【ワシントンDC・IDN=ロドニー・レイノルズ】
昨年の米大統領選挙の真っ最中、共和党のドナルド・トランプ候補はテレビの生放送で、159ページに及ぶイラン核合意を破棄すると脅しをかけた。
トランプ氏はイラン核合意の正式名称である「共同包括的行動計画」(JCPOA)を、「愚か」「面汚しの一方的合意」「これまでの交渉で最悪」などと特徴的な「トランプ語」で非難した。
トランプ氏は1月20日に第45第アメリカ合衆国大統領に就任するが、彼はこれまでの自身の脅し文句やレトリックを押し通すだろうか、それともそれらは全て政治的な大言壮語なのだろうか。
あるいは、彼がしばしばツイッターでつぶやいているように、「言葉だけで行動が伴わない」ことになるのだろうか。
イラン核合意から1年となる今年1月16日、主な交渉当事者のひとりで、間もなく退任するジョン・ケリー米国務長官は、イラン核合意に完全なる信頼を寄せる点で揺るぎない態度を見せた。
「イラン核合意は、1発の銃弾も撃つことなく、1人の兵士も戦場に送ることなく、深刻な核の脅威の問題を解決したのです。しかも、この核合意は、国連安保理において全会一致で承認され、世界100カ国以上の支持を得ています。」とケリー長官は語った。
「イラン政府との間には、なお重大な意見の隔たりがあり、同国によるテロ支援や、人権の軽視、中東地域を不安定化させる活動を食い止めていかなくてはなりません。しかし、米国や、中東におけるパートナーや同盟国、そして国際社会全体は、イラン核合意によって、より安全になったのです。」とケリー長官は力説した。
米国では誤解があるが、イラン核合意はイラン・米国の二国間合意ではない。それどころか、国連安保理の常任理事国である世界の5大国(米国・英国・フランス・ロシア・中国)とドイツ(P+1)、さらには、欧州連合が当事者として関与している。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの責任者タリク・ラウフ氏はIDNの取材に対して、「あらゆる合理的、技術的根拠から見ても、イラン核合意は順調に履行されています。」と語った。
イランは、合意に基づいて核措置の一部を履行し、現在も継続している。このことは国際原子力機関(IAEA)も、四半期報告で定期的に確認している。
ラウフ氏は、「イラン核合意に代わる合理的な案などあり得ません。まともな精神の持ち主ならば『よりよい合意』などないことがわかるはずです。」と語った。
2002年から2012年まで核査察や不拡散、軍縮問題を取り扱うIAEAの主席職員だったラウフ氏は、「イスラエルの軍・諜報部門やサウジアラビアのトゥルキ・ファイサル王子(サウジ諜報部門の元トップ)などがイラン核合意の継続をいまや支持しています。それは、この合意がイランの核計画を制約するうえで効果的であり、明らかに機能していると彼らがみなしているからです。」と語った。
ケリー長官は、国務省が1月16日に発表した声明で、イラン核合意は「イランによる核兵器取得を阻止し、重大な国際的難題に対処する継続的で、原則的で、多国間の外交の力を示した歴史的了解」であると述べた。
「このきわめて高度に技術的な協定を履行するには、P5+1、欧州連合、イランというすべての当事者による相当な努力が必要とされます。」とケリー長官は指摘した。
IAEAが、集中的なアクセスと監視に関する規定を通じて合意の検証を続ける中、合意が機能しており、すべての当事者が約束を果たしているのは疑いない、とケリー長官は断言した。
ケリー長官はまた、合意履行における詳細についてもいくらか触れた。
イランは濃縮ウランの98%をすでに移出し、遠心分離器の3分の2を解体し、プルトニウム炉にコンクリートを注入し、これまでで最も厳密な核査察体制を履行している。
1月16日、IAEAは、イラン核合意における別の約束を果たすために、合意された1年の期限が来るのを前に、イランがフォルドウ燃料濃縮工場の機器を撤去したことを確認した。
「米国と我々のパートナーは、核関連制裁の解除という約束を完全に履行してきています。イランが合意に従うかぎり、我々も約束を守り続けます。」とケリー長官は明言した。
しかし、SIPRIのラウフ氏はIDNの取材に対して、「米国とイランの両国において、イラン核合意に強硬に反対する勢力は依然として強力です。」と語った。
「ドナルド・J・トランプ氏が当選し、米議会内のイデオロギー的な共和党勢力と、イランの強硬な保守的宗教勢力と革命軍勢力は黙っておらず、イラン核合意に関して障害を生み出すかもしれない。」とラウフ氏は語った。
「イランのハサン・ロウハニ政権が名実ともにイラン核合意を良心的かつ誠実に履行するようにさらなる努力をすることで、米共和党内における親イスラエル勢力をいたずらに挑発しないようにすることが絶対必要だ」とラウフ氏は指摘した。
共和党勢力は、人権や地域安全保障、石油輸出などの問題で一歩踏み出し、イラン核合意の崩壊につながるような反応をイランから引き出そうとする可能性が高い。
「ロウハニ政権が挑発に乗って報復することなく自制し、イラン核合意を完全に履行することで、米国内の共和党強硬派からの否定的な行動や挑発を国際社会が非難するように仕向けてくれるといいのだが。」とラウフ氏は語った。(原文へ)
INPS Japan
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