【サクニンIPS=ピエール・クロシェンドラー】
イスラエルの極右グループは3月24日、高等裁判所の許可を得て、パレスチナ支持の機運が高くイスラエル・イスラム運動の中心地であったガリレアの町ウンム・エル・ファムで国旗を翻しながら示威行進を行った。数百人の参加者は、町の外れを数百メートル歩いた後、抗議するアラブ系市民の投石を避けるため警察に守られて同市を後にした。
同行進は、彼らのリーダー、メイヤ・カハネ師(Meir Kahane)が同地にイスラエルの国旗を掲げてから20年になるのを記念すると共に、カハネ師の後輩が打ち出した具体的政策の支持表明が目的であった。
極右の国家統一党は、最近の選挙で4議席を獲得。首相指名のベンヤミン・ネタニヤフ元首相は同党との連立も検討していた。今や極右の考えは、ユダヤ系市民の大きな支持を得ている。この事は、Yisrael Beiteinu(我が家イスラエル)のアヴィグドール・リーバーマン党首が来週外務大臣に就任することからも見てとれる。リーバーマン氏の選挙スローガンは、イスラエル民主派と特にアラブ系市民に向けられた「忠誠心の無い者は市民ではない」であった。
イスラエル国内のユダヤ系市民と少数派のアラブ系市民との分裂は進んでいる。ユダヤ系市民は、アラブ系市民の多くは過激派で、ユダヤ国家の存在を阻む民族統一主義者と見なし、様々な差別を行っている。一方、アラブ系市民は祖国であるイスラエルに市民として完全に受け入れられること、そしてパレスチナ同胞との連帯の間で揺れている。
アラブ系市民の中には、このジレンマから逃れるにはイスラエルを「全ての市民のための国家」に変質させることが重要との主張がある。人口2万6千人のサクニン市のスポークスマン、ガザル・アブ・ラヤ氏は、「我々は、他の市民と同様の権利、義務を有するイスラエルの完全なる構成員になりたい」と語る。これを体現したのが、5年前に国際サッカー大会で優勝した同市のサッカー・クラブ「ブネイ・サクニン」である。
人権活動家のイブラヒム・ブシュナク氏は、「ブネイ・サクニンは、プレーを通じ否定と共存に橋を架ける方法を示した。相互理解があってこそ、共存は可能だ」と語る。
ウンム・エル・ファフムの声だかの政治要求と異なり、サクニンは、パレスチナの遺産と歴史に背をむけることは拒否しつつも、イスラエルの現実を考慮する姿勢を示している。昨年11月、サクニン市長に選出されたサッカー・クラブのマゼン・ガナイム会長は、「マイノリティーに十分な権利が与えられていなくても、まずは手にしている権利を保持することだ」と語っている。
イスラエルの極右勢力の台頭とアラブ系市民の姿勢について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