ニュース|Q&A|「支援資金が減ればエイズによる死者が増大する」

|Q&A|「支援資金が減ればエイズによる死者が増大する」

【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界規模の経済危機により、国連が掲げる重要な開発目標の一つ「2015年までに今なお世界中で数百万の人々を苦しめているエイズの蔓延を阻止する」もまた脅かされている。 

ジュネーブに本部のある、国連エイズ合同計画(UNAIDS)事務局長のピーター・ピオット博士は、「エイズの支援金は潤沢だ」と繰り返し指摘されるのは誤解を招きかねないという。エイズ対策資金はなお不足しているというのが「厳然たる事実」なのである。

 昨年、世界的なHIV/エイズとの戦いの資金は大幅に増え、総計100億ドルに上り、2006年と比べて12%の増加となり、10年足らずで10倍に増えた。 

しかしそれでも昨年の不足額は81億ドルを超えていた。2008年にはその不足額がさらに拡大するおそれがある。 

12月1日の世界エイズデーを前にピオット事務局長は、「世界的な金融危機が支援の縮小という事態を招く懸念があり、そうなると途上国世界全般に、特にエイズ対策において、有害な影響をもたらすだろう」と語った。 

先週の時点で世界のHIV感染者は3,300万人。2007年の新たな感染者は全世界で270万人で、エイズによる死亡者は200万人だった。 

 「この疫病はいまだに対策を上回る勢いで広まっている」と、UNAIDS ニューヨーク事務所のバーティル・リンドブラード所長はタリフ・ディーン国連総局長の取材に応じて語った。 

「この病との戦いは延々と続いており、対策にも持続性が必要だ」とリンドブラード所長は続けた。 

「現在の新たな局面は、重大な課題も提示している。現在の気運を将来に持続させ、それを踏まえて今日の人々だけでなく今後20年30年後の人々のためにできる限り最善の成果を確実にもたらす体制を整えるという課題である」 

リンドブラード(BL)UNAIDS ニューヨーク事務所長とのインタビューの抜粋を以下に記す。 

IPS:低中所得国のHIVプログラムに対する支援資金は6倍に増えたにもかかわらず、世界では3,300万人がいまだにHIV感染者であり、昨年は270万人の新たな感染者が生じた。今日の世界的な状況をどのように考えるか。 

BL:エイズは時代を特徴づける問題であり、今日でもそうだが、21世紀を通じてずっと優先課題であり続けるだろう。というのもエイズは気候変動と同じように長期的で地球規模の影響を持つ地政学的な事象だからである。私たちは今、エイズ対策の新たな局面に入りつつある。初めて、エイズ対策が現実に成果を生み出している。 

特に深刻な影響を受けている国々で、HIVの予防と治療に関して大きな進展が見られた。低中所得国では今日、300万人以上が延命効果のあるHIV治療薬を利用できている。 

UNAIDSの2008年版エイズ報告書によると、2007年の新たな感染者は、前年の300万人から270万人へと減少した。原因の一つとして、多くの国で人々が、安易に性行為をしない、性行為の相手を減らす、性行為の時には避妊具を使用する、など性行動を変化させ始めたことがあげられる。HIVに感染して生まれる子どもの数も減った。子どもへのHIV感染を防ぐための医療サービスが必要な女性の33%は、そうしたサービスを利用できている。 

こうした事実は端緒に過ぎない。この世界規模の疫病は感染者の割合(有病率)については横ばいとなったが、それでもHIV感染者の総数は世界で3,300万人に増えており、毎日7,500人近くが新たに感染している。 

エイズ禍は世界のどの地域でも終焉を迎えていない。新たに治療を受ける2人ごとに、5人の新たな感染者がいる。さらに、ドイツ、英国、オーストラリアなどで報告されているように、流行が収まったと思われている地域で新たなHIV感染者の数が増えている。 

IPS:国連の最優先課題の一つであるミレニアム開発目標(MDGs)は2015年までにエイズの蔓延を阻止すると提唱している。潘基文国連事務総長は現在の金融危機が全てのMDGsを揺るがせる可能性があると懸念している。今回の経済危機には、エイズとの戦いへの影響もあるだろうか。 

BL:何の手だてもなく資金不足の犠牲になるのは承服できない。この先数年間の死者が数百万単位で増えることになり、一方で予防が後手になれば感染者がさらに増えてその後のコストがいっそう増大する。支援国および各国政府はエイズ対策を持続し拡大するために全力を尽くし続けることが不可欠である。それができないと、数百万の人々が悲惨な状況に陥る。これまでの膨大な投資もまったく無効になってしまうし、2015年という期限までにMDGsを実現するという気運をそぐことになる。 

資金拠出が制約される時期においては、プログラムのいっそうの効率化および実施の強化もかつてないほど重要になってくる。援助国および被援助国政府双方による、2005年の援助効果向上に関するパリ宣言の完全な実施が必須である。 

IPS:過去数年にわたり、世界の全HIV患者の半数を女性が占めている。改善が遅れているのはなぜか。経済的な問題か、それとも政治的な、或いは、文化的な問題か。 

BL:HIVは、特に女性の間で蔓延し、影響が強まるという状態が続いている。これは男女の不平等、婦女子に対する執拗な汚名や差別、HIVに対する女性の脆弱性を緩和するための権利拡大の欠如などの、根深い要素による。 

女性をHIVに対して脆弱にし、病の影響(特に看護の分野)を過度に負わせている社会的、文化的、経済的な要素は、各国のエイズ対策にとって大きな障害となっている。 

IPS:国連の積極的な運動にもかかわらず、多くの国がHIV患者を保護する法律を持たないことから、エイズに押された社会的烙印ははびこっている。世界には反差別法の成否の例はあるのか。 

BL:67%もの多数の国がHIV感染者を差別から保護する法律を備えていると報告している。たとえばナミビア議会は2007年に可決されたナミビアの労働法案でHIVを差別の禁止基準に含めた。 

バハマ、マラウィ、南アフリカ、ジンバブエの法律は民間企業の雇用の条件としてHIVテストの強制を認可していない。カンボジア、ガイアナ、その他では、質の高い医療を平等に受けるHIV患者の権利を法律で明記している。 

けれどもこうした法律の実施レベルはこれまで実証されていない。さらに、2008年6月のエイズに関するハイレベル会議の際、国連事務総長等が国連加盟国にHIV感染者に課せられた旅行規制を解除するよう求めたが、63カ国がいまだにHIV患者というだけで入国、滞在、居住を何らかの形で規制している。 

いかなる理由があろうといかなる期間であろうとすべてのHIV患者の入国を認めないと宣言している国が8カ国あり、さらに短期滞在ビザの発券さえ拒否している国が5カ国ある。28カ国はHIV陽性と判明した時点で患者を国外退去させている。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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