【ローマIDN=フィル・ハリス】
世界中の市民社会の活動家らが、新たに国連事務総長に就任したアントニオ・グテーレス氏に対して、「市民社会の擁護者となり、国連をより包摂的な組織にするための具体的な措置を取るよう」要求している。
国連事務総長職を選ぶプロセスを改革するよう国連に呼びかけてきた「70億人のための1人」キャンペーン創始者のうち4人が、『市民社会の国連への関与を強化する』と題された最新の報告書の中で、これがいかにして可能であるかについて、世界各地の市民社会組織から集めた幅広い提案を紹介している。
英国国連協会(UNA-UK)、フリードリッヒ・エーベルト財団(FES)ニューヨーク支部、シヴィカス(CIVICUS)、アヴァーズ(Avaas)の4つの団体は、国連が、諸政府間だけではなく、地域のリーダーや市民団体、活動家を巻き込んで多元主義を強化する方法について、実践的な勧告を提示している。
報告書はまえがきで「世界の70億人が国連のもっとも重要な利害関係者であり、受益者でありつづけている。国連の実績は彼らの目を通して測られるべきだ。」と強調している。
また、世界的に不確実な時代にあって、人々は組織や政治的リーダーシップへの信頼を失いつつあり、他方で国家主義的な傾向が国際システムへの深刻な脅威になっていると警告した。
報告書は、国連難民高等弁務官やポルトガル首相を歴任してきたグテーレス氏が、国連事務総長に任命される前に「市民社会との対話と協力が今後数年の国連活動の中心的な側面になるだろう」と約束していたことを想起した。
若者活動家やNGOの代表、専門家など、この報告書の執筆者は、このグテーレス氏の約束をとりあげ、青少年問題や持続可能な開発目標(SDGs)、ジェンダー、平和構築などに関する幅広い共通の利益に関して、市民社会と広範な関係を構築していくよう求めた。
アフリカのフェミニスト活動家で、CIVICUS理事、「アフリカ若者運動」の初代議長でもあるアヤ・チェビ氏は、「国連は民衆に対して最終的に責任を取るべき機関です。国連が永続して任務を果たせるかどうかは、主に193の加盟国の市民に奉仕し積極的に関与できる能力にかかっています。」と語った。
チェビ氏は、「国連は、これまでの市民社会との関わりでは、必ずしも現場レベルの現実を反映しているとは限らない大規模で資金力の豊かな団体の意見を聞く傾向にあり、もっとも支援を必要とする市民の声は届いていなかった」と指摘したうえで、「SDGsに向けた国連の新アジェンダは、世界の『北』と『南』における市民社会の間の権力関係のバランスを変える機会を提供しています。」と語った。
青少年問題に関しては、気候変動に関する青年活動家で、気候変動キャンペーン「将来は私たちのものだ(The Future is Ours)」の共同署名者でもあるカジ・アテーア氏は、「将来に最大の利害関係を持っている」若い世代が、将来における気候変動に関する交渉に代表として派遣されるべきだと主張している。
アテーア氏は、「権力者はお互いの意見にばかり関心を持っています。しかも私たちの代表として現在決定を下す立場にある人々は現場で結果を確認しようとしません。」と指摘したうえで、「私たちはミレニアル世代として、私たちが向かう方向性を導き変化をもたらす必要があります。起こるべきことについて発言すべきなのは私たちなのです。今こそそのときであり、将来は私たちのものなのです。」と語った。
地域開発コンサルタント「2乗のインパクト(Impact Squared)」の創設者・CEOであるノア・ガフニ・スレイニー氏は、国連の野心的な持続可能な開発アジェンダの達成にミレニアル世代を関与させるよう呼びかけた。
スレイニー氏は、世界を変えたいと思っているのはミレニアル世代だけではないことを認識しつつも、「国連がSDGsやパリ協定のような野心的な国連の取り組みを追求するうえで、この影響力がある世代の能力に関与し活かしていこうとするならば、この世代が以前の世代とはどれほど異なるかを認識することがきわめて重要です。」と語った。
SDGsの問題には、「ステークホールダーフォーラム」の代表で「持続可能な開発に向けた英国のステークホールダーたち」(UKSSD)の共同議長でもあるファルーク・ウラー氏も触れた。ウラー氏は、「これらの目標達成には公共政策だけでは不十分で、地域レベルの行動とつなげる必要がある。」と論じた。
ウラー氏は、「国連の役割のひとつは、SDGsを履行していくうえで、市民社会を巻き込んだより強力でより公式なメカニズム…さらには、市民社会を含む定期的で透明性が確保された包摂的な報告メカニズムを立ち上げ資金提供することを奨励することにあります。」と語った。
もう一人の報告書執筆者は、女性・女児のための公正な世界の実現に向けて活動している国際女性人権団体「イクオリティ・ナウ(Equality Now)」のプログラム・オフィサーであるメリーナ・リト氏である。「イクオリティ・ナウ」は、女性国連事務総長の実現に向けてこの20年間活動を続けてきており、国連で働く女性の割合が少ない点を問題視している。
リト氏は、「最近の国連事務総長選で女性が指名されなかったのは遺憾」という「イクオリティ・ナウ」の見解を述べたうえで、グテーレス新事務総長に対しては、「国連職員間のジェンダー平等の確保や、世界中の女性・女児に対する暴力・差別の予防を優先化する取り組みを通じて、フェミニズムの課題に対する揺るぎない支援者になる」ことを求めた。
リト氏によると、ジェンダー問題に取り組んでいる市民社会の声を最高レベルの政策フォーラムにおいて取り入れることを通じて、女性の権利の問題について国連がリーダーシップを取る緊急の必要性がある。
「女性の権利への政治的風当たりがますます強まる時代にあって、女性の市民社会の声を支持することには、国連が加盟国に対してリーダーシップを示し、持続可能な開発目標や既存の国連の人権枠組みの中でこれらの問題に対する解決姿勢を見せることも含まれます。」とリト氏は語った。
他方、国際社会で平和構築能力の強化がますます求められる中、クウェーカー国連事務所(QUNO)の国連代表であるレイチェル・メイデニーカ氏は、国連平和構築委員会は市民社会とより体系的に関わることで恩恵を受けるだろうと論じた。
「平和構築委員会が新たな『持続可能な平和』アジェンダの実行に向けて次のステップを取ろうとするのならば、市民社会との関与をより強化し組織化すべきなのは明らかです。」とメイデニーカ氏は語った。
UNA-UKのキャンペーン責任者を務め、「70億人のための1人」の共同創始者でもあるベン・ドナルドソン氏は、国連システムやその外部にわたって市民社会を支援すべきとの報告書の呼びかけをまとめて、「国連は『市民社会との対話と協力』というグテーレス事務総長のビジョンを実現するために市民社会の空間を守るように協調的な支援を行わねばなりません。」と語った。
ドナルドソン氏は、国連特別報告官のマイナ・キアイ氏の言葉を引いている。キアイ特別報告官は2016年に「私たちはこの10年間、抑圧的な法律や慣行が前例のない規模で世界中に広がるのを目の当たりにしてきた。これらはすべて、民衆が組織化し、発言し、民主的な権利や義務に関わるのを阻止するために企図されたものだ。」と記している。
ドナルドソン氏によれば、「市民社会スペース(市民社会が活動できる領域)は『急速に萎んで』おり、国連は『市民社会スペースを守り、再開を支援し、スペースを拡大する取り組みの先頭に立つために、可能な限りの手を尽くさなければならない。』」(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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