ニュース|ラテンアメリカ|核軍縮が再び議題へ(ICNND地域会合)

|ラテンアメリカ|核軍縮が再び議題へ(ICNND地域会合)

【サンチアゴIPS=ダニエラ・エストラーダ】

この数日間、南米チリの首都は、世界的な核不拡散を推進するハイレベル会合と軍縮を目指す民衆の平和運動という、一見全く異なる、しかし目的を共有する2つの国際イニシャティブをホストする舞台となった。 

核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)は、第一回地域会合を、ラテンアメリカ社会科学協議会(FLACSO)の後援を得て、5月1日から3日にかけてサンチアゴで開催し、国際委員達は5月4日、チリのミチェル・バチェレ大統領と面会した。 

一方、4月28日には、スペイン人活動家で国際平和団体「平和と非暴力のための世界行進」のスポークスマン、ラファエル・デ・ラ・ルビア氏が、バチェレ大統領と面会した。同活動家グループは2009年10月から2010年1月にかけて90カ国、300都市を訪問する予定である。

 
デ・ラ・ルビーナ氏は記者団に対し、世界行進は10月2日にニュージーランドのウェリントンを起点に各地を回り、2010年1月2日に最終地点であるアルゼンチンのアコンカグア山麓に到達する予定であると語った。 

3か月間に亘る世界行進の総距離は、途中の諸都市で開催予定のより小規模なデモ行進を含めておよそ160万キロに及ぶ予定である。 

デ・ラ・ルビーナ氏は、「世界行進は全ての参加都市で実施予定です。ある都市では3キロ、その他の都市では7キロ、15キロといった行程が組まれています。活動家たちは、バス、船舶、電車を乗り継きながらこうした各地の平和行進をリレーしていく予定です。」と説明した。 

今回のルビーナ氏の訪問を受けて、バチェレ大統領は、「平和と非暴力のための世界行進」への支援を明確に宣言した最初の首脳となった。 

核軍縮の問題は、この数カ月の間に、国際的に新たな注目を集めるようになった。 

4月1日、26000発にも及ぶ世界の核兵器の95%を保有する米国とロシアの大統領が共同声明を発表し、両国の核兵器の削減と保有数を制限する新たな条約締結に向けた交渉を再開する旨を約束した。 

米国のオバマ大統領とロシアのメドヴェージェフ大統領は、「米ロ両国は戦略核兵器の削減と保有数の制限に関する新たな検証可能な合意を段階的に目指す」とし、まず、第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継となる新たな法的拘束力のある条約の締結に向けた交渉に入ることを発表した。 

この共同声明は、世界各地に反響を呼んだが、特に欧州議会において、大いに歓迎された。 

しかしその数日後の4月5日、従来核開発計画の存在を認めていた北朝鮮が、当局が主張するところの「実験通信衛星」を軌道に向けて打ち上げた。しかし米国及び同盟諸国は、その実態は米国アラスカ州を射程に収める能力を持った「長距離弾頭ミサイル」であったとみている。 

この事件は、核兵器保有国がさらに増加しうること、或いは核兵器がテロリストグループやならず者国家の手中に落ちるリスクが依然として存在することを国際社会が再認識する機会となった。 

政策責任者、専門家、活動家のいずれもが、米国の政権交代によって、核軍縮に向けた前進をはかる新たな可能性が開かれたと認識している。そしてそれこそ、世界行進とICNNDの両イニシャティブが共に活動の狙いとしている点である。 
ICNNDは2008年9月に世界的な核軍縮に向けた努力を再活性化する目的で、日本とオーストラリア政府が共同で立ち上げたハイレベルのイニシャティブである。ICNNDの共同議長はオーストラリアのギャレス・エバンズ外相と日本の川口順子元外相が務めている。 

 オーストラリアは世界的なウランの主要輸出国であり、一方、日本は核攻撃を経験した唯一の被爆国である(1945年に米国によって広島、長崎に原子爆弾が投下された)。 

ICNND国際委員会委員には、アーネスト・セディージョ元メキシコ大統領(1994年~2000年)、グロ・ハーレム・ブルントランド元ノルウェー首相(1981年、86年~89年、90年~96年)、ウィリアム・ペリー元米国国防長官、王英凡元中国国連常駐大使等が名を連ねている。 

ギャレス・エバンズICNND共同議長は、サンチアゴでの記者会見で、「2010年核不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けて世界的なコンセンサスを形成することに貢献するため、年末に報告書を発表する予定です。私たちは、核軍縮の分野で『政治的、道義的リーダーシップを発揮してきた』ラテンアメリカにおいて第1回の地域会合を開催することにしたのです。」と語った。 

