ニュースアサド政権後を見据えるイラン

アサド政権後を見据えるイラン

【ワシントンIPS=バーバラ・スラヴィン】

イランは、バシャール・アサド政権が崩壊した場合でもシリアとの重要な同盟関係を維持しようと、反体制派へのアプローチを試みている。

これまでのところ、イラン政府関係者が、「民主的変革のための全国調整委員会」(NCC)のメンバーと少なくとも2度会合している。首都ダマスカスに本拠を置くNCCは、外国勢力の干渉に反対するとともに、国内改革を通じて9カ月に亘る危機を解消すべきと訴えている。

 新アメリカ財団と中東研究所に所属し、シリアとアラブの民主運動を専門とするランダ・スリム氏は、「イランは、チュニジアのイスラム指導者ラーシド・アルガンヌシ師を通じて、シリア国外に本拠を構える「国民評議会」(SNC)のメンバーにもアプローチをかけています。ただし現時点では、SNCはイランからの誘いに応じていません。」と語った。

1979年のイラン・イスラム革命後、シリアはアラブ世界で唯一同盟関係を維持してきた国であるだけに、アサド政権に対する民衆蜂起は、イランにとっても深刻な危機である。

またシリアは、イランがレバノンのヒズボラ(主なアラブ人シーア派同盟勢力)支援の中継路として、さらにはアラブ-イスラエル和平交渉に反対しイスラエルに対する武力闘争を是認する所謂「抵抗運動勢力の枢軸」の重要な構成メンバーである。

スミソニアンセンター(ワシントンDC)のレバノン・シリア専門家であるモナ・ヤコウビアン氏は、12月7日にアトランティック・カウンシルで開催されたパネルディスカッションにおいて「シリアは、枢軸に参加している唯一のアラブ国家として、地理的な意味合いに止まらず、イデオロギーの側面においても、アラブ世界との架け橋としての重要な役割を果たしてきました。」と語った。

一方、ハマス(ダマスカスに本部を置くスンニ派イスラム勢力)は、同じイスラム活動家を残虐に弾圧しているシリア政権を支援していると見られないようにするため、あえてアサド政権と距離を置いたスタンスをとっている。

もしハマスとアサド大統領が脱落するようなことがあれば、「抵抗戦線」に残るメンバーはイランとヒズボラのみということになり、彼らが従来主張してきた「全アラブ人の権利を擁護する」という看板も失われることになるだろう。

イランの策謀

イランはシリアとの関係をなんとか維持しようと、アサド政権に対して資金・武器援助や、コンピュータ・携帯電話の傍受ノウハウを提供する一方で、反体制派へのアプローチをはかり、時にはアサド大統領を批判する声明も出すなど、多方面にわたる駆け引きを展開している。

あるイラン政府関係者は、匿名を条件にIPSの取材に応じ、「イラン政府は、シリアへの欧州からの観光客が激減している状況に対応するため、シーア派巡礼者に対して、同派の重要な聖地があるダマスカスを訪問するよう、推奨している。」と語った。

それでもなお、アサド大統領が、このますます血なまぐさく、宗派対立が濃厚になってきた国内紛争を乗り越えられるか、疑問を呈する声が広まっている。

国連によると、シリア騒乱における死亡者は5000人を超えており、シリアの支配勢力であるアラウィー派(シーア派の分派)によるスンニ派市民の大量虐殺やその反対のケースが報告されている。

シリア軍の将官(大半がアラウィ-派)クラスの大規模な亡命は見られていないが、一般の兵卒に関しては、多数が持ち場を放棄し、国境を越えてトルコ側に本部をかまえる自由シリア・アラブ軍(Free Syria Army)に参画している。

12月15日、人権団体ヒューマンライツ・ウォッチは、シリア国軍の元兵士たちが、非武装のデモ参加者の射殺や拷問、非合法な逮捕を命令、許可、容認したとして74名の国軍将校や政府高官の名前を特定したと報告した。

ヒューマンライツ・ウォッチは、国連安全保障理事会に対して、犯罪に加担した者への制裁とシリアの事態を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう強く求めている。

アサド大統領と家族に国外亡命を勧める一方で現在の体制の温存を図ろうとする動きもあるが、それでも、アサド政権後に生まれる政権はイランとある程度距離を置くだろう。

パリに本拠を構えるSNCのバーハン・ガリオン氏は最近行われたウォールストリートジャーナルの取材に対して、「もしSNCが政権を獲得したら、シリアとイランの間に特別な関係は存在しない。」と述べている。

またガリオン氏は12月6日のCNNの取材に対して、「国民に明確に拒絶され、今や自国民を拷問にかける存在となった現政権を支援すれば、将来に亘ってシリア-イラン関係を傷つけることになる点をイラン政府が十分に理解していることを望みます。」と語った。

またガリオン氏は、「シリアの人々は、過去に支援したヒズボラが、自由を求める自分たちの戦いに対して、同様の支援で応えてくれていない現実に驚いています。」と付加えた。

政権交代の可能性

SNCのワシントンのメンバーであるMurhaf Jouejati氏は、IPSの取材に対して、「アサド政権後の新政府は、イスラエルとパレスチナ・レバノン・シリア間の係争を交渉を通じて解決する方針を支持するとともに、米国との関係改善を志向するだろう。」と語った。

Jouejati氏は、イラン政府を、「シリア政府に代わってNCCに正当性を付与し支えようとしている」として批判した。また、NCCはシリア国内のデモ参加者から支持を得られていないとして、イランの試みは失敗するだろうと語った。

イランの策略は、自国が核開発プログラムを巡って、国際社会から孤立を深める一方、様々な経済制裁に晒されている中で行われている。

バラク・オバマ大統領は、イラン中央銀行との取引がある外国の金融機関に対して米国の銀行との取引を禁止する法案に署名する用意ができている。

中東の専門家達は、経済制裁の結果、シリア国内のビジネスコミュニティーによるアサド政権支持率は大きく低下しており、さらに多くの一般市民が政権による弾圧に辟易していることから、アサド政権は風前の灯であり、政権崩壊も突然訪れるといった事態も考えられるとの見方を示している。

現在米国務省の顧問をつとめるシリアの専門家フレデリック・ホフ氏は、12月14日に出席した米国議会での証言の中で、アサド政権が今後どの程度存続できるかは予測不可能と指摘したうえで、「アサド政権は、もはや『刑場に向かう死刑囚(dead man walking)も同然だ』と語った。

今後のシリア情勢は、イランのみならず、シリア国内に乱立している各種武装勢力や宗教派閥組織を各々のルートを通じて支援しているサウジアラビアやトルコの動き次第では、さらに悪化する可能性がある。

「結局のところ、これは地域覇権を巡る問題なのです。」と、レヴァント地域の軍事問題の専門家Aram Nerguizian氏は、14日にアトランティック・カウンシルで行った講演の中で語った。Nerguizian氏は、「シリアは(地域覇権を巡って干渉してくる諸国による)代理競争の場となり、従来イラクやレバノンを悩ませてきた内戦に似た国内紛争が顕在化して可能性が高い。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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