【メキシコシティーIPS=エミリオ・ゴドイ】
小型武器の不正取引問題は、とりわけメキシコ、グアテマラ、ブラジルといった国々において、都市部の犯罪率を引き上げる元凶となっていることから、ラテンアメリカでは、軍縮問題の中でも特に懸念されている分野の一つである。
この問題は、「平和と発展に向けて:今こそ核軍縮を!」をテーマに世界75カ国から1700人の代表が参加して開催された第62回国連広報局NGO (DPI/NGO)会議における議題の一つである。
「これらの小型武器は、莫大な利益を背景に非合法に取引されているもので、一般の犯罪者や犯罪組織が、社会や治安部隊のメンバーを攻撃するために使用している。」と、メキシコのパトリシア・エスピノサ外務大臣は、水曜日(9月9日)に開会した会議の冒頭で語った。今年のDPI/NGO年次会議は、メキシコシティー歴史地区の中心部に近い修道院跡を会場に開催されている。
麻薬カルテルの活動が社会に幅広くはびこるメキシコにおいては、小型武器の問題は同国政府にとって特に悩みの種となっている。未知数の武器が、米国の合法市場で入手されるか、或いは、中央アメリカからの密輸ルートを通じてメキシコに運び込まれている。
メキシコ国防省の統計によると、2000年から2006年の間、合計257,993丁の小火器を破壊処分、723丁を紛失、2,367丁が盗難被害、238,838丁を登録、31,931丁が所有者・管轄区の間で移転と記録されている。
2006年下旬に就任した保守派のフェリペ・カルデロン大統領は、麻薬密売と戦うためにメキシコ全土に数千人にのぼる兵士を展開した。しかしながら、その後麻薬関連の殺人事件が急増し、非公式統計によると今年8月までに14,000人以上の犠牲者を出した。
このように多数の犠牲者を出した背景には、麻薬マフィアの火力を大幅に増強した小型武器の存在があった。
国連の統計によると、世界に出回っている小型武器の総数は5億丁以上で、この数値は、人口換算すると平均で12人に一丁の割合となる。小型武器は1990年以来起こった49の主な紛争の内、46の紛争で主要な役割を果たしている。
また、世界の小型武器取引の中で合法のものは約半分しかないと推定されている。さらに、合法的に輸出された武器も、行き着く先が闇市場である場合も少なくない。
国際小型武器行動ネットワーク(IANSA)によると、小型武器の不正取引から上がる純益は年間20億ドルから100億ドルと推定されている。IANSAは1998年に120カ国における800の非政府団体により設立されたネットワークである。
年間700万丁近いライフルと拳銃が、主に米国と欧州連合において製造されている。
この問題に取組むため、国連小型武器会議(正式名:小型武器非合法取引のあらゆる側面に関する国際会議)が2001年の7月9日から20日にかけてニューヨークの国連本部で開催された。
「メキシコでは、武装による暴力と女性への暴力は深刻な問題です。小型武器が暴力を増殖させているのです。」とIANSAのメキシコ代表エクトル・グエラ氏はIPSの取材に対して語った。
IANSAは、銃器を使用した対女性暴力で有罪となった人々に対して、銃器免許の発給を停止、或いは免許取消しを規定する法律を新たに制定するよう提案している。
7月下旬に英国のジャーナル誌『犯罪学と刑事司法(Criminology and Criminal Justice)』に掲載された米国、カナダ、スイスの共同研究によると、人口1億700万人を擁するメキシコでは、高い犯罪発生率が、平均余命を半年以上引き下げている。
このような背景からメキシコ政府は、小型武器貿易に関する合意と、武器の不法取引取り締まりに向けた国際的な努力を積極的に支持している。
また、『核兵器の拡散問題』が、今週金曜日(9月11日)まで開催予定のDPI/NGO年次会議のもう一つの中心議題である。本年次会議がニューヨークの国連本部以外の地で開催されるのは今回で連続2回目となる。
播其文国連事務総長は、開会の辞の中で、「今日地球上には、約2万発の核兵器が即時使用可能な状態で配備されています。」と述べ、国際社会に対して核軍縮に向けて努力するよう訴えた。
「平和なくして開発はありませんし、開発なくして平和が訪れることもありません。核軍縮を進めることによって、その両方を実現する手段を見出すことが可能となるのです。」と播事務総長は語った。
1991年に米国と当時のソ連の間で結ばれ、両国が保有する戦略核弾頭の上限を定めたSTART(戦略兵器削減条約)は今年の12月で失効する。
こうした中、9月24日に開催予定の国連安全保障理事会首脳級特別会合(議長:オバマ米国大統領)では、「核不拡散」と「核軍縮」の問題が話し合われる予定である。
また、2010年5月には、1970年に発効した核不拡散条約(NPT)の次回運用検討会議が、ニューヨークで開催される予定である。
地雷禁止国際キャンペーンを率いて1997年のノーベル平和賞を受賞した米国の活動家ジョディー・ウィリアムズ氏は、水曜日の記者会見で、「私はあくまで核兵器禁止条約実現を目指すよう働きかけていきます。なぜならば、もし私たちが『最終的な核兵器の廃絶という軍縮議論』に終始する限り、将来的に核兵器が禁止されることは現実にあり得ないからです。」と語った。
ラテンアメリカとカリブ海地域は、通称「トラテロルコ条約」として知られる、ラテンアメリカ及びカリブ海域核兵器禁止条約の下で、非核兵器地帯となっている。この条約は1967年にメキシコシティーで調印されたもので、メキシコはこの核兵器禁止条約の提案国の1つであった。
播事務総長は、「国連は『核兵器のない世界』実現に向けた戦略として、核軍縮のありかたについて次のような提案をしています。すなわち、核軍縮は、諸国の安全を強化するものでなければならず、そのためには、新たに開発がなされるかもしれない他の兵器が及ぼす脅威に備える一方で、核兵器の削減が、法的拘束力をもつ信頼できる検証システムの下で、情報公開と透明性を確保した中で実施されなければならないと訴えています。」と語った。
ウィリアムズ氏は、「もしこの重要な転換期に、市民社会組織が介入して核兵器廃絶に向けた活発な運動を展開しなかったとしたら、(核廃絶に向けた流れを押し進める)機会は失われてしまい、その後には、制御不能な恐ろしい軍拡競争が引き起こされるかもしれない。それは考えただけでも恐ろしい将来の見通しです。」と語った。
国際小型武器行動ネットワーク(IANSA)のグエラ代表は、今週開催された第62回国連広報局NGO会議は、「全ての武器、とりわけ小型武器に反対する力強い宣言を行って閉会すべきです。」と語った。 (原文へ)
翻訳=IPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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