【東京IPS=C.Makino】
民主党内で持ち上がった資金洗浄疑惑は、昨年9月に誕生した新政権が、ほぼ半世紀にわたって政権を担ってきたスキャンダルまみれの保守政党とは一線を画した存在であってほしいとの国民の希望を打ち砕いた。
民主党の小沢一郎幹事長は、同氏の政治資金管理団体「陸山会」による2004年当時の土地購入疑惑について、東京地検特捜部の捜査を受けている。
伝えられるところによると、総額400万ドルを超える土地購入に使われた資金には、違法な企業献金、特に小沢氏の地元である岩手県のダム建設に関わる建設会社からのものが含まれているのではないかと見られている。
同建設会社の役員は特捜部の調べに対して、岩手県のダム建設受注の見返りとして小沢幹事長の秘書に50万ドルを支払ったと供述している。こうした状況を背景に、小沢幹事長に対して「陸山会」資金の流れについて明らかにするよう求める圧力が強まっている。
いくつかの世論調査によると鳩山由紀夫内閣の支持率は12月には50%を維持していたがこのスキャンダル絡みで逮捕者がでて以来、40%に急落した。
他の世論調査では、約70%の回答者が小沢氏は幹事長辞任し、スキャンダルの責任を負うべきと回答している。
小沢氏は昨年夏の衆議院総選挙において従来の自民党による政権支配に終止符を打ち民主党に大勝利をもたらした立役者といわれている。
かつて自民党議員であった小沢氏は、昨年上旬に持ち上がった政治資金スキャンダルで右腕の鳩山氏に地位を譲って退陣するまで民主党の代表を務めた。
支持率の低下に加えて、今回のスキャンダルは日本の有権者に対して、民主党も昨年夏の衆議院総選挙で政権を追われた自民党と本質的になにも変わらないという印象を与えてしまったようだ。
「私にとって優先事項は経済と失業問題です。小沢氏には幹事長を辞職してもらい、政府には経済対策に専念してほしいです。」と30代のサラリーマン藤田博氏は語った。
「小沢氏は私たちに理解できる言葉で説明すべきだと思います、国民あっての政治家なのですから。」と中年層の主婦は語った。
「旧態依然とした政治で、同じように腐敗していると思います。小沢氏は辞職すべきだと思います。」と大学生の小松雄志氏は語った。
しかし小沢氏は高まる辞任要求の声にも屈しないようである。小沢氏は幹事長続投と政治家としての職責を引き続き全うしていく決意を表明した。
「私は今回のことはなんとしても納得いかない。」1月16日、4か月前の新政権発足後初めてとなる民主党大会で挨拶に登壇した小沢幹事長は、自身の元秘書の相次ぐ逮捕について、このように語り、検察当局に対して抗議の意思を表明した。
小沢幹事長の元秘書3名が、政治資金規正法違反で逮捕された。そのうちの一人石川知裕氏は民主党の現職議員である。
「我が党の党大会の日に合わせたかのように、このような逮捕が行われている。私は、とうてい、このようなやり方を容認することはできませんし、これがまかり通るならば、日本の民主主義は本当に暗澹たるものに、将来はなってしまう。」と、小沢氏は党大会で述べた。3人目の逮捕はこの党大会の最中に行われた。
今回の一連の逮捕は、7月に予定されている参議院選挙で民主党にとって不利に影響を及ぼしそうである。
「小沢氏と彼の政治資金管理団体『陸山会』を取り巻く資金洗浄疑惑は民主党率いる政権与党にとって大変な痛手となるだろう。」「小沢氏は、近年の日本の政治史において最も影響力を持った政治家の一人だが、今回の資金洗浄疑惑について自身の関与を明白に否定できる説得力ある説明ができなければ、いずれ議員辞職をせざるを得なくなるだろう。」と、ワシントンに本拠を置くマンスフィールド財団のフェロー、ウェストン・コニシ氏は語った。
小沢氏は民主党幹事長として、夏の参議院選挙における選挙運動の作戦担当者でもある。
「小沢氏の選挙手腕なしに、民主党は次の選挙で参議院における十分な議席を獲得できないのでないかとの懸念がある。民主党にとって、この選挙における安定多数の獲得が、連立パートナーに頼ることなく単独で政策実現するための布石と考えられている。」とコニシ氏は語った。また鳩山政権の7兆2千億円にのぼる経済対策パッケージも、このスキャンダルの結果、頓挫するかもしれない。
「もし鳩山政権が、自らを(自民党と異なる選択肢としての)『きれいな政権』として印象付けることに失敗した場合、自民党の政権復帰への道を開くことになるだろう。」とコニシ氏は語った。
またコニシ氏は、民主党の中で大きな勢力をしめる「小沢チルドレン」といわれる議員達も剛腕幹事長との関係から「陸山会」のスキャンダルの影響を受ける可能性があると警告した。「もし彼らの中にスキャンダルに直接関与しているものがでてくれば、民主党一般党員間に大きな混乱を起こすこととなるでしょう。」とコニシ氏は語った。
テレビ中継された民主党大会に登壇した小沢氏は、自身に向けられた疑惑に反論して、東京地検特捜部は「政治的動機による」捜査を行っていると当局を批判した。
これに対して、日本の国際関係と歴史に詳しい谷川幹氏は、「中には、東京地検特捜部が自身も官僚組織であることから鳩山首相が進める官僚の力を削ぐ政策を快く思っていないという主張をする人々がいる。しかし、検察当局は行政職の官僚とは役回りが異なるものであり、実際検察当局の権限抑制には全く触れていない鳩山官僚改革そのものには関心がないはずだ。」と語った。
鳩山政権は、強大な権限を享受してきた日本の官僚組織にメスを入れると公約して政権の座に就いた。
「検察当局はたしかに政府支出に依存しているが、検察の第一の関心事は独立した権限を維持して腐敗した政治家たちを逮捕できることにあります。」と谷川氏は語った。
今回のスキャンダルについて、鳩山首相は小沢氏を擁護する立場をとっている。鳩山首相は、「小沢氏を信じており、幹事長に対する深刻な非難に対して『民主党は結束すべきだ』」と述べた。
一方、日本のメディアの中には、民主党内には小沢幹事長は辞任すべきと考えている議員もおり党内の亀裂が表面化しつつあると報じているところもある。
民主党内の空気に関わりなく、民主党についた今日の曇ったイメージは、かつて政治から疎外されてきた人々に改革勢力として自らをアピールした同党にとってよい兆候とはいえないだろう。(原文へ)
翻訳=IPS Japan戸田千鶴
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