【テルアビブ/ラマラIDN=メル・フリクバーグ】
国連安全保障理事会常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた世界の6大国(P5+1)が、イランイスラム共和国に課せられた制裁を解除することと引き換えに、同国の核計画に関する包括合意に6月末までに達することを目指している。
6月の期限前に、3月末までに政治的枠組みに関する合意をP5+1が目指す中、イランの核開発の意図について報じた記事が再び紙面を賑わせている。
この枠組み合意は、4月27日から5月22日にかけてニューヨークの国連本部で核不拡散条約(NPT)運用検討会議が開かれるのを前にしてなされるものだ。
IDNは、将来的な中東の非核化とそれが実現する可能性、目標達成を阻む障害について、イスラエルとパレスチナの専門家にコメントを求めた。
イスラエル国家安全保障研究所(INSS、テルアビブ)の主任研究員であるエフライム・アスキュライ氏は、中東が直面しているイラン問題と核問題の専門家であり、イスラエルの保守的な観点を持つ人物である。
「6月の期限に向けて、枠組み協議に進展があるかどうかはわかりません。」とアスキュライ氏はIDNの取材に対して語った。
「これまで多くの交渉期限を見てきましたがた、依然として意見の対立を耳にします。様々な情報源が合意妥結の可能性に様々な意見を述べている一方で、一部には妥結困難を指摘する意見もあります。いずれも公的に確認されたものではないのです。」
「イランは極めて熟達した交渉相手です。彼らの主要な目標は国際社会を満足させる合意ではなく、制裁を解除させることにあるのです。」
「しかし、制裁を解除させるには、核開発の意図を放棄せずに譲歩をしたと見せかける必要があります。」
「イランは既に核兵器を開発する能力を取得しているが、これに国際的な制約を課されたくないと思っています。」とアスキュライ氏は語った。
「イランがイスラエルを攻撃するとは思えない。」
またアスキュライ氏は、「イランが現時点において核兵器を開発しようとしているとは思えません。ただし、万一脅威を認識した場合に核兵器を開発できるような先進的な能力を保持しておきたいとは考えているでしょう。」と語った。
「そうした先進的な能力をひとたび手にすれば、イランの指導部から核兵器開発の指示が出た場合、実際に開発に進むことになります。究極的に言えば、イランは不可避なことを先送りにしているだけだと思います。」
アスキュライ氏は、もしイランの核開発を抑えることができなければ、他の中東諸国も、シーア派のイランに対するスンニ派諸国間の相互防衛策として、自らの核兵器取得を目指す可能性がある、と指摘する。
さらにアスキュライ氏は、「イスラエルの核兵器は、(スンニ派)湾岸諸国が核兵器計画を追求する場合の要因ではなかった。」と指摘したうえで、「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ現首相が、イランがユダヤ国家であるイスラエルに対する生存上の脅威であると盛んに非難してイランの脅威を煽ったことが原因だとする主張は正しくありません。」と語った。
「イランがイスラエルを攻撃するとは思えません。その可能性はきわめて低いと言えます。しかし、ネタニヤフ首相がイスラエルの安全保障に関して警戒的な態度をとるのは正しい姿勢です。なぜならイスラエルは、もし必要に迫られればイランを攻撃する権利を保持しておくべきだからです。」
「またイランは一貫してイスラエルに対する言葉による攻撃を加えています。例えばイラン政府は、ホロコーストの存在を否定しています。これはイスラエル国民の神経を逆なでしているのです。」
「イラン政府はイスラエルを地図上から消去するなどと述べていますが、これは非常に危険なゲームです。イスラエルもまた、自らを防衛するために言葉で反応しています。両者は言葉による戦争を遂行しているのです。」
「イスラエルはイランに対する脅威ではないし、イスラエル人がイラン人に敵対しているという主張はあたりません。イスラエルは、(1979年の革命で)イスラム共和国が権力を獲るまでは、イランに対してきわめて友好的な関係を築いていました。」
アスキュライ氏は、仮にイランが核開発の意図を放棄し、国際社会で尊重される一員になろうと努力するならば、非核中東は可能であろうと考えている。
