SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)国際法は民族紛争を減らす強力なツール

国際法は民族紛争を減らす強力なツール

【ルンド(スウェーデン)IDN-INPS=ジョナサン・パワー】

ソマリアやザイール、ルワンダ、東ティモール、旧ユーゴスラビアなどの国々で1990年代に勃発した分離主義的民族紛争についてコメントしたウォーレン・クリストファー米国務長官が、「これはいったいいつ終わるのだろうか? (世界の国々の数が)5000カ国になれば終わるのだろうか?」と問うたのは、それほど昔のことではない。

しかしこの見解は誤ったものであった。分離主義的な戦争は、現実には、その後急速に減っていったのだ。マイノリティーの人々はもはや、以前と同じようなペースで、自らの領土を求めて闘ってはいない。1993年以来、民族自決を掲げた戦争の数は半数になった。

かつては民族紛争が勃発する兆しが見られたが現在は状況が大幅に改善している国々の数は少なくない。バルト三国の民族主義者らは国内少数派のロシア系住民に対する扱いを穏健化させている。スロバキアやルーマニアのハンガリー系住民はもはや、かつてのような脅威に晒されてはいない。長い戦争を経て、クロアチアは少数民族を尊重するようになった。インドの中央政府とミゾ族との間の紛争や、モルドバの少数民族ガガウズ人の問題、バングラデシュ・チッタゴン丘陵地帯のチャクマ民族集団の問題は、すべて沈静化している。ロシアの最も重要だがほとんど知られていない成果の一つに、タタールスタンバシキリア、その他40の地域で平和裏に権力共有協定を結んできた事実がある。

一方、依然として民族紛争が燻っている国々の事例を挙げると、上記の沈静化した事例と同じくらいの数にのぼるが、この数年における国際動向から見てとれる教訓は以下の点にまとめることができるだろう。つまり、①民族紛争の種は無限にあるわけではないということ。②数年前の超悲観主義は誤解に基づいたものだったということ。③人類は、多数派が少数派のアイデンティティを尊重し十分な自決権を付与すれば、手にするものが少なくても問題を解決に導けるということ、である。

Peoples under Threat 2017: Killings in the no-access zone

にもかかわらず、英国に本拠を置く「マイノリティの権利グループ」が発表した最新報告書『危機に晒される人々』が明らかにするように、自己満足に浸っている暇はない。この年次報告書は、どの国で最悪の民族紛争が起こっているか、他国と比較したその国の状況が前年からどのくらい変化したかを指標にして公表している。

イエメンは、今年の指標で急激に順位を上昇させた国だ。狭い範囲での武装蜂起が、外部からの介入によって、スンニ派・シーア派間の地域全体を巻き込んだ宗派紛争に展開していった。民間人の死者の多くは、米国や英国が提供した武器によってサウジアラビアが行った空爆によるものだった。

「大きく順位を上げた」国々の3分の2はアフリカに位置している。ナイジェリア、ブルンジ、エリトリア、ウガンダ、カメルーン、モザンビークがそうだ。残りの3分の1は、トルコ、パプアニューギニア、バングラデシュである。昨年のリストの上位にあったのは、ウクライナ、エジプト、北朝鮮、ベネズエラであった。

これらの国々は「大きく順位を上げて」はいるが、必ずしも最悪の被害と死者数が出ているわけではない。最悪の被害と死者がでている国々のうち7割はアフリカではない。

容易に想像がつくように、死者数ではシリアが1位である。被害の大きさの順で言うと、これにソマリア、イラク、スーダン、アフガニスタン、南スーダン、イエメン、パキスタン、ミャンマー、リビア、ナイジェリアが続く。

国連難民高等弁務官は6月、一部の国が同機関のスタッフの入国を拒んだことに警告を発したことを明らかにした。国々は、「入国禁止」を言い渡すためにあらゆる口実を見つけようとする。「[入国許可を求める]特定の要請に対して、意図的に複雑で非合理に長い協議と対応を行うことで、国連を欺き、現実的で現地の状況に根差した、事実に基づいた評価に対して不適切な代替案を示そうとしている。」

Minority Rights Group
Minority Rights Group

キューバは、10年にわたって国連からのあらゆる要請を拒絶していたが、国連報告官の入国を今年初めについに認めた。ナイジェリアは、入国要請に対して少なくとも14回は対応しなかった。

現在、国際司法裁判所(ICC)が戦争犯罪の訴追にあたっている。全ての欧州諸国を含む世界の国々の圧倒的多数は、既にICC規程を批准しているが、インドやサウジアラビア、ロシア、中国は未批准だ。ICCは、連携している裁判所とともに、民族紛争に責任があると判断された戦争犯罪の訴追を追求している。

これは、国際法の発展における大きな一歩だ。しかし、あくまで既遂の犯罪しか裁けないのが同裁判所の弱点だ。必要なのは、民族紛争裁判所だと私は考える。

たとえば、ミャンマーのロヒンギャが現在直面しているように、民族集団が脅威を受けていると感じたならば、この裁判所に対して訴え出て、裁判所は両者を召喚する権利を持つ。ある主体が裁判所への出廷を拒んだなら、国連安全保障理事会に付託され、同理事会は制裁を命じたり、場合によっては逮捕を命じたりすることも可能だ。

同裁判所は、現場で状況を調査したり、決定を下したりする。ある国家が残虐な行いをしたとか、あるいは民族集団が暴力的に相手を挑発したなどの認定を行うこともできる。ここでもまた、状況がより良い方向に変わらないならば、制裁や逮捕がこれに続くこともありうる。

今日のシリアにおいてそうであるように、同裁判所や安保理が無視される状況も間違いなくあるであろう。しかし、悪い状況が早期に認識されたならば、紛争を避けることができる。

国際法は明確に適用された際には、強力なツールとなることを過小評価するべきではない。(原文へ

INPS Japan

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