地域アフリカごみ収集人がジンバブエの気候変動大使に

ごみ収集人がジンバブエの気候変動大使に

【ハラレIPS=スタンレー・クエアンダ】

ジンバブエの首都ハラレ郊外の住宅街ハットフィールドに住むトムソン・チコウェロさんは自分の職業を恥ずかしいと思っていた。彼は自分が何をして生計を立てているか誰にも知られたくなかったので、毎日まだ日が昇らないうちに起きて、家をこっそり脱け出したものだった。

そして帰宅するのは、その日多くの家のごみ箱から集めたペットボトルいっぱいのビニール袋を運んでいる自分の姿が見られないよう、いつも日没が過ぎてからだった。

2010年に失業するまで建設作業員として勤務していた中産階級のチコウェロさんにとって、家々を回ってごみ箱からプラスチックと段ボール箱を集めて売るという仕事は、当初苦痛に思えた。しかしそんなチコウェロさんも、ひょんなことから、今ではほんの一握りの数ながら、ジンバブエの気候変動大使の一人となっている。

 気候変動の影響はジンバブエにおいても既に顕在化してきている。気象庁は、ここ数年、降雨量の減少と気温の上昇を確認しており、3月21日に発表された「気候変動対策プログラム実施に向けた国の能力を強化する」と題した政府と国連委託の研究報告書には、「この傾向が続けば、ジンバブエにおける食糧の安全と経済成長が危機に晒されるだろう。」と警告している。

 しかしジンバブエの場合、現在の廃棄物管理のあり方を工夫することによって、気候変動による影響を緩和できる可能性が十分に考えられる。国連環境計画が2010年に発表した報告書「廃棄物と気候変動」には、「他の廃棄物管理の方策と比べて、リサイクルは、廃棄物抑制策に続いて最も気候変動対策に効果がある方法であることが分ってきている。この結果は(先進国のみならず)途上国においても同様と思われる。」と記されている。

環境NGO「Environment Africa」のマルナバス・マウィレ地域部長も、「リサイクルはジンバブエにとって重要」として、UNEP報告書の内容を支持した。

マウィレ氏は、「リサイクルによって気候変動による影響をかなり緩和できると思います…もし産業界がプラスチックボトルと廃品材料をリサイクルしたとしたら、原材料からプラスチックや金属を生成するために必要なほどのエネルギーを消費する必要がなくなります。つまりリサイクルをすれば、原材料とエネルギーの消費を抑えられるため、二酸化炭素の排出量(カーボンフットプリント)を削減できることが証明されているのです。」とIPSの取材に対して語った。

米国環境保護庁(EPA)のリサイクルに関するデータ表によると、「リサイクルプラスチックを1ポンド(153.592グラム)生成するのに必要なエネルギーは、原材料からプラスチックを生成する場合の約10パーセント。」と記されている。

ジンバブエによる温室効果ガス削減量を見積もった数値はないが、英国の場合、リサイクリル活動により、年間1800万トン以上の二酸化炭素排出量が削減されている。これは乗用車177,879台分の排ガス量に相当する。

しかし多くのジンバブエ人は、気候変動の問題やその緩和努力について知らない。ジンバブエ政府も現在のところ気候変動に対処する方策を持っておらず、気候と開発知識ネットワーク(CDKN)の協力を経て、初めてとなる対策案を策定している最中である。

従って、チコウェロさんがごみからプラスチックと段ボール箱を選別・回収して販売する仕事を始めたのは、他の同業の人々の場合と同じく、失業率70%というジンバブエにあって、ただ生計を繋いでいきたいという思いからだった。彼らに収集されたプラスチックごみは、1キロあたり7ドルから10ドルの相場で買い取られている。

チコウェロさんのようなごみ収集人の数については、公式な統計がないが、ハラレ郊外でこうしてごみ収集している人々の光景は一般的なものとなっている。ハラレのムバレムシカ市場でプラスチックごみを買い上げているバイヤーたちは、IPSの取材に対して、プラスチックごみを持ち込んでくる人々の数は、毎日200名を超えていると語った。

この市場はハラレ最大のもので、一角には、リサイクル素材の買い上げを専門に行っているバイヤーの店が軒を連ねている。さらに、ハラレの工業地域で包装・リサイクルを扱っているムクンディ・プラスティクス社は、1日あたり100人以上の人々がプラスチックごみを持ち込んでいる、と語った。

リサイクルはジンバブエにとって重要な課題となっている。ジンバブエ環境管理局によると、ジンバブエは既にごみ埋め立て場の不足に直面している。

さらに2011年版「Journal of Sustainable Development in Africa」によると、ジンバブエの家庭が一日に出す固定廃棄物の量は平均2.7キロだが、そのうち生物分解性のごみは47%にとどまっている。そこで当局はごみ処理対策としてしばしば焼却処分に訴えているが、こうした措置は、環境に悪影響を及ぼすものである。こうしたジンバブエの現状を考えると、リサイクルは大変有効な対処法である。

