【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス】
2022年12月、ザンビアのヌドラ空港入国管理局が8人のクロアチア人を児童人身売買と文書偽造の容疑で逮捕したとのニュースが伝わり、クロアチア当局関係者がこれに関与したのではないかとの疑いが持ちあがった。
当初は、コンゴ民主共和国出身の児童の養子縁組に関する文書の真実性が疑われた。と言うのも、2017年以来、同国の児童を国境を越えて養子にすることは法的に禁じられているからだ。逮捕された容疑者は児童人身売買未遂によって訴追され、ザンビア最高裁で審理が間もなく開かれる。
養子縁組に関わる文書の偽造に関わったとされるコンゴの弁護士もあわせて逮捕されており、すべて違法と知りつつ行ったとの容疑を認めている。
ザンビアのディクソン・マテンボ内務大臣は3月21日、数ヶ月の沈黙を破り、「強制的失踪に関する国連委員会」の場で初めて待望の情報を確認した。
児童人身売買未遂容疑で12月にザンビアで逮捕された8人のクロアチア人は、偽の養子縁組書類に基づいて入手した旅行書類を使用していた。また、ザンビア政府は「正式なクロアチア国民」となった子供たちを母国コンゴ民主共和国に送還したいとの意向を持っている。
資源豊かなコンゴ民主共和国は1998年以来続く紛争によって混乱状態に陥っている。紛争によって500万人以上が亡くなり、100万人がHIVに感染している。これによって70万人以上の孤児が残された。しかし、新たな家族法制が制定された2017年以来、外国人が同国の子どもを養子縁組することは法的に禁じられている。
コンゴ民主共和国で作成されクロアチアの裁判所に提出された(IDNも確認した)偽造文書によって、元の文書の真正性を確認しないまま養子縁組が認定されていた。つまり、コンゴから届いた養子縁組に関する虚偽の判決がクロアチアで認められ公式なものとなっていたのだ。
これらを基礎としてこの児童らが登録され、内務省がビザを発行することになる。そののち、児童らはザンビアを通じてクロアチアに送られることになっていた。
児童の権利と養子縁組の専門家であるローリー・ポスト氏は、「このようなケースでは標準的な手続きである外交ルートを通じて書類が届かなかったため、養子縁組の信憑性そのものが疑われる状況にあった。」と語った。
「養子を取る親に一度も会ったことがないか、あるいは、クロアチアに一度も行ったことのない子どもに関して、受入国でビザを発行することはクロアチア内務省では通常行っていない。」
社会福祉家族省の広報は、(コンゴ民主共和国のように)ハーグ条約の署名国でない国からの国際養子縁組に関して同省は監督権限を持っていない、と主張した。
この10年間でクロアチアの裁判所が何人の児童の国際養子縁組を認めたのかは不明だ。内務省は94人の子どもに関してビザを出したが、社会福祉家族省のマリン・ピレチッチの報道声明によると、131人のコンゴ民主共和国出身の子どもが養子になったという。両者の数字は合わず、IDNが匿名の情報源から得た情報によると、クロアチアの家族の一員になったはずの残り37人の子どもたちの行方がわからなくなっているという。
新たに創設された「コンゴ民主共和国の国際養子縁組里親協会・クロアチア」のデータによると、104人に加えて4人の子どもが、クロアチア外に住む3家族へと里子に出されたという。国土安全保障省では正確な数を把握しておらず、子どもの行方も、現在どのような状況で暮らしているのかもわからない。クロアチア当局は自国出身の児童に対してはこのような粗雑な扱いはしないだろう。
信頼できる情報筋がIDNに語ったところによると「子ども一人当たりの値段は1万5000~4万ユーロ。子どもの養子縁組を媒介する孤児院のオーナーであるエマニュエル・コバンゴ氏は、子供1人につきおよそ1万ドルを請求する。また、弁護士や裁判の通訳、移動・宿泊費など別の費用もかかり、結局コストは1万5000ユーロから4万ユーロとなる。」という。
里親自身がIDNに語ったところによると、クロアチアの都市ズラタルの裁判官は賄賂をもらって養子縁組を承認したという。
IDNは、法的枠組みからこの問題を検討している家族法の専門家ドゥブラフカ・フラバル教授に、文書や裁判所の決定が欠如している問題について見解を問うた。
「このような行為は、刑事上の犯罪とは言えないにしても、懲罰の対象にはなる。捜査中に証拠を隠したり、証人に影響を与えたりする可能性を減らすために、彼らは職務から外されるべきだった。しかし、重要な問題は、クロアチアでは何の捜査も行われていないという点だ。」とフラバル教授は警告した。
「外国の裁判所の決定を右から左に承認するだけの行為は正当化できない。電子的記録だけではなく紙の形態でも記録が残されるべきなのだから、『記録が残っていない』は通用しない。裁判所の決定はそれぞれ別のものとして記録され、50年間は保存されるべきだ。」
