」としている。

この死刑執行の急増は、サウジアラビアで1日に81人が処刑されるなど中東・北アフリカ地域での執行数が大幅に増えたためだ。またこの数には、中国であったとされる数千件の死刑執行数は含まれていない。一方で、6か国が死刑を全面的・部分的に廃止した。

生存者を治療する世界最大の国際組織であり、拷問の廃止を提唱している拷問被害者センターの所長兼CEOであるサイモン・アダムス博士は、IPSの取材に対して、「司法による物々しい儀式を取り払えば、死刑は冷徹に計算された国家による殺人に他なりません。死刑は、生命に対する普遍的な人権(=生きる権利)を侵害し、明らかに残酷で卑劣で異常な刑罰に当たります。」と語った。

「現在、世界の多くの国々が死刑を時代遅れで退廃的な慣行とみなしているが、多くの抑圧的な国家で死刑執行が増加していることは事実である。」

「イラン政府は、『女性、命よ、自由を!』ヒジャーブ抗議運動に対して、社会統制の手段として絞首刑をもって臨み、デモ参加者や、政治的反体制派、少数民族を処刑している。」と指摘した。

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同様に、ミャンマーの将軍たちも、軍事政権に対する広範な反対運動を抑えることができず、再び絞首刑を導入している。「しかし、歴史が教えてくれることは、国家は政治犯を処刑することはできても、その思想を殺すことはできないということだ。」とアダムズ博士は語った。

「国連安全保障理事会の議長国である米国と中国が、世界で最も多くの自国民を処刑している国であることは、道徳的に非難されるべきことです。両国は、国連総会で死刑執行一時停止(モラトリアム)決議に賛成票を投じた125の国連加盟国の仲間入りをする時が来たのです。」

一部の国々では、死刑の残忍なやり方は、残酷で卑劣で異常な刑罰に当たるだけでなく、拷問に当たる可能性もある。

公開絞首刑、斬首刑、電気処刑、石打ち刑などの野蛮な方法が21世紀になっても行われていることは、全人類にとって恥ずべきことだ、と指摘した。

国連の役割について問われたアダムズ博士は、「国連は、世界的な死刑廃止を進めるために、間違いなくもっと積極的な役割を果たすべきだ。」と語った。

アムネスティ・インターナショナルのアグネス・カラマール事務局長は、「中東・北アフリカの国々における死刑執行の激増は、国際法違反であり、人命軽視の現れである。」と語った。

中国を除けば、明らかになっている死刑執行数の実に90%を、この地域の3か国が占めている。イランでは2021の314から22年の576人へと急増し、サウジアラビアでは21年の65人から22年の196人とほぼ3倍に増え、アムネスティの記録によると過去30年間で最多を記録した。またエジプトでは、24人が処刑された。

アムネスティ・インターナショナルによると、中国、北朝鮮、ベトナムなど、死刑を多用することで知られる国々は、死刑に関して秘密主義を貫いているため、実際の総数ははるかに高い。

中国での正確な死刑執行数は不明だが世界で最多の国であり、イラン、サウジアラビア、エジプト、米国が続いている。

一方、死刑に批判的な国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、昨年7月にミャンマー軍事政権によって行われたミャンマーの4人の政治活動家(軍政を批判する歌で知られるヒップホップ歌手のピョーゼヤトー、「ジミー」の名で知られる活動家チョーミンユ、フラミヨーアウン、アウントゥラゾー)の死刑を「強く非難し」、彼らの家族に弔意を示した。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

グテーレス事務総長の報道官は、「事務総長は、あらゆる状況下で死刑を科すことに反対しています。今回の死刑執行は、ミャンマーで1988年以来初めて行われたもので、同国における既に悲惨な人権状況がさらに悪化したことを意味します。」と語った。

報告書の中でグテーレス事務総長は、死刑の普遍的廃止に向けた傾向を確認するとともに、死刑の使用を制限し、死刑に直面する人々の権利保護を保証するセーフガードを実施するイニシアティブを強調している。

一方、アムネスティ・インターナショナルは、6カ国が死刑を完全または部分的に廃止したことから、希望の光が見えてきたと述べている。

カザフスタン、パプアニューギニア、シエラレオネ、中央アフリカ共和国はすべての犯罪で死刑を廃止し、赤道ギニアとザンビアは通常犯罪に対する死刑を廃止した。

その結果、2022年12月時点では112カ国が死刑を全廃し、9カ国が通常犯罪に対して廃止している。 

また、リベリアとガーナでは死刑廃止に向けた法的な取り組みが進み、スリランカとモルディブの当局は死刑を執行しないことを明言している。マレーシアの議会では絶対的法定刑としての死刑を廃止する法案が審議中である。

「多くの国が死刑制度と決別し続けている今こそ、他の国もそれに続くべきです。イラン、サウジアラビア、中国、北朝鮮、ベトナムなど少数派の国々は、早急に時代に追いつき、人権を守り、人ではなく正義を執行すべきです。」とカラマール事務局長は語った。

報告書は、「国連総会では、過去最多となる125カ国が死刑執行一時停止決議に賛成票を投じた。希望を感じる一方で、2022年の悲惨な数値は闘いの厳しさを物語る。アムネスティは死刑のない世界が実現するまで、死刑廃止運動を続ける。」と述べている。(原文へ

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