チコウェロさんは、気候変動の問題についてや、リサイクル活動がいかにして二酸化炭素排出削減に貢献し得るかについて、プラスチックごみを買取るあるバイヤーから初めて学んだ。そのバイヤーは、チコウェロさんをはじめ多くのごみ収集人にリサイクルの利点を話しかけることで、彼らを励まし、ごみ収集の仕事を続けていってもらいたいと考えている。

「私たちは、この仕事を始めたとき、単にお金のために働いていると思っていました。また、プラスチックごみが私たちから購入されてからどうなるのかを教えてもらうまで、どうして、プラスチックボトルや段ボール箱を購入したいという人々がいるのかしら、と不思議に思っていたものでした。」とチコウェロさんは語った。バイヤーに買い取られたプラスチックボトルや段ボール箱は、地元や多国籍企業によってリサイクルされ、ソフトドリンク用プラスチックボトルやシリアルの箱が新たに製造されている。またチコウェロさんは、ごみの収集をする際にお世話になる家庭内労働者に対して、紙とプラスチックを分別するよう促すことで、ジンバブエの気候変動対策の一助になっているということに気付いていなかった。

政府と国連諸機関による委託で作成された先述の報告書によると、ジンバブエに対する評価は、気候変動による影響を緩和し適応する能力に欠けている、というものであった。

「私は(家庭内労働者に)ごみを出す際にプラスチックボトルを一般ごみから分けるようお願いしています。当初は、なかなか理解を得られず大変でしたが、時が経つとともに、顔を覚えてもらい、私がなぜごみの分別をお願いしているのかが理解いただけるようなるにつれて、仕事も少しずつやりやすくなりました。」とチコウェロさんは語った。

こうしてごみ分別という考えを受入れる家庭が増えるにつれて、チコウェロさんの仕事効率もよくなっていった。今ではごみ収集の仕事を始めた頃に比べて、より少ない時間でより多くのプラスチックごみを収集し、売上額も多くなった。

チコウェロさんは現在、ハラレ中心部のアパート50ブロックとイーストリー郊外で、プラスチックごみを回収している。

ごみ分別のメリットを訴えるチコウェロさんの訴えは、こうしたアパートの管理人の間でも急速に受入れられていった。「管理人さんたちは大変協力的で、お蔭で仕事がスムースに進みます。」と、イーストリーにあるセント・トロぺツ・アパートの壁に管理人が掲示した(紙とプラスチックを一般ごみから分別するよう住人に求めた)張り紙を指さして語った。

このアパートで家政婦として働いているイダー・ンダジラさんとタテンダ・ムンジョマさんは、IPSの取材に対して、他にも3人のごみ収集人が定期的にこの建物を回っており、彼らもチコウェラさんのように、気候変動の問題についてとリサイクルの重要性について説いていった、と述べている。

「私は当初何のことか分かりませんでした。実は、プラスチックごみの収集人が教えてくれるまで、気候変動の問題は、ここジンバブエではなく、外国で起こる問題だと思っていたのです。…今では私もこの情報を他の人々と共有するようにしています。」と、ンダジラさんは語った。

今日では、イーストリー郊外の3世帯に1軒がチコウェロさんが説く、プラスチックのリサイクル分別に協力するようになっている。そしてこのリサイクルの輪は他の世帯にも急速に広がっている。

「(ごみの分別は)今や生活様式の一部となりつつあります。だから、この運動は広がりを見せているのです。」とチコウェロさんは語った。
 
気候変動に関する国家運営委員会(National Steering Committee on Climate Change: NSCCC)のコーディネーターを務めているトディ・ンガラ博士のような立場の人でさ、チコウェロさんのようなごみ収集人の人々による努力を認めている。

「彼らの働きはまさに称賛に値するものです。彼らはこれまで街の浄化に多大な貢献をしてきました。そして今また、リサイクル産業への貢献を通じて環境の浄化を補佐しようとしているのです。」とンガラ博士はIPSの取材に対して語った。

政府の気候変動適応委員会は、ごみ収集人らに対して、助言を求めるとともに、気候変動対策の戦略を策定していくうえで、彼らを大使として活用すると約束した。

ジンバブエ環境省のイルヴィン・クネネ環境課長は、5月上旬にハラレで出席した気候変動政策会議において、「ごみ収集人を含む全ての利害関係者に対して、国家気候変動政策の策定に関して助言を求めるだろう。」と語った。

このような動きから、チコウェロさんは自分の仕事に誇りを持つようになった。

「私は自分の仕事をもはや恥ずかしいとは思っていません。」とチコウェロさんは語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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