「法的推論は裁判所の決定の不可欠の要素で、すべての裁判官が提示しないといけないものだ。このような判決文に何も説明が書かれていないのはどうしてか。」とフラバル氏は疑問を呈した
コンゴ民主共和国から到着したとみられる児童を迎えるためにクロアチアから里親がザンビアに来た際ですら、支払いは続いている。里親がホテルの部屋につくと、子どもを連れて行く前にさらなる書類の準備が必要だという口実の下に、里親と子ども双方から渡航用の文書を取り上げてしまう。
そこまでに多額の支払いを済ませてしまっているから、今さら断るわけにもいかない。そののち、同じ人物らが戻ってきて、さらなる文書準備のための金を請求するが、たいていは約2000ドルかかる。状況を目撃したことのある人物は「詐取は非常に巧妙な形で行われる」と話す。違法な養子縁組の手続きを経験したことのあるクロアチアの人物は匿名で、渡航用の文書を取り上げられているから「帰りようがなかった」と語った。
こうした行為は、5月26日にザンビアのヌドラ空港でクロアチア人を逮捕した警察官の裁判での証言でも裏付けられた。彼らは、コンゴの児童の人身売買の黒幕であったと検察が主張するスティーブ・ムリジャ氏は、コンゴ民主共和国の孤児院からザンビアまで児童を連れてくるのに一人当たり2040ドルを要求していたと証言した。この警察官はさらに、起訴されたクロアチア人の一人と、児童の出身地であるコンゴの孤児院を運営してたエマニュエル・コボング氏と共謀していたスティーブ・ムリジャ氏との間で、アプリ「ワッツアップ」を通じたやり取りがなされていたと証言した。
子どもの権利とルーマニアからの違法養子縁組の問題のパイオニアとして欧州委員会で20年以上も働いてきたオランダ人専門家ローリー・ポスト氏は、国際養子縁組のメカニズムを熟知している。彼女はまた『ルーマニア:輸出のみの国』と題する書籍の著者でもあり、「国際『養子縁組店ストアー』がルーマニアでの活動を閉鎖した後、コンゴ民主共和国に移ってきた。」と指摘した。
「これは国連の子どもの権利条約に違反しているだけではなく、今回のように注文・支払い・配達という手順を踏んでいるなら、まぎれもなく人身売買に他ならない。人間を売り買いするのは禁じられている。腐敗した養子縁組の慣行は子どもの権利とは何の関係もなく、ただ市場の需要に応えているだけだ。」とポスト氏は強調した。
表面上は利他的な行為であり、単に子どもを貰い受けているだけと里親側では考えるかもしれないが、それが媒介人側の手口なのだ。より深く事態を眺めてみると、養子縁組産業は、実際には孤児ではない「孤児」から搾取しようと手ぐすねを引いている者ばかりである。これが、コンゴ民主共和国の子どもたちに起こったことだ。
(匿名を希望した)一部の里親はIDNの取材に対して、コンゴ民主共和国にいる子どもの実の親たちから定期的に連絡を受けていたから、子どもが誘拐されてきたとは思わなかった、と話している。しかし、このケースにおいては、子どもの実の親だと主張する人物らがクロアチアの里親に対して金を請求しており、いわば精神的なゆすりのような状況になっている。
ポスト氏は、マフィア(つまり組織犯罪勢力)が国際養子縁組の媒介者の背後にいるとし、「このクロアチアのケースの偽造文書に加えて、里親になりたいという西側諸国の人々の要望に応えるために親から無理やりに引きはがされた子どもたちのケースもある。」と指摘した。
ポスト氏は、「同じ人物らがこの産業で暗躍しており、同時期に複数の国で活動している。」と指摘した。彼女によると、これはいわばサーカス一座のようなものだ。仲買人たちは「店」を構え、捕まれば別の国へ行き、そこで店を開く。この産業で創出されている商品は子どもだ。消費者が望むのであれば、子ども達は地球の裏側のまったく違った文化の国にでも連れて行かれる。
クロアチア政府に捜査の意思がないことは、公務員がこの組織犯罪に加わっており、それを隠蔽しようとの圧力が働いていることを示唆している。クロアチアは昨年、強制的失踪に関する条約を批准しており、国連人権高等弁務官事務所の強制失踪委員会(CED)がこの問題を管轄している。(原文へ)
注:法手続きが進行している関係上、多くの関係者が本件の報道にあたって匿名を希望した。
※この件が報道されたのち、ザンビアの裁判官が6月1日にクロアチアの4組の夫婦に無罪を言い渡したと報じられた。彼らは児童人身売買の容疑で半年近く収監されていた。首都ルサカ北方にあるヌドラの裁判所でメアリー・ムランダ裁判官は、この8人に対する「訴追には十分な証拠が得られなかった。したがって無罪を言い渡す」と述べた(AFP通信による)。違法な養子縁組に関する捜査はクロアチアと欧州各国で続けられることになる。
INPS Japan
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