【ベルリン/ウィーンIDN=ジャムシェッド・バルーア】
広島・長崎への原爆投下を経験した唯一の国である日本が、包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)に対してこれまでで最大の拠出を行うことを決定した。
約243万ドルにも上る資金は、検証関連の幅広い活動を支援してCTBTOの探知能力を向上させ、「核兵器なき世界」への道を切り開くことだろう。
この規模の自発的拠出は、「始めた仕事を終わらせる」、すなわち、包括的核実験禁止条約(CTBT)を発効させ、国際監視制度(IMS)を完全なものにすることへの日本のコミットメントを示す強力なシグナルと認識されるべきものだ、とCTBTOのラッシーナ・ゼルボ事務局長は語った。
2月23日、CTBTO事務局(ウィーン)で拠出決定を記念する式典が開かれ、ゼルボ事務局長は、北野充在ウィーン国際機関日本政府代表部大使に対して、過去最大規模となる日本の支援に感謝の意を表明した。
「この寛大な拠出金は放射性核種の監視技術を向上させる国際監視制度をさらに強化することになるだろう。これによって、核爆発実験が行われたかどうかを決定的に判断することができます。」とゼルボ事務局長は語った。
「CTBTOの検証体制は昨年の1月と9月に北朝鮮が行った核実験を探知しており、そのたびにその有効性と国際社会への貢献が証明されています。国際社会に対してその効果と多大なる貢献を証明した」「実際、検証体制は北朝鮮による5回の核実験すべての探知に成功しています。」と北野大使は語った。
水中音響監視もまたCTBTOの検証体制の一部を成している。日本は水中音響監視局の強化に関する専門能力を有する数少ない国の一つであり、日本からの資金の一部はCTBTOがこの技術をマスターする能力強化のために使われる予定だ。
拠出金は特に、①核実験時の検知能力の向上に資するための可搬式希ガス観測装置の整備、②実験の有無判定時に必要となる放射性キセノンの検知精度向上に資するための通常時の放射性キセノン観測の実施、③核実験時のデータ解析・評価の迅速化に資するためのソフトウェアの開発のための専門家の雇用、に利用されることになる。
日本は、CTBTが署名開放された1996年9月24日に署名し、それから1年以内の1997年7月8日に批准した。日本はCTBT4番目の批准国であり、核能力を持った44の発効要件国(条約の「附属書Ⅱ」に掲げられている条約交渉当時に核施設を保有していた国々)としては初めて批准した。
核実験を確実に探知することを目的としたCTBTOの国際監視制度(IMS)の一部として、日本は、地震学的観測所6カ所、微気圧振動監視観測所1カ所、放射性核種監視のための施設2カ所と、放射性核種研究所1カ所のホスト国となっている。
CTBTOのウェブサイトによると、日本は、長年にわたる相当規模の自発的拠出に加え、一般予算の面でも米国に続いて2番目の拠出国となっている。
2014年初頭、日本は、検証体制の強化と賢人会議(GEM)の活動支援のために45万5000ドルを自発的に拠出した。その数週間前、日本は、高性能のコンピューター機器の取得のために73万7000ドルを自発的に拠出し、CTBTOが空中で放射性物質をより正確に把握できるようにした。
日本はカザフスタンと共に条約発効支援の国際的な取り組みをリードし、2015年から17年にかけて「CTBT批准促進会議」(第14条会議)の共同コーディネーター国となっている。
CTBTOによれば、183カ国が条約を批准し、166カ国が署名している。米国のビル・クリントン大統領は1996年にCTBTに署名した際、CTBTを「軍備管理の歴史上もっとも長期にわたって追求され、もっとも厳しい闘いをつうじて得られたもの」と呼んでいる(しかし上院の反対で米国は未批准のままである)。
それ以降、核爆発実験禁止は世界的な規範となってきたが、CTBT自体は条約の「附属書Ⅱ」に記載された残り8カ国が批准しなければ、発効しない。8カ国とは、未批准の中国・エジプト・イラン・イスラエル・米国と、未署名のインド・北朝鮮・パキスタンである。とはいえ、CTBTは国際安全保障体制における確固とした柱となってきた。
国連安保理は2016年9月23日、決議2310の採択をもって条約20周年を祝った。同決議は、条約への国際的支持を認識し、条約が生み出した核爆発実験禁止の国際規範を強化し、条約の遵守を検証するための国際監視制度の価値を強調し、条約の「発効」を促進するために未署名・未批准国に対して早期の批准を呼びかけた。
同意決議が安保理で採択された直後にIDNの取材に応じたゼルボ事務局長は、「CTBTOは核爆発実験禁止の規範を強化するいかなる取り組みも歓迎します。」「国際社会は、核実験の禁止が実現してはじめて、核兵器なき世界に向けて第一歩を踏み出せるのです。」と語った。
ゼルボ事務局長はまた、「核兵器なき世界は、核実験禁止によってももたらされますが、既存の合意を強化する措置を採ることによって、国際社会が望んでいる『核兵器なき世界』、つまり、今日一部の人々が口にしている核兵器の近代化の企図が存在しない世界、に向けて歩みを進めていくことができます。」と語った。
地下であれ水中であれ大気圏内であれ、地球上のいかなる場所で行われた核爆発をも探知することを目指すCTBTの検証体制は、世界全体で337カ所の監視施設から構成されている。
「国際監視制度(IMS)が有する価値は、国家が核実験を行えないよう検証することにとどまりません。加盟国は、防災や環境モニタリングといった領域においてCTBTのデータを幅広く民生・科学・産業に利用する方法を確認しているのです。」と、2017年2月14日にメキシコシティで開催されたラテンアメリカ・カリブ海地域核実験禁止機構(OPANAL)第25回総会でゼルボ事務局長は語った。
「地震を探知しリアルタイムで津波警報を発するのであれ、深刻な台風や核事故からの放射性物質拡散を追跡するのであれ、気象学や気候変動、海洋生物の研究を前進させるのであれ、CTBTのデータは、人類の発展にとって独自で価値のある貢献を成す可能性に満ちています。」とゼルボ氏は語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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