SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)北東アジアの安定的平和の構築へ日本が担う不可欠な役割

北東アジアの安定的平和の構築へ日本が担う不可欠な役割

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ケビン・P・クレメンツ】

トランプ大統領の「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」という対立的な外交政策は、米国とその同盟国を、相互の衝突、そして中国との衝突が避けられない状況に置いた。その政策は、米中競争に過度の外交的関心と一般の関心を集め、リベラルな世界秩序を損なう状況を生み出し、それによって米国は自らがその価値に疑義を生じるようになった。また、各国を主要国の“味方”か“敵”と決めつけたために、世界的問題に取り組む包括的解決を見いだそうとする国家や同盟国への支援はほとんど提供しなかった。要するに、われわれの共通利益の推進にはほとんど役に立たず、高度な不信と予測不能性を生み出したのである。(原文へ 

トランプ政権は、写真に撮られる機会(米朝首脳会談などのように)では絶好調だが、具体的な成果という点では低調だった。例えば、彼の一方的な対中貿易戦争のせいで、アジア地域における米国の友好国と同盟国は、中国との2国間貿易関係を再検討し、再調整することを強いられた。中国の貿易相手国は全て、中国のこれまでの人権問題と自国の経済的依存度を勘案しつつ苦渋の政治的選択をせざるをえなかった。その結果、全体的には、過去4年の間に中国の経済力、政治力、軍事力は弱まるどころか、概して強まった。

トランプの型破りで予測不能な外交政策により、オーストラレーシア(オーストラリア、ニュージーランド、南太平洋島嶼国)、東アジア、東南アジアのほとんどの国は、米国との関係で維持できるものを維持しつつ、中国との関係をこれ以上悪化させないよう、積極的というよりかなり受動的な外交を行わざるをえなくなった。これがどこよりも顕著に表れたのが北東アジアであり、トランプの政策により米国と日韓との同盟関係は実質的に弱体化した。トランプは、オバマ時代の「アジア回帰」をあからさまに見下し、日米安全保障条約の核心的重要性に関する安倍首相の助言を拒絶したことにより、国際社会における米国政府の立場を低下させた。トランプの対中強硬姿勢を喜んだ北東アジアの国は台湾だけである。

また、トランプ政権下で日本、韓国、台湾の利害が徐々に乖離していくことにも、ほとんどあるいはまったく注意が向けられなかった。そのため、北東アジアの全ての国が、トランプの「アメリカ・ファースト」なナショナリズム、そして北東アジアにおける一貫した米国の政策とリーダーシップの欠如がもたらした政治的および安全保障上の空白に対応するため、独自の、より自立した国家戦略、地域戦略、グローバル戦略を策定しなければならなかった。

トランプ政権下の米国は信頼できるパートナーではないことを韓国政府と日本政府が悟ったとき、両国は、先を争って自国の新たな外交的役割を定義し、地域におけるリーダーシップを取ろうとした。その結果、地域のパワーバランスに興味深いシフトが生じた。過去4年の間に、中国は優勢を維持し、韓国は中国に接近し、日韓関係は悪化している。

例えば日本は、韓国が米国に対して批判的で、北朝鮮寄りで、反日的であると考えている。一方、韓国は、どうしたら日本政府の敵対姿勢を解きほぐし、より友好的な関係を築くことができるか途方に暮れたままである。このような日韓関係、そして北朝鮮と中国に対する懸念がもたらした結果の一つとして、日本はアジア太平洋地域における新たな、これまでよりやや自立した役割を定義しようとし始めている(おそらく戦後初めてのことだ)。日米の安全保障関係が日本の外交政策の中心であることは変わりないが、日本政府はひそかに、北東アジアにおけるリベラルな貿易および政治秩序を推進し、維持する役割を担い始めている。また、日本政府が自国の利益にとって重要と思われる主要な地域組織や多国間組織を、米国政府より積極的に支援していることも注目に値する。

例えばトランプが環太平洋パートナーシップ協定から離脱したとき、協定を救出したのは日本である。安倍首相は他の全ての加盟国を引き留め、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)と名称を改めた。これは、いわゆるアジアの世紀にとって極めて重要な基礎である。パートナーシップには英国も加盟を申請し、バイデン大統領も再加盟の意向を示唆している。ただし、その場合には米国の条件ではなく日本の条件に従うことになるだろう。

日本はまた、米国がアジアから徐々に手を引いていることで生まれた経済的ギャップを埋めるための方策を取り始めている。なかでも、東南アジアと南太平洋への経済援助を中国の2倍以上に引き上げ、ASEAN諸国の間で日本は「友好的」かつ「信頼できる」という評判を獲得した。

