【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・ヴァレンテ】
アルゼンチン最高裁判所の恩赦法廃止決定により、キルチネル政権(2003-2007年)は、軍の人権犯罪に対する裁判を再開したが、その速度は遅く、係争中の案件は現在800件に及ぶ。
12月18日、モンテネロス・ゲリラ5人を拉致した罪で軍事政権の元メンバーのクリスティノ・ニコライデス(82)に懲役25年の刑が言い渡された。
また、5人の軍高官、警察署長、民間諜報員に対しても、海外亡命者誘拐の罪で懲役20-25年の刑が宣告された。元軍人に対する判決は今回が初。しかし、警察官、沿岸警備隊員に対する4件の裁判では、重要証人2人が誘拐、殺害されている。
アムネスティ・インターナショナル・アルゼンチンを始めとする人権擁護団体は、軍事独裁時代に約3万人が行方知らずになった同国には、刑務所の混雑、警察の暴力、不正、先住民族の差別といったキルチネル政権が見過ごして来た様々な人権問題が存在すると主張する。
連邦政府にはこれら問題を扱う省庁があるが余り熱心ではなく、フェルナンデス新大統領は12月10日の就任演説でこれらの問題に言及しなかった。
ブエノスアイレス州の拷問反対委員会によると、同州の刑務所では昨年だけで6千件の暴力事件が発生。毎月8人の受刑者が殺されたり重症を負ったりしているという。
フェルナンデス新大統領は裁判の迅速化を約束したが、人権擁護団体「 Madres de Plazade Mayo Linea Fundadora 」のコルティニャス代表は、高齢の犯罪者が死亡する前に人権犯罪の責任を取らせること、軍公文書を公開することを要求している。
キルチネル政権は、軍事独裁政権の拷問センターとなった海軍工兵学校を博物館にすること、軍事学校の写真ギャラリーから独裁者ヴィデラおよびビニョーネの写真を外すことを決定。最後の仕事の1つは、2006年に国連が採択した「強制的失踪防止条約」の批准であった。アルゼンチン独裁政権の人権犯罪裁判について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