【国連IPS=アルナ・ダット、バレンティーナ・イエリ】
世界の33億人以上が農村地帯に暮らしている。従って、農村開発は「民衆・地球・繁栄のための行動計画」とされている『持続可能な開発のためのアジェンダ2030』を実現しようとするならば、極めて重要な意味合いを持ってくる。
世界の指導者らがニューヨークの国連本部で25日に「持続可能な開発目標」(SDGs)を全会一致で採択した翌日、経済協力開発機構(OECD、加盟34カ国)開発センターと韓国外務省、国連開発計画(UNDP)が合同で、途上国でSDGsを達成する方法について討論する画期的なイベント(「セマウル運動高官級特別行事」)を開催した。
焦点があてられたのは、韓国の「セマウル運動」の成功から刺激を受けた、「新たな農村開発パラダイム」と「包摂的・持続可能な新共同体モデル」である。
2004年1月から06年11月まで韓国の外相だった国連の潘基文事務総長は会合で発言し、「指導者らは、すべての人々にとっての尊厳ある生活を創り出すと誓いました。私たちは、農村地帯の人々も含め、『誰も置き去りにしない』と約束したのです。地域開発なくしてはこのグローバル運動の進歩はあり得ません。」と語った。
潘事務総長は、韓国が国連に提示したこの開発モデルを歓迎し、「韓国の農村地帯は貧困から繁栄の地帯とへ変貌しました。セマウル運動にはSDGsの究極的な目標と共通する部分があります。」と指摘したうえで、「教育、勤勉、自助、相互協力を主要原則とするセマウル運動は、世界の持続的な繁栄のための新たな農村発展パラダイムになる可能性を秘めています。」と語った。
またこのイベントには韓国の朴槿恵大統領も参加した。朴大統領は、他の国々のそれぞれの条件に見合うように「新農村運動」モデルを適用させるべく、韓国がUNDPやOECDといかに協力しているかについて説明した。
「セマウル運動は韓国国民の生活を向上させ、私たちの社会を変えました。私たちはかつて世界のなかでも最も貧しい国の一つでした。しかし今や、私たちは世界の経済大国トップ15の中に入り、主要な国際支援ドナーの上位を占めています。」と朴大統領は語った。
韓国の開発の歴史は韓国の成長産業が牽引したとされることが多いが、国連韓国政府代表部のハン・ジョンヒ次席大使は、「セマウル運動は1970年代の成長をもたらした重要な要素であり、今日の急速な都市化と産業化の時代における、これからの環境的に持続可能な開発にとって刺激になるものです。」と語った。
「この運動は、あらゆる人が、絶望から希望へ、貧困から繁栄へとヴィジョンを変えるために必要とされるものです。」「韓国は世界の全ての国々と、この開発モデルから得た経験を共有したいと考えています。」とハン次席大使はIPSの取材に対して語った。
ハン次席大使はまた、「セマウル運動を主流の開発戦略から分けている顕著な側面は、エチオピアやウガンダ、ルワンダ、タンザニア、アフガニスタン、ミャンマー、ラオス、カンボジアなど、世界30か国において実施されてきた開発プロジェクトの中に統合されています。」「そこには、『やればできる』精神や、ジェンダー平等や人権に関する啓蒙的な観点を促進するなどの戦略が含まれているのです。」と語った。
朴槿恵大統領の父親である朴正煕大統領(当時)は、1970年にセマウル運動を開始し、各村にセメントと鉄を与え、村人が資源をうまく利用した程度に応じて村の順位付けを行った。当時の韓国政府はこうして、上位にランクされた村々にさらに資源を与え、村人が近隣の村々に対抗して最大限協力しあって努力するインセンティブと連帯感を創出した。
結果としてこの事業は、国民の間に連帯感を生み、地域と国をより住みやすい場所にしようとする流れに自らが加わることができるとの信念を民衆の間に育むことに成功した。また、セマウル運動に対する人々の熱狂を盛り立てる手段として、旗や歌、功労者に対する叙勲といった動機づけの手段が効果的に用いられた。