しかし、おそらく日本の最も重要かつ自立したイニシアチブ(インド、米国、オーストラリアの支援を受けた)は、「自由で開かれたインド太平洋」構想とクアッド会合であろう。この構想は2007年の“アジアの民主主義の弧”を推進する日本の努力に端を発しているが、すぐに安全保障に関する側面が強くなった。安倍首相は2017年に4カ国対話の構想を再提案し、クアッドは、冷戦時代の古い安全保障体制を補完する、あるいは日本の一部政治家の頭の中ではそれに取って代わるもののようになった。中国は、クアッドを中国封じの努力と見ている。実際そうではあるが、それはまた、米国任せにするのではなく、インドと日本が“リベラルな民主主義的秩序”を守りながらアジアにおけるリーダーシップの役割を担うことができる枠組みを提示している。日本とインドがリベラルな民主主義の最良の事例といえるのかと疑義を呈することもできようが、民主主義的価値への両国のコミットメントには疑いの余地がない。そのため、一部の評論家は、ドナルド・トランプの選出以来、アジアにおける民主的かつ本物の“リベラルな”リーダーは米国ではなく日本だという見解を示している。

もしそうであるなら、なぜオーストラリアやニュージーランドをはじめとする他の国々は、この4年間、急速に支配を強める中国にばかり注目する代わりに、日本、台湾、韓国を公然と支援し、関係を深めるための努力を強化してこなかったのかと問う必要がある。中国に注目するのと同じ程度に日本、韓国、台湾、インドに注意を払っていたら、オーストラレーシアの政治家たちは、北東アジアと南アジアにおける多様な利害、ニーズ、懸念をはるかによく理解できていただろう。例えば、日本は経済面で中国に依存しすぎており、安全保障面で米国に依存しすぎていると考える日本人は大勢いる。したがって、今こそ、より自立した外交政策に向けて少しずつ前進するよう、日本の同盟国や志を同じくする国々が促し、奨励し、冷戦後の21世紀における地域安全保障を確保する方法を改めて考え直すべき時である。

バイデン大統領は近頃、「バイデン政権の外交政策は、米国が再びテーブルの上座につき、同盟国やパートナーと協力して世界的脅威に対する共同行動を起こす立場になることを目指す」と述べた。しかしながら、米国がもう少し謙虚になり、円卓で対等のパートナーとして自分の役割を果たすことができれば、より建設的ではないだろうか。アジアでないがしろにしてきた同盟国から学び、競争的関係よりも協力的関係を築くことを願い、中国に関する本当の大仕事は北東アジアの国々が行うことで、米国はそれに協力する立場であることを認めることができないだろうか。その点で、われわれは皆、日本から学ぶことが多くある。

もし日本が現在、地域におけるリーダーシップをこれまで以上に担うことに意欲的であるなら(日本の外務省にはトランプ以前の“正常な日米関係”に戻り、地域における米国の最も従順な同盟国に戻りたいと考える者がいるため、これは少し厄介である)、米国、オーストラリア、インド、カナダ、ニュージーランドが、バイデン政権下での米国の“復帰”とともに、日本の新たな指導的役割を認め、強化することが不可欠である。アジア太平洋の歴史において、今こそ、地域全体にまたがる信頼、信用、紛争解決のメカニズムをいかに構築するかを改めて考える必要がある時である。今や米国とこの地域の“西側諸国”は、地域がわれわれに何を語っているかに耳を傾けるべき時であり、米国の絶対的政治支配を目指すトランプ的願望を覆すべき時である。米国がどれほど戦略を練っても中国の興隆を止めることはできず、いっそう悪いことに、われわれを軍事紛争へと押しやる恐れがある。今こそ、アジアの近隣国との対等なパートナーシップを結ぶべき時であり、われわれ皆が21世紀のアジアに平和と安定をもたらす方法を見いだそうと努力するべき時である。特に、クアッドが中国を抑え込むための新たな“冷戦”体制にならないことが重要である。ルールに基づく世界秩序というクアッドのビジョンを補足するものとして、予防外交、紛争防止、協働的問題解決のための地域安全保障メカニズムを構築するべきである。

これまで米国が率いてきたリベラルな世界秩序は、変わらなければならないのかもしれない。しかし同様に、中国も変化することが同じぐらい重要である。なぜなら、権威主義的な中国共産党の方針に導かれることは誰も望んでいないからである。われわれのアジアのパートナーは、実に長年にわたってなんとかこの現実に対処してきた。いつまでも“味方”や“敵”の陣営に引き入れられるのではなく、彼らの声に耳を傾け、力を合わせて取り組み始めようではないか。外交政策はゼロサムではないし、そうであるべきではない。日本が戦後の“平和主義的”伝統を今後も進めていくことができるなら、日本が東西の懸け橋として積極的な役割を果たし、相互の理解を形成し、地域の国家間の不満を非暴力的に解決できる方法を編み出してはいけない理由などない。

ケビン・P・クレメンツは、戸田記念国際平和研究所の所長である。

INPS Japan

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