「しかし、現段階ではイランには透明性が欠けています。査察官を核施設に入れず、核能力について嘘をついているのです。」とアスキュライ氏は語った。
一般市民がすべての事態について説明を受けているかという問いに関してアスキュライ氏は、「イランの頑迷さのためにメディアはすべての情報を与えられていないが、国際原子力機関(IAEA)は公明正大であり、知りうる限りの情報を公表しています。」と語った。
「イランとの合意は可能だ」
しかし、ラマラ近くにあるビルセイト大学の政治科学者サミール・アワド教授はアスキュライ氏とは異なる意見であり、同氏の分析に異を唱えた。
「イランとの合意に達する可能性はあります。イランは、軍事目的のために核計画を追求する意図はないということを非常に明確にしてきていますし、ロシアと中国もこの主張を支持しているのです。」とアワド氏はIDNの取材に対して語った。
「イラン政府は民生目的で核計画を推し進め、経済発展を導こうとしています。すなわち、ドイツや日本、ブラジル、南アフリカと同じような能力を持とうとしているのです。」
「イランはエネルギー生産のための十分な核技術を持つことを目指しており、この点については他国と同様の権利があります。ハッサン・ロウハニ大統領は、イランを世界に開こうとしているのです。」
「ロウハニ大統領は、制裁のために失業率が高まり国際投資が減少することで、高い教育程度とレベルの高い実業をもつイラン国民が経済的に抑えつけられるような孤立と断絶の状態を望んではいません。」
「最近、米国も欧州諸国もイランに対してより前向きなアプローチをしてきているように感じています。」
「欧州諸国は(米国ほど)懐疑的でなく、核を保有したイランによって欧州が脅威に晒されるのではないかとは、それほど恐れていません。」
「これは今や、米国についても安全保障の問題というよりは、むしろイランに対して厳しい立場をとっている共和党と、合意妥結を目指そうとする民主党との間の政治課題になっています。」とアワド氏は解説した。
「他方、核開発の意図に関してイランの説明に透明性がないと批判するイスラエルは、そのアプローチにおいて非常に欺瞞的です。」
「そのイスラエルこそが、中東最大の核兵器国なのです。同国は、中東で最も強力な国であるというだけではなく、最も好戦的で攻撃的な国でもあるのです。」
「ネタニヤフ首相は、とりわけ今回のイスラエル総選挙(3月17日)で票集めを有利に導こうとして、イラン核武装化の脅威論を盛んに利用しています。」
「イスラエル国民は、国の安全が脅かされていると感じると極右政党に票を投じる傾向にあります。ネタニヤフ氏は、自らの政治的利益のためにこうした国民の心情を操作するのに長けているのです。」
「イラン『脅威論』は、(イスラエルにとっての)大きな生存上の脅威があるとの幻想を仕立て上げることで、パレスチナとの和平協議問題を棚上げにする極めて便利な口実に使われているのです。」とアワド氏は語った。
「しかし、イスラエルの諜報機関モサドが、イランは核兵器取得に向かってもいないしそれを望んでもいないとみなしている事実は、今も変わりはありません。」
「また、核拡散理論がなぜイスラエルに対してのみ議論されないのか?この現実について一度考えてみる必要があると思います。イスラエルが核開発の可能性があるというだけでイランに脅威を感じるべきというのであれば、250発以上の核弾頭を既に保有しているイスラエルに対してイランが少なくとも同程度の脅威を感じてもおかしくないのではないでしょうか。」
アワド氏は、「他のアラブ諸国も核兵器を取得することを望んでいる」とする(アスキュライ氏の)見解を否定するとともに、「これらの国々は、イランと同様に国内的な理由(民生目的)から核施設を開発しようとしている。」との見解を示した。
「エジプトは原子炉を2基建設する協定をロシアと結び、アラブ首長国連邦は同じような協定をフランスと結んでいます。」
アワド氏は、イスラエルこそが、非核中東への最大の障害だと考えている。
「もしイランが核兵器を保有したとしても、イスラエルを攻撃するほど愚かではないでしょう。他方でイスラエルは、パレスチナ占領をやめ核兵器を放棄する意図は全くないように見えます。つまりこのことが、中東和平の最大の脅威であり続けているのです。」と、アワド氏はIDNの取材に対して語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
関連記事: