【ローマIDN=バレンティーナ・ガスバッリ】
信仰と宗教が国内と国家間において平和的かつ調和的な関係をもたらすうえで重要な役割を果たすとの認識が世界的に高まりつつある。
半世紀以上にわたって、国連や欧州連合、そして多くの国際・地域機構が信教の自由の原則を確認してきた。またジャーナリストや人権擁護団体が、多くの国における少数派宗教への迫害や宗派間暴力の勃発、宗教を信奉する個人・集団に対する差別行為について報じてきた。
しかし、今までのところ、信仰と宗教が国際社会や各国の社会福祉や政策に与えるプラスの影響について評価した定量的な研究は数えるほどしかない。
ピュー・リサーチ・センターの「宗教と国民生活に関するピュー・フォーラム」が1月に発表した調査報告書では、世界の人口の約76%にあたる53億人が、信仰や信条の自由に対する「高度な」、あるいは「極めて高度な」規制の下で暮らしていることが明らかにされている。そしてそうした規制の一部は、政府の行動や政策、法律によるものである。
例えば、政府による特定宗教の禁止や、改宗の禁止、布教の制限、特定の宗教集団に対する好意的取扱いが挙げられる。178カ国(世界の90%)において、宗教集団がさまざまな理由のために政府への登録を義務付けられている。そして117か国(59%)において、こうした登録制度が、特定の信仰に対する大きな問題や直接的な差別を招く原因となっている。
その他の規制としては、個人や民間団体、社会集団からの敵対的な行為によって生じるもの、つまり、暴動や宗派間暴力、宗教的な理由で身に着けている服装を巡る嫌がらせ、その他の宗教に関連した脅迫などがある。
ひとつの例は、多数派の宗教に対して攻撃的あるいは脅威とみなされるような少数派宗教の行為に対して、個人や民間団体が排撃する場合だ。少数派宗教を狙った襲撃事件は2012年には世界の47%の国で報告されているが、これは2011年の38%、同報告書の基準年の24%よりも上昇している。
例えばリビアでは2012年12月、ミスラタ市のコプト正教会に対する暴力行為で2人の信者が殺害されている。米国務省によれば、この事件は、2011年の革命以後、特定の教会を狙い撃ちにした初めての襲撃事件であった。
エジプトでは、コプト派キリスト教集団への襲撃が年間を通じて拡大した。中国では、仏教の僧や尼僧、一般信徒が、焼身自殺を図ることで、チベットに対する政府の政策に異議申し立てをしている。またナイジェリアでは、イスラム過激派武装集団「ボコ・ハラム」による襲撃など、イスラム教徒とキリスト教徒間の暴力が増えている。ビルマ(ミャンマー)のアラカン州では、イスラム教徒のロヒンギャと仏教徒との間の暴力によって数百人が死亡し、10万人以上が住まいを追われている。
報告書によれば、宗教に対する規制が絡んだ、「高度な」あるいは「極めて高度な」社会対立を経験した国の割合は、2012年に6年ぶりのピークを迎えている。
最も高いレベルの規制は、サウジアラビアやパキスタン、イランといった国でみられる。これらの国では、政府や社会全体が、宗教的な信条や活動に対してさまざまな制限を加えている。しかし、政府の政策と社会内の敵対が常に相前後して進むわけではない。例えばベトナムや中国では、政府による宗教の規制は厳しいが、社会内部の敵対という点では中程度あるいは低程度なのである。ナイジェリアとバングラデシュはこの逆のパターンで、社会的敵対の程度は高いが、政府による規制は中程度である。
すべての宗教の中では、中東・北アフリカにおいて、政府・社会による最も程度の高い宗教への規制がみられた。他方、アメリカ大陸では両方の点で最も規制的な動きが少ない。世界の国のうち人口の多い上位25か国では、イランやエジプト、インドネシア、パキスタン、インドが、政府や社会による規制を考慮に入れると、最も規制が厳しい。他方、ブラジルや日本、米国、イタリア、南アフリカ、英国は最も規制が少ない。
信教の自由と経済活動
「宗教的市場理論」が示すように、宗教を基盤にしたアプローチは経済成長をより加速することになるだろうか。「信仰の自由&ビジネス財団」のブライアン・グリム会長は、いくつかの理由を挙げて、信仰の自由がなぜ経済活動にとって望ましいかを説明している。
第一に、信仰の自由は、報告書によれば世界の84%の人々が支持しているものを保護することによって互いに尊重し合う価値観を涵養することになる。信仰の自由によって、宗教を信じていようとなかろうと、人々には、社会の中で声を上げる平等の権利と機会が与えられることになる。
第二に、信仰の自由は、持続可能な経済発展に対する主要な阻害要素である腐敗を抑制する効果がある。例えば、宗教に負荷を加える法律や慣行は、高いレベルの腐敗と関係していることが研究によって明らかにされている。これは、ピュー・リサーチ・センターの分析と、トランスペアレンシー・インターナショナルによる「2011年腐敗認知指標」を単純に比較することによって裏付けることができる。最も腐敗した10か国のうち8か国において、信教の自由に対する政府の規制は、「厳しい」か、「きわめて厳しい」ものであった。
