地域アジア・太平洋分極化したアジア太平洋において、民主主義はクラブではなく目標であるべき

分極化したアジア太平洋において、民主主義はクラブではなく目標であるべき

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年2月14日に「East Asia Forum」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ダン・スレーター】

分極化が米国を分断している。ドナルド・トランプ前米国大統領のもとで、分極化は米国の民主主義をほとんどズタズタに引き裂いた。

しかし、米国の内部が分極化しただけではない。太平洋の分極化にも直面している。中国との関係は、トランプ政権の数年間の後、国交正常化以来最悪の状態に達している。その間、トランプと習近平中国国家主席は揃って、強力な国家指導者としての個人崇拝を広めようとしていた。(原文へ 

ジョー・バイデン米国大統領は、政権の成功を国内の分極化の緩和に結び付けているが、皮肉なことに、トランプの退任によって海外の分極化が悪化する恐れがある。

トランプの在任期間中、現政権ゆえの制約によって、共和党の強硬な対中姿勢が少なくともギリギリのところで抑えられていたことはほぼ間違いない。米中関係が完全崩壊すれば、共和党政権に大混乱を引き起こすリスクがあったからである。野党となった今、共和党はもはやそれを抑える責任はない。

バイデンは、国内の結束を重視するあまり、意図しないこととはいえ、中国との関係を急激に悪化させる状況に陥る恐れがある。民主党と共和党の合意がほとんど何もないなかで、中国の脅威については意見が一致しつつある。国外の共通の敵は、国内の分極化をやわらげる役割を果たす。

中国に対する共和党の敵意がピッチを上げれば、バイデンは後れを取ってはいけないというプレッシャーを感じるかもしれない。第1に、「中国に甘い」、あるいは習政権下で悪化が進む中国の人権状況に寛容すぎるという批判から脇を守るためである。第2に、民主党と共和党がなおも団結できる問題が少なくとも一つできるからである。

容赦なく世界に広がる新型コロナウィルス感染症や気候変動がはっきり提示していることは、米国や中国のような大国同士の協調的行動がかつてないほど重要になっているということである。しかし、それは、かつてないほど実現しにくくなっているようだ。

環太平洋政治のあらゆる複雑性は、エスカレートする米中対立へと平板化されつつある。国内の分極化がいずれの極にも共鳴しない人々を周縁化するのと同じように、太平洋の分極化は、北東アジアと東南アジアの主要国の利害さえ脇に追いやるような状況をもたらしている。

近頃ミャンマーで起きたクーデターのように看過できないほど重大な出来事が発生したときですら、この平板化は顕著である。ミャンマーの安定における米中の共通の利益やこの国の複雑な歴史を理解しようとするのではなく、議論はたちどころに、影響力を奪い合うゼロサム対立を示すものへと発展していく。

米中間の“新たな冷戦”を警告する者は、実はリスクを過小評価している。1930年代に悪化の一途をたどった日米関係は、1950年代の米ソ関係よりも今の状況に近い。当時も、現在と同じようにアジアの新興勢力が米国の覇権を試し、その支配に異議を唱えた。今回もまた、対抗する両陣営の対応は、時が経つにつれてますます不適切なものになっている。

日本の類似性がソ連の類似性を上回る理由として、よりダークな事情もある。この4年間は、米国の政治情勢において人種差別が中心的役割を果たしていることを思い起こさせるものだった。ジョン・ダワーが指摘したように、太平洋における第二次世界大戦は人種戦争でもあった。分極化が最悪の面を見せるのは、それが憎悪感情を掻き立てる時であり、人種差別ほど憎悪感情を激しく招くものはない。

米中関係が分極化するほど、反中感情は臭気漂う煙を吐く。米中対立がただちにもたらす最も大きなリスクは、アジア系アメリカ人や在米アジア人に対する攻撃の増加である。

また、国際政治も分極化して民主主義と専制主義の世界的対立へと発展し、米国と中国が両陣営の先頭に立つ可能性もある。

このような見方は、根拠のない対立を煽るだけでなく、世界の民主主義を牽引するリーダーとしての米国の資質を誇張するものである。米国民主主義のもっかの使命は、先導することではなく存続することである。米国の経験は、民主主義(民主主義例外論ではなく)を維持・拡大するための終わりなき戦いである。

また、専制政治は中国の変えられない運命でもない。習近平が退いた後、中国共産党がその統治課題を解決し、戦略的な民主主義改革によって党の活性化を図るかもしれないという希望を捨てる必要はない。それは、1980年代に台湾と韓国の権威主義的政党が成し遂げたことである。

しかし、米国率いる民主主義陣営が、中国率いる専制国家群に対して壮大な道徳的戦いを挑んでいるという風に国際政治を描けば、民主主義は中国の国民にとっていっそう不快なものとなるだろう。民主主義は、排他的なクラブに入会するステータスマーカーとしてではなく、普遍的な価値や実践として表現されるとき、その魅力を最も発揮するのである。

米国はアジアの同盟国に対し、疎遠だった4年間の後、再び注力しつつあり、それは適切なことである。しかしながら、これらの同盟国をライバルクラブ打倒に向けて頑張るクラブのように位置付けることは、代償をもたらす。それは、短期的には分極化を深刻化させ、長期的には中国を含むアジア全域を民主化するという目標の達成をいっそう困難にする。

ダン・スレーターは、ミシガン大学で政治学教授およびワイザー新興民主主義センター(Weiser Center for Emerging Democracies/WCED)所長を務める。また、カーネギー国際平和基金の非滞在型フェローでもある。

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