【仙台IPS=ラメシュ・ジャウラ】
第3回国連防災世界会議が、長くかかった最終協議を経て、3月18日に閉幕した。187の国連加盟国代表が、今後15年(2015年~30年)という長期に亘る新しい防災対策の行動指針となる「仙台防災枠組」にようやく合意した。
国連の潘基文事務総長は会議の始まった14日、「持続可能性は仙台から始まるのです。」と述べた。「仙台防災枠組」が新たな時代の夜明けを告げるものだとしても、それが事務総長の期待に応えるようなものであるかはまだわからない。
国連事務総長特別代表(防災担当)で国連防災戦略事務局(UNISDR)長のマルガレータ・ワルストロム氏は、この新しい枠組みは「災害リスクと人命・暮らし・健康の損失の実質的な減少につながるような行動のための目標と優先行動を示したものだが、持続可能な開発における新たな時代を開くものとなるだろう。」と強調した。
しかし、ワルストロム氏は18日、仙台防災枠組みの実行には「強力なコミットメントと政治的なリーダーシップが必要であり、持続可能な開発目標(今年9月の国連総会で採択予定のポスト2015年開発アジェンダ)と気候変動に関する今後の合意(今年12月のパリ気候変動会議)を達成するうえで肝要なものである。」と警告した。
「仙台防災枠組」は、7つのグローバルな減災目標と4つの優先事項を示している。
今後15年で達成すべきグローバルな減災目標とは、「①災害に伴う全世界の死亡率を大幅に削減する。②被災者数を大幅に削減する。③国内総生産(GDP)に占める災害の直接的な経済損失を大幅に削減する。④医療や教育施設など重要インフラを強靱化する。⑤2020年までに全国・地域レベルで防災戦略を策定する国の数を増やす。⑥途上国支援を強化する。⑦複数の危険に関する早期警戒システム及び災害情報・評価へのアクセスを強化する。」である。
4つの優先行動とは、①災害リスクへの理解向上。②災害リスク管理のための災害リスクガバナンスの強化。③強靭化に向けた防災への投資の強化。④効果的な応急対応に向けた準備の強化と「災害復興:よりよい復興(Build Back Better)」に焦点を当てている。最終的な優先行動は、より効果的な防災準備や、復旧・復興・再建において「よりよい復興」を埋め込むことを呼び掛けている。
以下は、UNISDRのマルガレータ・ワルストロム氏に対して3月16日に仙台会議の会場で行ったインタビューである。そこで同氏は防災の本質について語っている。
IPS:この仙台会議で防災への解決策が導き出されるとお考えですか?
マルガレータ・ワルストロム氏(以下MW):この会議と集合的な経験から解決策が導き出されてきました。それは実際、私たちにとって問題ではないのです。問題なのは、既に知っている知識を応用するためにいかに説得力のある議論をできるか、ということなのです。それは、個人や社会、企業などに関係のある話です。きわめて複雑な問題ですから、あまり単純化した問題だと捉えないことが重要です。
もし災害を相当程度に減らそうと考えるならば、個別にではなく数多くのセクターに対して目を向けなくてはなりません。しかし、複数のセクターには協働が必要なのです。この10年にかなりの進展があったことを、私は自分の目で見て、そして自分の耳で聞いてきました。
国際社会が今日超えるべき重要なハードルは、従来の災害を理解するという段階から、「(災害)リスクを理解する」という段階へと進むことです。災害というものを表面的に理解することはできますが、それだけでは将来的に(災害)リスクを減らすことにはつながりません。リスクを減らすことができるのは、個別のリスクではなく、本当に社会を壊してしまうような、複合して機能する複数のリスクを私たちが理解したときなのです。」
仙台会議がやろうとしているのは、まさにこのことなのです。今後数十年にわたる防災行動の基礎を築く文書に関する協議を行うことと同等に、人々がお互いから急速に学びあい、刺激を受け合うことがこの会議における極めて重要な目的なのです。
IPS:(レジリエンス)強靭性が重要な問題となっていますね。貧しく脆弱な立場に置かれている人々は常に強靭さを発揮してきました。しかし、こうした人々の強靭さを強化するために必要なのはお金(開発のための資金)と技術です。仙台会議の結果として、これら2つのことがもたらされるとお考えですか?
MW:この会議の結果、というだけではありません。なにかあるとすれば、会議は、優先行動を掲げ、必要とされる計画の統合に対する理解を高めるものになるでしょう。いかなる場合においても、歴史的経験が示しているものは、強靭性のための最も重要な基礎は社会開発と経済発展だということです。人間は健康であり、よい教育を受け、選択肢があり、仕事がなくてはなりません。知っての通り、それに続くのは、もちろんある意味では、新たなリスクです。つまり、ライフスタイルのリスクです。
そこにあるのは技術ではないでしょうか。技術の問題といえば、その利用可能性の問題、それであればお金の話になりますが、技術をどうやって使うかという能力の問題でもあります。多くの国や個人にとって、これは本当に問題です。自分自身を見つめてみなくてはなりません。技術の進歩は人々がそれを使いこなす能力よりも、早いペースで進んでいるのです。
技術を手に入れる金銭的資源は、間違いなく制約にはなりますが、多くの場合、より大きな制約は「能力」の問題です。政府自身の投資(それは最も肝要なものですが)という点でお金の問題を考えれば、資金は増えてくることになるでしょう。強靭性を作り出すために必要なものをどう理解するかと言えば、それはリスクに対応できるインフラであり、リスクに対応できる農業であり、水管理システムなのです。それらはいずれも単独の問題ではありません。
投資は今後増えることになるでしょう。個人に対する投資、強靭性の社会的側面に対する投資、とりわけ最も貧しい人々に対するそれには、政策の方向性に関する明確な決定を必要とします。それはおそらく、ポスト2015年の普遍的開発アジェンダに関して今年後半になされる合意において、浮かび上がってくるでしょう。それは(従来のMDGにおける)貧困削減重視の姿勢を今後も継続するために何がなされるべきかについて焦点をあてるものとなるでしょう。
IPS:政府開発援助(ODA)の問題は、今日、何らかの関連性があるでしょうか。
MW:大きさと規模の上では、外国直接投資や民間部門の成長と比べれば、おそらく大きな関連性はないでしょう。しかしもちろん、ODAには、具体的な連帯の表現として、極めて重要な象徴的意味合いや、政治的な意味合いがあります。
持続可能な開発目標の議論やこの仙台会議の議論において、国際協力を含め、基盤となるような国家的資源が強調されている理由がこのあたりにあることが、おわかりなのではないかと思います。(原文へ)
しかし公平を期すために申し上げておくと、現在でも、多額のODAに依存している開発途上国は多く存在します。GDPの3割~4割が何らかの形でODAに依存しているのです。このような状況は、最終的な政治的選択に関していえば決して好ましいものではありませんが、現在の経済的現実でもあるのです。経済発展のニーズ、その国の経済成長を刺激し人々の成長を促すような種類の投資といったものに優先順位を与え続けていく必要があります。
翻訳=IPS Japan
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