SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)世界の力を結集し核兵器禁止条約を支援

世界の力を結集し核兵器禁止条約を支援

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

(この記事は、2020年10月30日に「The Japan Times」紙に最初に掲載されたものです。)

【Global Outlook=ラメシュ・タクール

10月24日、広島と長崎に原爆が投下されてから75年を経て、ホンジュラスが核兵器禁止条約(TPNW)の50番目の批准国となった。条約は(2021年)1月22日に発効する。

サーロー節子は、カナダに住む被爆者である。彼女は、世界中の被爆者の代表として積極的に公の場で活動し、疲れを知らずに核兵器廃絶を訴え続けてきた。2017年のノーベル平和賞授賞式には、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の小さな代表団のひとりとして出席した(上の写真:ICANのベアトリス・フィン事務局長とともに)。2~3年前に私がトロントで行った講演で、彼女が聴衆の前に立ったとき、室内の空気が電気を帯びたようになり、心を揺さぶるずっしりとした歴史の重みが私の肩にのしかかるのを感じた。2017年7月7日、ニューヨークの国連本部で核兵器禁止条約の歴史的採択が行われた後、彼女は締めくくりのスピーチをするという大きな栄誉を与えられた。その場で彼女は、「核兵器は、これまでずっと道徳に反するものでした。そして今、法律にも反するものとなりました」と、記憶に残る宣言を行った。その宣言は3年早いものだったが、私たちは、彼女の言葉の重要性を理解した。(原文へ 

10月24日、広島と長崎に原爆が投下されてから75年を経た、国連創設75周年の国連デーに、ホンジュラスが核兵器禁止条約の50番目の批准国となった。条約は、1月22日に発効する。その日から、核兵器は本当に国際法によって違法となる。延期されている発効50周年記念の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議は、この新たな制度的実体のTPNW発効を間近に控え、来年開催される予定である(訳者注=パンデミックのため2021年1月に延期開催の予定だったが、8月に再延期された)。禁止条約は、核兵器保有国の中国、北朝鮮、米国や、核の傘で守られている同盟国の日本、オーストラリアなど、非参加国に対して法的義務を課すことはできない。しかし、核兵器に関する人道法、規範、実践、議論からなる包囲網を再構築するものとなる。

地理的かつ地政学的に見晴らしのきく地点から見ると、禁止条約は、非差別的かつ普遍的であるという点で大きな利点を有している。インド太平洋地域の保有4カ国(中、印、パキスタン、北朝鮮)のうち3カ国は、NPTに参加していない。中国のみがNPTに参加している。インドとパキスタンは署名しておらず、インドは、NPTが保有5カ国(米、中、英、仏、ロ)と残りすべての非保有国との間に核のアパルトヘイトを生み出したとして、激しく批判している。北朝鮮はNPTに参加していたが、2003年に脱退し、以来、核兵器と大陸間到達能力を構築している。これによりNPTは、インド太平洋地域にとって、また、朝鮮半島、インド・パキスタン間、中印間(いずれも核の火種となりうる場所である)にとっての法的ガバナンス構造として、ほとんど無意味になってしまう。

1996年9月に採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)は、一連の軍備管理協定の中では珍しいことに、法的には未発効であるものの実務的には完全に機能している。条約では、決定的な原子力設備および活動を有する44カ国を特定しており、発効にはこれらの国すべての批准が必要である。しかし、これは、神の生きている間とは言わないまでも、私の生きている間には実現しそうにない。条約に協力的でない8カ国のうち、中国と米国は署名したものの批准しておらず、インド、北朝鮮、パキスタンは署名もしていない。このような方法は、CTBTの法的地位を妨害するために意図的に仕組まれたものではないかと疑う者もいる。CTBTの採択以降実施された核実験はすべて、1998年から2017年の間にインド太平洋地域で実施されたものである。

