INPS Japan/ IPS UN Bureau Report米国はイスラエル、インド、パキスタンの核には寛大なのか?

米国はイスラエル、インド、パキスタンの核には寛大なのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界47カ国の首脳級参加者が集い、鳴物入りで2日間に亘って開催された「核安全保障サミット」が閉幕した時、サミットの協議内容はもとより、主催者のバラク・オバマ大統領からさえ回答を得られなかった、いくつかの拭いきれない疑問が残った。

すなわちそれらは以下の3点である。①米国はイスラエルに自国の核兵器計画を認めるよう求めるか?②米国はイスラエルに対して核不拡散条約(NPT)に加盟するよう迫るか?③米国はインド、パキスタンに対してNPTに加盟するよう説得を試みるか?

 しかし、空前の規模で開幕した「核安全保障サミット」の最大の関心事は、核兵器(及びその開発に必要な核物質)をテロリストグループに入手させないための体制づくりであり、これらの疑問点については、ほとんど或いは全くと言っていいほど取り上げられることはなかった。
 
 「サミットでは、核爆弾に使用可能な核関連物質の安全管理体制を4年以内に確立すること、核兵器や原子力施設の安全強化、核爆弾に使用可能な高濃縮ウランの使用・取引を削減、などの点で有用な合意に至ることができました。」と、ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長は語った。

「しかし世界47カ国から、しかもその大半が元首という顔ぶれでワシントンに集った環境にも関わらず、今回のサミットは、国際社会から全ての核兵器を除去していく端緒にするというユニークな機会は逸してしまいました。」とバローズ氏は付け加えた。

また多くのメディアが指摘した通り、オバマ大統領はあえて記者団に「イスラエルに関しては、同国の(核兵器)計画についてコメントするつもりはない。」と宣言し、イスラエルに関する質問を「避けた」。

「私が指摘しておきたいのは、米国は一貫して、全ての国に対してNPTに加盟するよう強く促してきた事実です。従って何ら矛盾することはないのです。」とオバマ大統領は語った。

「従って、イスラエルであろうとその他の国であろうと、私たちは、NPTへの加盟が重要だと考えています。ところで、これは新しい方針ではなく、私の政権誕生以前から米国政府が一貫して主張してきた立場です。」とオバマ大統領は付け加えた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、明らかに同国が秘密裏に進めてきた核兵器開発プログラムが議題に上がるのを恐れて土壇場になってサミットへの参加を「避けた」。しかし結局、サミットではこの問題が取り上げられることはなかった。

NPTの下で認められた核保有国は、米国、英国、フランス、中国、ロシアの5カ国であるが、NPT体制外で核兵器を保有しているインド、パキスタン、イスラエルの3カ国はいずれも、NPTへの加盟を拒否している。

5月3日からNPT運用検討会議が約1カ月に亘り国連で開催される予定である。

バローズ氏はIPSの取材に対して、「イスラエルが核兵器を保有しているか否かについては、オバマ大統領は従来の米国政府の立場を踏襲して、コメントを避けたのです。」と語った。

またバローズ氏は、「サミットでは、中東大量破壊兵器(核兵器・生物兵器・化学兵器)フリーゾーン構想の実現に向けて前進を図ることが、5月のNPT運用検討会議が最終的な合意結果を生み出すことができるか否かの鍵となるという議論がなされなかった。」と指摘した。

「そうした中、潘基文国連事務総長がそうしたフリーゾーン設立に向けた議論を行う新たな会議を招集するという提案が、現在真剣に検討されています。」とバローズ氏は語った。

「1995年にNPTを無期限延長する決定は、同条約の寄託国である米国、英国、ロシアが『中東に関する決議』を支持することなしに、実現は見なかったのです。」とバローズ氏は付け加えた。

オバマ大統領は、記者からパキスタンの核兵器開発プログラムについて問われ、姿勢を軟化させて次のように語った。「私はパキスタンが異なるルールで(核兵器開発を)進めているとは思いません。米国は他の国々に対してと同じく、パキスタンにもNPTに加盟するよう明確に求めてきました。」

しかしオバマ大統領は、「パキスタンの核安全保障問題については実際のところ、過去数年間にわたって進展が見られます。」と指摘した。

「私は、核兵器開発プログラムについては、南アジア全域の緊張関係を緩和したいのです。」「事実、パキスタンのギラーニ首相がサミットに参加してコミュニケに署名し、同国からの核物質拡散や不正取引を防止していく一連のコミットメントを示したこと自体、前向きなことだ思います。」と、オバマ大統領は語った。

「まだやるべきことが沢山あるのではと問われれば、全くそのとおりです。しかしギラーニ首相がここに出席していることは、南アジアで核危機が起こらない保障体制構築に向けた重要な第一歩だと思います。」と、オバマ大統領は付け加えた。

それとは対照的に、オバマ大統領は北朝鮮(と同国の核兵器実験)並びに(核兵器開発疑惑で非難されている)イランに対しては比較的厳しい態度で臨んだ。

バローズ氏はIPSの取材に対してインド、パキスタン両国は核兵器に使用する核分裂物質を生産していると語った。

パキスタンは、新たに2基の核兵器用プルトニウムが抽出可能な重水炉の建設を進める一方で、ジュネーブ軍縮会議による核兵器用核物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)に関する審議入りを妨害している。

伝えられるところでは、オバマ大統領はサミットにおいてギラーニ首相とカットオフ条約について協議したが、ジュネーブ軍縮会議での同条約の審議開始についてパキスタン側の協力を確約する返事は得られなかった。

「サミット自体、兵器用核分裂性物質の生産に関する問題を取り上げませんでした。」とバローズ氏は指摘した。

記者会見で拡大を続けるパキスタンの核開発プログラムについて問われたオバマ大統領は、「パキスタンは核物質の密輸といった核拡散防止に取り組むコミットメントを表明しています。米国の立場はパキスタンがNPTに加盟すべきだというものです。」とのみ語った。

一方、核政策に関する法律家委員会(LCNP)は、「市民社会は5月のNPT運用検討会議を活用して各国代表に対して、NPT加盟の如何を問わずそれぞれの核保有国が、他の核保有国に対する抑止力として自国の核兵器を維持する決意と見られることから、『核兵器なき世界』というビジョンは幻想にすぎないということを知らしめる予定です。」と語った。

1996年の国際司法裁判所(ICJ)による勧告的意見*で求められているような、全ての核兵器の廃絶に向けた普遍的なアプローチがなされない限り、『核兵器なき世界』というビジョンは幻想のままであり続けるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan
 
* ICJによる勧告的意見(1996):「核兵器の使用や威嚇は一般的に国際人道法に違反する」、「NPT 参加国には、核軍縮交渉を誠実に行い完結させる義務がある」という2つの判断が示された。とりわけ、核兵器保有国に核軍縮にむけて「誠実に交渉を行う」という義務を定めたNPT第6条に対し、それまでの曖昧な解釈ではなく、「交渉するだけではなく、その交渉を妥結させ、具体的な成果を達成する義務がある」とした。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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