INPS Japan/ IPS UN Bureau Reportコミュニティーラジオが支えるタンザニアの気候レジリエンス

コミュニティーラジオが支えるタンザニアの気候レジリエンス

【タンザニア・ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】

マングローブが密生するルフィジ河口の夜明け。木製カヌーの櫂が静かな水面を進むなか、穏やかな声が潮の上を流れていく。「今日は、洪水からマングローブを守るために、地域社会ができることをお話しします。」語りかけるのは、タンザニア放送協会(TBC)のTBC・FMで司会を務めるエヴァリリアン・マッサウェである。

ほどなく放送は現場の音へと切り替わる。ぬかるむ泥の音、長靴が擦れる音、マングローブの苗木が揺れる音。デルタで作業する女性たちの笑い声が重なり合う。

タンザニア各地の多くの地域社会にとって、コミュニティ・ラジオは、塩害の進行や干ばつ、洪水といった深刻化する気候影響の中で、重要な「教師」となっている。

レジリエンスの物語

マッサウェは毎週、荒廃したマングローブの再生に取り組む漁民や、護岸を築く沿岸住民、干ばつ耐性作物を導入する家族などの物語を伝えている。番組では、複雑な気候科学を日常生活の言葉に置き換え、多くのリスナーの関心を引きつけてきた。

気候正義、適応資金、最前線に立つ地域社会との連携強化が主要議題となったブラジルでのCOP30が閉幕するなか、洪水多発地帯や干ばつに苦しむサバンナ、脆弱な沿岸集落を抱えるタンザニアでは、コミュニティ・ラジオが気候変動への対応を担う重要な主体となりつつある。

ラジオ保有率が依然80%を超える同国では、これらの放送局が、科学的予測と一般家庭を結ぶ信頼の媒体として機能している。抽象的な気候リスクを、人々の暮らしに即した物語へと翻訳しているのである。

COP30で強調された議論とも響き合う形で、携帯録音機と地域の知恵を頼りに活動する放送人たちは、農民、漁師、牧畜民の声を国際社会へと届けている。

「ラジオは物語を語るだけではありません。行動を呼び起こすのです」
―コミュニティ放送人、アミナ・モハメド

水上の命綱

ルフィジ・デルタの茅葺き小屋で、漁師のファキル・ムスミは古いラジオに耳を傾けながら網を修繕している。そのラジオは、彼にとって信頼できる気象計だ。

「強風の知らせを聞いたら、仲間に待つよう伝える。潮位が上がると分かるからだ」

マングローブが嵐から家屋を守ることを、彼はラジオを通じて初めて知った。2024年の大洪水後、ムスミは近隣住民とともにインド洋沿岸で再植林に取り組んだ。それ以来、「バハリ・イェトゥ、マイシャ・イェトゥ(私たちの海、私たちの命)」を欠かさず聴いている。

気候を教えるラジオ

「ラジオはより親密な形で物語を伝えます」とマッサウェは語る。「インターネットにアクセスできない人々にとって、声は橋なのです」

彼女は「ゼロから学ぶ気候変動」というシリーズを制作し、専門用語を日常語に置き換えた。

「気候変動とは何かと聞くと、多くの人が『暑い天気』と答えました。そこで、伐採や木炭利用も天候に影響すると説明しました。」

乾いた土を踏みしめる音、内陸へ忍び寄る塩水の音。音そのものが物語となる。

「時に、統計よりも音の方が雄弁です。」

番組をきっかけに、トウモロコシからキャッサバへ転換する農家や、雨水貯留を学ぶ女性が増えている。

音で語られる気候の現実

北方数百キロに位置するモシFMでは、記者リリアン・ミハレが録音機を手首にぶら下げ、スタジオに入る。担当番組は「ウカメ・ササ・バシ(干ばつに終止符を)」だ。

彼女の脚本は、現場の音である。牛鈴の金属音、子どもたちの話し声、井戸で水を汲むマサイ女性の笑い声。

「音が私の台本です。干ばつが最も深刻な場所へ行きます」

家畜をすべて失った家族を取材した際には、その声ににじむ痛みが、そのまま伝わった。

信頼のメディア

不規則な天候、長期干ばつ、洪水、害虫被害。こうした状況下で、コミュニティ・ラジオは気候科学を実践知へと変換し、世界で交わされる議論と農村の現実を結びつけてきた。

「雨が遅れて不安だった農家に、土壌水分を保つ技術を伝えました。収穫は予想以上でした」

塩害に苦しむルフィジでは、台所や漁船、商店でラジオが鳴り、早期警戒やアグロフォレストリー、水管理に関する知識が、先祖伝来の知恵と並んで共有されている。

「以前はトウモロコシだけでした。」と農民のファトゥマ・ジュマは語る。「ラジオで果樹栽培を学び、今では雨が少なくても、食料と収入の両方を得られています。」

若者主導の団体も、TBC・FMなどの放送局と連携し、気候スマート農業や植林の推進を担っている。

沿岸の声、共有される運命

ザンジバルのカティFMでは、アミナ・モハメドが番組の冒頭で、まず住民の声を届ける。

「海の主は漁師であり、母親であり、若者ですから。」

かつて放送でマングローブ伐採を悔いた漁師フセイン・コンボは、現在では1万本以上の苗木を植えるボランティアグループを率いている。

「ラジオは行動を生みます。」とモハメドは語る。

命を救う警報

タンザニア気象局(TMA)は地域ラジオと連携し、予報を届けている。2024年のキロムベロ洪水では、早期放送により被害軽減が実現した。

ドドマの番組「キリモ・ナ・マバディリコ・ヤ・タビアンチ」は壁のない教室だ。

「マルチングは怠けだと思っていましたが、今は違います」と女性農民は語る。

マイクの裏側の課題

資金不足、停電、老朽化した設備。困難は少なくない。

「それでも伝え続けます。大切な物語だからです。」

レジリエンスの道具として

タンザニア気象局(TMA)の気候学者、ジョン・ムビセは指摘する。

「ラジオがなければ、適応は成り立ちません。」

レジリエンスの声

夕暮れのルフィジで、漁師は静かに言葉を選ぶ。

「気候は変わる。しかし、私たちも変われる。」(原文へ

この特集はオープン・ソサエティ財団の支援を受けて制作された。


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