核兵器禁止条約は、これとは対極的な罠にはまっていると言われる。核兵器を保有する9カ国すべてが条約に反対しているが、条約は、これらの国の参加を発効要件とはしていない。そのため、実際面では禁止は実行不可能なものになっている。さらに悪いことに、禁止条約はNPTを損なうもので、核軍縮を推進しようとする努力を妨げるものだと批判する者もいる。いらだちをあらわにする米国は、条約署名国に宛てた尊大な書簡において、「現在も将来も国際社会を分断し、核不拡散・軍縮に関する既存のフォーラムにおける分断をさらに広げるリスクを冒す」条約を採択するという「戦略的な誤り」を犯したと述べた。

NPTは、年月とともに色褪せ、規範としての能力が衰えているように見える。目覚ましい成功を収めはしたが、NPTは、根本的に異なる地政学的秩序において核問題を管理する最上位の国際枠組みとして策定されたものである。それは、平和目的の原子力技術の移転を、いくつかの条件によって監督するものだった。不拡散の目標は、核兵器を持たないすべての国の間に広く行き渡った。つまり、実際面では、条約本来の3本柱のうちいまだ実行されていない唯一の柱は、第6条に定める核軍縮の義務なのである。

それを雄弁に物語るのは、ロナルド・レーガンとミハイル・ゴルバチョフが着手し、その後任者が引き継いだ米国とソ連/ロシアの核弾頭数の大幅削減である。これは、NPTの外で進められた2国間プロセスであったが、現在は頓挫し、進路を反転させつつある。既存の合意は、新たな地政学的対立関係という、あたかもハイウェイでひき殺された動物の様相を呈しつつある。中国は、中距離核戦力全廃条約(INF)を3カ国(米、ロ、中)で締結しようとする努力を全面的に拒絶している。米国は、2015年のイランとの核合意から離脱し、さらには新戦略兵器削減条約(新START)の延長に消極的な姿勢を見せ、核秩序の支柱倒壊という絶望的状況に拍車を掛けている。

さらに悪いことに、NPT第6条を運用可能にすることへの拒絶に加えて、NPT本来の柱がじわじわと侵食されつつある。NPTで認められた核兵器保有5カ国は、NPTによって核兵器の保有と配備を許可されたという主張から、ニック・リッチー(Nick Ritchie)の表現によれば「資格、法的権利、永続的な正当性の表現」へと、さりげなく態度を変えてきた。これを何より如実に示すのは、トランプ政権で軍備管理担当のトップの座に就くクリス・フォード(Chris Ford、訳者注=トランプ政権の国家安全保障、不拡散担当国務次官補)である。彼は、(2020年)2月11日にロンドンで行った演説で、軍備管理に取り組む人々を見下すように切り捨て、彼らは美徳をちらつかせる核の選民主義者だとほのめかした。

NPT参加国社会の多くの国は、核兵器非保有国である。軍備管理の逆行に憤慨し、また、人道的懸念に動かされ、これらの国々は、核の正当性を取り消す主体的権利を取り戻すことを求めた。1月22日からは非人道的であるだけでなく違法となる核兵器保有をめぐり、核兵器配備と核抑止論の正当性の危機が深まるなか、核の傘に守られた国々は国内における困難に直面するだろう。「ジャパン・タイムズ」紙によると、公共放送局であるNHKが2019年12月に行った世論調査では、日本国民の66%がNPTへの署名に賛成しており、反対はわずか17%であった。

禁止条約は、市民社会と国家に対し、核兵器の全面的廃絶に向けた具体的な前進を実現するために、力を結集して新たな規範となる枠組みを支援するよう促すだろう。アントニオ・グテーレス国連事務総長がこの歴史的機会に寄せた声明で述べた通り、廃絶は「今なお国連にとって最重要の軍縮課題」である。2017年、国連総会はようやく、初めて、安全保障理事会の常任理事国5カ国(NPTが認める核保有国でもある)を合わせた地政学的重要性よりも、総会決議のほうが規範として重要性を持つと主張した。ベアトリス・フィンICAN事務局長の言う通りである。「この条約は国連の最も良い面が表れている。市民社会と緊密に協力し、軍縮に民主主義をもたらしたのだから」

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)理事を務める。元国際連合事務次長補、元APLN共同議長。

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