INPS Japan/ IPS UN Bureau Reportロシアの報道の自由度は「冷戦後最悪」

ロシアの報道の自由度は「冷戦後最悪」

【ブラチスラヴァIPS=エド・ホルト】

ロシアで米国人ジャーナリストが逮捕されたことは、同国にいる外国人記者に冷ややかな警告を与えただけでなく、国内のあらゆる反対意見を最終的に封じ込めたいというロシア政府の願望の表れであると、報道の自由を監視する団体「国際新聞編集者協会(IPI)」が警告した。

ウォール・ストリート・ジャーナルの記者エバン・ゲルシュコビッチ氏が3月末に拘束されたことは、プーチン政権が情報統制に対する既に厳格な支配を強め、批判者に対する弾圧を拡大している可能性を示しているという。

「この動きは極めて深刻です。冷戦後初めて米国人ジャーナリストが拘束されただけでなく、非常に重大な容疑がかけられました。これはさらなる言論統制に向けた大きな一歩です。(独立した声を取り締まることは)ここしばらくのプーチン政権の方針であり、ますます多くの人を標的にしているようです。」と、「国際新聞編集者協会」のアドボカシー・オフィサーであるカロル・ルシュカ氏はIPSの取材に対して語った。

米国籍のゲルシュコビッチ氏は、取材に赴いていたエカテリンブルクでスパイ容疑で逮捕された。現在、モスクワのレフォトヴォ刑務所に拘留中で、スパイ容疑で最長20年の懲役刑に処される可能性がある。彼の最近の報道の中には、ロシア軍がウクライナ戦争で直面している問題や、欧米の制裁がロシア経済にどのようなダメージを与えているかについての記事があった。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙はゲルシュコビッチ記者に対するスパイ容疑を否定しており、この逮捕は欧米の指導者や権利運動家から非難を浴びている。また、この逮捕をプーチン政権の政治的策略であり、ゲルシュコビッチ記者は将来、米国との捕虜交換に利用するために拘束されたのだとする見方もある。

「国際新聞編集者協会」は、たとえそうだとしても、今回の逮捕は、プーチン政権の方針に従わないジャーナリストに対する非常に明確なメッセージでもあるとしている。

Logo of Committee to Protect Journalists
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ジャーナリスト保護委員会(CPJ)の欧州・中央アジアプログラムコーディネーターであるグルノザ・サイード氏は、IPSの取材に対して、「逮捕が政治的なものであることは明らかです。エヴァンの容疑について聞いたとき、まず脳裏に浮かんだのは『米国は今、どのような高名なロシア人を収監しているのだろうか』ということでした。」と指摘した上で、「外国人特派員は、ロシアの実像を世界中の読者に伝える貴重な存在です。今回の逮捕は、すべての外国人記者に、ロシアでは歓迎されておらず、いつでも罪に問われる可能性があるというメッセージを送っています。今後、記者達を取り巻く状況は予測不可能であり、安全でないことは明らかです。」と語った。

ロシアの独立系メディアは、ウクライナへの侵攻が本格化する以前から弾圧に直面していたが、以降その傾向が強まっている。

プーチン政権は、戦争に批判的な情報へのアクセスを阻止するため、批判的な新聞社のウェブサイトやソーシャルメディアプラットフォームをブロックする動きを見せているほか、「軍の信用を失墜させる」行為を犯罪とする新たな法律を根拠に軍事検閲を導入している。

このため、従業員が刑務所に収監されるリスクを回避するため、先手を打って閉鎖するメディアもあれば、スタッフの数を大幅に削減したり、ニュースルームを国外に移転したりして、事実上の亡命状態に追い込まれたメディアもある。

これまで海外メディアは、この弾圧の影響を比較的受けずに済んでいた。ウクライナ侵攻が始まった当初、多くの外国人特派員は安全上の懸念から国外に引き上げた。しかし、ゲルシュコビッチ氏のようにロシアに戻って報道を続けた外国人記者も少なくなく、彼らは最近までロシア人記者よりも比較的自由度の高い報道ができていた。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