「私たちはこの経験から、音楽がこの開発プロセスにおいて大きな要素を占めると考えています。」とハン次席大使は語った。当時人々に最も親しまれた2曲の歌謡のうちの一つは、朴大統領自身が作曲したものだった。ハン次席大使は当時を振り返り、「『Jal Sala Boseh』という歌は、『豊かで繁栄する』というメッセージを送ったものであり、『Saebyuck Jong-i Ulryutneh』は『新しい一日がやって来た。さあみんなで新しい村を建設しよう』と歌ったものです。」と語った。
「地方機関を通じた自立、海外援助にできるだけ頼らない国にしようという考え、そして最終的には政府への依存を減らそうという考えに対する強い信念は、セマウル運動における重要な成長戦略でした。それは、より持続可能なプロジェクトにつながっていき、80年代初頭までには、政府予算よりも、地域の資源と資金に支えられるようになっていきました。」とハン次席大使は語った。
韓国政府の政策は、プロジェクトを実行する地方の公務員と住民を中央政府と結びつけるセマウル訓練センターの設置につながり、地方・中央の訓練組織における女性向けの指導訓練も行なわれた。各村からは12人の代表が出されたが、政府は、そのうち少なくとも1人は女性にすることを義務づけたことから、女性のエンパワーメントにつながった。
セマウル運動の経験は、その他の国々でもうまく再現することが可能だろうか? OECD地域開発センターのマリオ・ペッチーニ所長は「それは可能です」と指摘したうえで、「世界の農村人口33億人のうち92%は途上国に暮らしており、2028年までにはさらに数が増えると見られています。従って、「農村の視点」で見ることは、SDGsの実行と成功にとって不可欠です。」とペッチーニ氏はIPSの取材に対して語った。
貧困層の大多数は農村地帯に暮らしており、拡大する不平等や、都市が農村人口を吸収できないという制約と闘っている。
こうした人々は環境や社会、経済面で不安定な現実に直面しているため、彼らを見捨てることはできない。「農村開発とは、農業のみと結び付けられるものでもないし、衰退と結び付けられるものでもないということを心に留めておかねばなりません。」とペッチーニ氏は説明した。
「農業は農村経済の重要な部分を占めています。農業の生産性を向上させれば、必ず農村人口の過剰につながりますが、それは必ずしも農業部門のみの雇用で吸収できるわけではありません。農村開発を議論する際には、農業を含めた地域に根差した経済を語ることが重要ですが、同時に非農業雇用など、それを超える議論も必要なのです。従って、農村開発は必ずしもそのまま農業開発、或いは、工業開発を意味するものでもないのです。」とイタリア出身のOECD開発センター長は語った。
これは、政策決定への革命的なアプローチにつながる。
セマウル運動を基礎にした新たな農村開発のパラダイムが含意すべきものは、「さまざまな活動を考慮に入れた、複数の分野、複数の主体、複数の次元にまたがった地方・地域開発の新しいタイプです。」とペッチーニ氏は語った。
「新たな政府のアジェンダは、政府による様々なタイプの計画的な介入を必要とする、農村地帯の多様な資産に焦点を合わせるべきです。中央政府が、地域の住民や地元の知恵を考慮に入れず、一般的な枠組による政策を進めれば、失敗する可能性が高くなります。」とペッチーニ氏は付け加えた。
「一つの主体だけで事を為し得ることはできません。しかし、もし公的部門を効果的なものにしようとするならば、民間部門や労組、一般市民を巻き込まねばなりません。ここで重要な点は、まだ使われていない資産の価値をいかに定めるかということにあります。」とペッチーニ氏は強調した。(原文へ) 原文掲載日09.30.2015
翻訳=IPS Japan
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