世界で最初の非核兵器地帯は、1967年のトラテロルコ条約によってラテンアメリカ・カリブ海地域に設けられた。そして2003年にはラテンアメリカの全33ヶ国が非核兵器地帯の署名・批准国となっている(批准が遅れていたキューバは2002年10月に批准した)。その他、非核兵器地帯にはアフリカ、東南アジア、南太平洋、中央アジアがある。 

エバンズ氏は、ラテンアメリカが地域の非核化に主導的な役割を果たしてきた経緯を踏まえ、2010年5月に開催予定のNPT運用検討会議における議論で、ラテンアメリカ諸国がより積極的な役割を果たすことを大いに期待していると語った。 


2010年NPT運用検討会議に向けた第3回準備委員会が5月4日から15日の日程でニューヨークの国連本部にて開催されている。 

NPTは中国、フランス、ロシア、英国、米国の5カ国に対してのみ、核兵器保有国としての地位を認めている。これらの5カ国は、NPTが署名のため解放された1968年段階で核保有能力を有していた国々であり、一方で、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。 

現在189カ国が加盟しているNPTの狙いは、核兵器と核開発技術の拡散防止、核エネルギーの平和的利用に関する国際協力の促進、そして核軍縮の推進である。 

しかし今日では核兵器を保有する国々(核クラブ)にはインド、パキスタン、イスラエルが新たに加わり、北朝鮮も核兵器を保有していると広く考えられている。また、イランには核兵器開発を積極的に進めているとの疑惑が向けられている。 

エバンズICNND共同議長は、IPSの取材に対し、「2010年NPT運用検討会議では条約のいくつかの側面、特に条約の順守を保証するための検証プロセスを強化しなければならない。もしある国が条約の規範に反した行動を行っている場合、当該国を国連安全保障理事会の審議にかけ、迅速な対応をとれる適切なメカニズムが必要である。」と語った。 

エバンズ氏はまた、国際原子力機関(IAEA)への支援を拡大し機能強化を図ることの重要性を訴えた。 

エバンス氏は、核軍縮・不拡散・原子力平和利用の促進という3つの課題について、それらを隔てる境界線は不明確であり、従って相互に関連性を持って対処すべきだと考えている。「核軍縮に真剣に取り組むことなく、核不拡散の分野で大きな前進を成し遂げることは不可能です。」と述べ、NPT運用検討会議においては核保有国に核軍縮に対する真剣な取り組みを約束させることの重要性を強調した。 

ICNNDは、向う4年間の短期目標として、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准・発行及びジュネーブにおける兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉妥結を目指している。 

「イランと北朝鮮に関する特定の問題についても問題解決を図っていくことが重要です。」とエバンズ氏は語った。 
元オーストラリア外相のエバンズ氏はこの4年間の短期目標が「大変野心的」なものである点は認めつつも、「米国新政権が創出した(核軍縮に向けた)新たな政治潮流を考えれば、もっと多くのことを成し遂げることができると思う。」と語った。 

ICNNDは、2025年までに世界の核兵器を最小限のレベルまで削減させることを目指している。 

核兵器保有国を順次訪問してきたエバンズ氏は、各国がICNNDに対して強い支持を表明していることについて、「ICNNDの前にも様々な委員会や報告書が存在してきたことを考えれば大変興味深い」と語った。 

またエバンズ氏は、「もしICNND国際委員会が、各国の政治・安全保障上の実情を踏まえ、(核廃絶という)崇高なビジョンについての抽象的な表現に留まることなく、具体的な日付、目標、行動計画を盛り込んだ実用的かつ現実的な報告書を作成することができれば、このイニシャティブはかなり影響力を持ったものとなるだろう」と語った。 

「核軍縮の問題は複雑かつ困難な問題です。問題解決に向けた前進を図るには3方向からの圧力が不可欠となります。」とエバンズ氏は言う。 

「まず一つ目は上からの圧力。すなわち世界に存在する核兵器の95%を所有している米ロ両国が核軍縮に向けたリーダーシップを発揮することが全ての前提となります。これなくしては核軍縮の前進はありえないからです。」と強調した。


「そして2つ目はラテンアメリカ諸国を含む米ロ以外の世界各国政府からの圧力。核軍縮を進めていくためにはこれらの政府が果たす役割は重要です。」と付け加えた。 

「そして3つ目は下からの圧力。すなわち市民社会組織や非政府組織(NGO)からの核軍縮に向けた活動が重要なメッセージを国際社会に送ることになるのです。」と語った。(2009) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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