「だからこそ、ゲルシュコビッチ氏の逮捕は、プーチン政権下での独立ジャーナリズムの将来にとって非常に心配なことなのです。このような重大な容疑で外国人ジャーナリストを逮捕することは、プーチンの情報戦における新たに重要な局面を示すものです。その目的は、ロシアに残って、ウクライナ戦争に関連する現地取材や調査を敢行する全ての西側ジャーナリストを威嚇することにあります。」と国境なき記者団の東欧・中央アジアデスク長、ジャンヌ・カベリエ氏は語った。

「これは、彼らがロシア人の同僚よりも相対的に保護されていないことを示すシグナルです。いつものように、(これは)恐怖を広め、彼らを黙らせるためのものです。」昨年3月以来、すでに数十の外国メディアと数百の地元独立ジャーナリストがロシアを去っています。これにより状況は一層悪化し、ロシアから信頼できる情報源がさらに得難くなっています。」

また、今回の逮捕は、プーチン政権がロシア国内の情報をほぼ完全に統制下に置くという目標に向かって進んでいることを示すものだと考える人もいる。

「かつてソ連に存在したような検閲にはまだ程遠いですが、プーチンと側近らは長い間、ソ連の検閲制度が自分たちの模範であると言ってきました。これがロシアでのやり方であり、政府が望んでいるやり方なのです。嘆かわしいことだが、これが現実です。」とIPIのルシュカ氏は語った。

「最終的には、ロシアから発信されるすべての情報が厳しく管理された冷戦時代のようになる可能性があります。」とCPJのサイード氏は付け加えた。

一方、今回の逮捕は、より広範な人々へのシグナルでもあるとの見方もある。

 Alexei Navalny at one of the rallies in Moscow./By Dmitry Aleshkovskiy, CC BY-SA 2.0
 Alexei Navalny at one of the rallies in Moscow./By Dmitry Aleshkovskiy, CC BY-SA 2.0

近年、プーチン政権は、政治のみならず他の社会分野でも、反対勢力を封じ込める動きを見せている。野党指導者アレクセイ・ナワルヌイのような声高な批判者が刑務所に収監される一方で、国内外の権利団体を含む多くの市民社会組織が当局によって閉鎖された。

このような弾圧はウクライナ侵攻から強まり、IPSの取材に応じたロシア人は、特にウクライナ侵攻への批判を犯罪とする法律が導入されて以来、多くの人が公の場で発言することに警戒心を強めている、と語った。

「まったくばかげた事態です。戦争のために物資不足や供給の問題が発生しており、私たちはそれをいつも職場で見ています。私たちは物資不足の問題を職場で話せますが、その原因となっている『戦争』という言葉は使えません。その言葉を口にすれば、何年も刑務所に入ることになるからです。」とモスクワの公共部門で働くイワン・ペトロフ(仮称)はIPSの取材に対して語った。

ペトロフは、「戦争に反対している多くの人々を知っていますが、誰もがわずかでも反対を表明することを恐れています。」と付け加えた。

「戦争が悪いことだとわかっていても、それを口にすることができないのです。検閲が非常に厳しく、経済への悪影響に触れただけで、反逆罪で投獄されることもあります。」とペトロフはIPSの取材に対して語った。

Logo of Human Rights Watch
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このような背景から、ゲルシュコビッチ氏の逮捕は、戦争や政府を支持しない一般のロシア人の恐怖心を強め、彼らが発言するのを止める可能性が高いと、権利運動家たちは語った。

「あらゆる報道の自由を抑圧することと、すべての独立した声を抑圧することを切り離して考えることは困難です。(ロシア当局が)このような著名な記者を明らかに偽りの理由で逮捕するとき、その真の目的が何であろうと、彼らは間違いなく、それがより広い幅広い国民に送る冷徹なメッセージを十分に認識しています。」と、ヒューマンライツウォッチの欧州・中央アジア部門副所長のレイチェル・デンバーは、IPSの取材に対して語った。(原文へ

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