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|チェコ共和国|人権外交の原則を守るかビジネスを優先するか

【プラハIPS=パボル・ストラカンチスキー】

ダライ・ラマや投獄されたロシアのバンド「プッシー・ライオット」といった「派手な政治的大義」を追いかけるのはやめたらどうか、というチェコ首相(ペトル・ネチャス氏)からの呼びかけに対して、同国の外務省が、人権擁護は「売り物ではない」と主張し続けている。

ダライ・ラマは、チベットの宗教的・政治的指導者。プッシー・ライオットは、ウラジミール・プーチン大統領に対して批判的な歌を歌ったとして投獄されたロシアの音楽グループである。

近年の歴史においては、もっとも有名な抵抗者の一人ヴァーツラフ・ハヴェル前大統領を輩出し、人権と権威主義体制への抵抗者の擁護をビロード革命による共産体制崩壊後の外交政策の柱としてきたこの国で、首相からこうした発言が出たことに、怒りが噴出している。

 人権活動家らはペトル・ネチャス首相の発言を非難しているが、プッシー・ライオットの投獄を今年初めに批判していたカレル・シュワルツェンベルグ外相は、首相の発言について「恐るべきものだ」と述べた。

チェコ外務省は、「人権擁護は原則の問題であり売り物ではない」とする声明を発している。

しかし、財界や経済大臣は、首相発言を利用して、チェコ外交政策の再考を訴えるようになっている。活動家らは、こうした変更は誤っているだけではなく、あまりに単純なものであると批判している。

ハヴェル大統領(当時)も創設に尽力した「フォーラム2000財団」のヤクブ・クレパル氏は、「人権に関する原則的な立場は、経済的な利益と取り引きできるものではありません。首相の発言は、単純に間違っているとしか言いようがない。」と語った。

「しかし、それだけでなく、チェコ政府が外交政策や人権に関するスタンスを変えたところで、中国やロシアといった国の経済政策には何らの影響もない。こうした大国は、人口がたかだか1000万人の小国の意見によって経済政策を変えることはない。」

「チェコ共和国は人権に関する原則的な立場を長らく維持してきたが、これにも関わらず対中貿易は近年好調である。外交政策を変える必要はない。」

チェコの対中国・ロシア輸出は5%以下であり、輸出者協会は、ダライ・ラマやプッシー・ライオットを支持する外相の発言によって、チェコの輸出に悪影響はないだろうと述べている。

人権は、チェコのポスト共産主義外交政策の中心的な柱であった。ダライ・ラマを公に支持していたハヴェル前大統領を筆頭として、チェコ外交は、人権に関する強固なスタンスで知られていた。

チェコが共産主義の過去を持っていることは、人権、とりわけ少数派による抵抗への支持が、社会の中に強く根差していることを意味する。

このため、ネチャス首相の発言が、メディアや人権活動家だけではなく、思想の左右を問わず多くの政治家からの批判を招いていることは頷けることだ。

ロシア系・中国系企業も参加して行われたブルノ市での貿易フェアで、ネチャス首相は、「客観的に言って我々の輸出を阻害することになる派手な政治的言明は避けねばなりません。」と述べた。

チェコ共和国は「一つの中国」政策を支持しており、(ダライ・ラマへの)賞賛は、自由や民主主義の支持を意味しない、と首相は述べた。チベットの体制は、「半封建的、神権的な性格であり、強い権威主義的な要素を持つものであります」とも発言した。

ネチャス首相は、それ以来自らの発言を擁護し続けており、演説の後半では人権擁護を明確にしたと述べている。

しかし、人権という大義を支持することの経済的帰結について首相が疑問を呈したことで、経済界の中にも、とくに中国に対する従来の外交政策を表立って批判する傾向が出てきた。

経済・貿易の推進団体である「チェコ・中国商工会」のヤン・コフート代表は、地元の報道に対して、首相発言は「不況を乗り切る方法として、外交政策と輸出政策の関係に関する重要な公的議論の始まり」だと見なくてはならない、と述べた。

他方、ネチャス首相と同じ右派ODS党に所属するマルティン・クーバ経済相は、地元メディアに対して、政府は「チェコ共和国のある特定の国々との関係を速やかかつ真剣に考え直すべきだ。」と語った。

クーバ経済相は、「GDPに占める輸出のシェアは80%もあるわけですから、外務省は外交政策のためだけに存在し、それが輸出に依存している部分もあるという事実を尊重しないという哲学は理解できません」と発言した。

他の政治家らはこうした見解を否定し、貿易は国の繁栄にとって重要ではあるが、人権を守ることは経済的利益に常に優先されるべきものだと論じている。

前首相で次の大統領選の候補者であるヤン・フィッシャー氏は、チェコのメディアに対して、「チェコの経済的利益の推進は政府の義務の一つではあるが、世界の人権に関心を持つことが犠牲にされてはならない。ビジネスを自由に優先してはならないのです。」と語った。

しかし、人権侵害が疑われる国と付き合うときであっても、経済的利益の追求と人権擁護は相互に排他的なものではないという意見もある。

「フォーラム2000」のクレパル氏はIPSの取材に対して、「この国の歴史を知っている人なら、貿易という短期的利益のために外交政策の原則を捨て去るべきだという考えが出てきたことに驚いたと思う。私たちは、たとえ原則を曲げてまで貿易を優先しても、そこから得られる利益はきわめて短期的なものだということを理解しなければなりません。」「一方、外交政策の一翼として人権に関する原則的な立場を貫いていくことは、人権問題を抱える国と前向きに経済的関与をしていくことと両立し得るのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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