第三に、信仰の自由は、宗教関連の暴力と紛争を抑えることで平和を生むことが実証されている。逆に、宗教的敵対と制限は、現地および外国投資を逃避させ、持続可能な開発を阻害し、経済の大規模な部門を混乱に陥れるような環境を作ってしまう。一連の宗教規制と紛争の影響で国の主要産業である観光業が深刻な打撃を受けているエジプトがこのようなケースに当てはまる。
第四に、信仰の自由は、積極的な社会経済的発展に貢献する広範な自由を促す効果がある。例えば、経済学者でノーベル賞受賞者のアマルティア・セン氏は、社会の発展には「不自由」の源を取り除く必要があると論じている。信仰の自由への阻害要因を取り除くことは、他の種類の自由も促進することとなるのである。
第五に、信仰の自由は経済を発展させる。宗教集団が自由で競争的な環境で活動するときには、宗教が各国の人間開発や社会的発展において目に見える役割を果たすことができる。
第六に、信仰の自由は、経済活動を直接的に制限ないし阻害するようなある種の制限を伴う過剰な宗教規制を克服する。宗教への規制度が「特に高い」一部のイスラム教が主流の国々の例は、信仰の自由が存在しないことがいかに経済業績に悪影響を及ぼすかを示している。
経済的自由に影響を及ぼしている直接的な宗教的規制の一つにイスラム金融がある。例えば、イスラム金融商品の発明や購入、売却にかかわるビジネスは、あるイスラム法(シャリーア)学者委員会が特定の商品を容認する一方で別のものは認めないという状況に直面することがある。つまり特定の金融商品が株式市場で容認されるかどうかは、シャリーアの解釈いかんにかかっているのである。
そして第7に、信仰の自由は信頼を増幅する効果がある。会社の中で信仰の自由が尊重されれば、会社の最終収益にも直接的にプラスの効果を及ぼすこととなる。例えば、コストが下がり、士気は上がるのである。コスト低下の例としては、会社が訴訟で責任を取らされるリスクが低くなるということが挙げられる。さらに、ビジネスパートナーや投資家、消費者といったビジネスの重要な利害関係者や、近年ますます増えている倫理面に敏感な消費者は、人権問題に取り組む会社を好んで選択する傾向にある。実際、人権に敏感な会社を消費者や政府が優先することで、そうした企業は競争市場で優位に立ち、価格を上乗せしたり選択的契約を取ったりできるようになる。
ピュー・リサーチ・センターの分析は、宗教的市場理論をそれとなく適用したものであり、実体経済の文脈における主要な意味合いを浮き彫りにしている。実際、宗教的市場があらゆる経済に存在する中で、それが政府の他の公的部門からの規制に晒されるようになると、社会対立も増加する傾向にある。信仰の自由の程度は、過去5年間の国内総生産(GDP)平均成長率や価格・金融政策の安定性と並ぶ三大要素として、国の経済的成功を測定する決定要因となっている。
上記の調査は、世界経済フォーラムの第10の指標、つまり国の競争力(とりわけ教育制度、インフラ、通信、労働市場の効率性を通じたもの)を適用することで、宗教・信仰の自由が保障され、宗教に伴う社会的敵対が抑えられている時に、これらの指標がよりよいパフォーマンスをもたらすことを明らかにしている。
中国とブラジル
興味深い比較が、中国やブラジルといった国々における宗教とビジネスの関係を解き明かしてくれるかもしれない。これらの国々は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国から成るBRICSとして一般には知られているが、経済開発、社会開発、文化開発に対してのアプローチはさまざまである。
過去50年以上にわたって、中国政府は信仰の自由や思想の自由に対して最も厳しい規制を敷いてきた。1960年代の文化大革命のときにはすべての宗教が抑圧され、宗教を信じているとみなされた人間は殴打されたりその他の嫌がらせを受けたりした。ピュー・リサーチ・センターの研究では、今日、中国国民の半分以上が何らかの宗教を信仰しているが、公式・非公式の数多くの規制が依然として課されている。しかし、中国には世界で最大の仏教信者がおり、キリスト教徒人口では世界第7位、ムスリム人口では世界第17位である。
他方、ブラジルはビジネスに対する熱意が非常に強い新興経済国である。ピュー・リサーチ・センターの調査によって、宗教への規制や社会的敵対を弱めようとする努力をしている世界の76%の国々の中に、ブラジルも入っている。例えば、2012年1月15日、ジルマ・ルセフ大統領が、ホロコーストや反ユダヤ主義、その他のユダヤ関連の項目、さらには人種差別主義や外国人排斥、不寛容の問題を一部の学校や大学、教育機関のカリキュラムに盛り込むことを含めた合意を承認した。
信仰の自由に対するそうした支持表明のもうひとつの例は、ブラジル経済の中枢で西半球最大の人口2000万人を擁するサンパウロ市当局が今春、5月25日を「信教の自由の日」と定めると発表したことである。この発表は、カトリック大司教区や主要政治家、著名人など約3万人が参加した宗教横断的な「信教の自由フェスティバル」にあわせて行われた。(原文へ)
INPS Japan
関連記事: