ニュース核の危機に依然として無知で無関心な若者たち

核の危機に依然として無知で無関心な若者たち

【国連IDN=ロドニー・レイノルズ】

1945年8月の広島・長崎への原爆投下から70年以上にわたって、平和活動家たちは「核兵器なき世界」に向けた世界的なキャンペーンをたゆみなく続けてきた。

この問題について長期に亘って議論を展開してきた国連は、核軍縮に関する数多くの決議を毎年採択し続けている。

従って国連総会(193か国が加盟)が昨年12月に、2015年の会期を軍備管理・軍縮に関する57本の決議案を採択して締めくくったことは驚くにあたらない。これらの決議のうち、実に23本が核兵器に関するものであった。

しかし、「核兵器なき世界」という目標は、少なくとも現在の世代にとっては、依然として、遠い先の政治的幻影にすぎないのが現状である。

英米安全保障情報評議会(BASIC、本拠ワシントン)が先週発表した新たな調査報告書は、核兵器に関する議論の枠組みを再構成しようと試みたものだった。

数千発の核兵器を受け継ぐことになる次世代の政策立案者は、核軍縮をどのように見ているのだろうか? とりわけ、核兵器に関する政策が過去の世代の遺産にきわめて強い制約を受けているとしたらどうだろうか。

14か月に及ぶプロジェクトの結果をまとめたこの調査報告書は、「さらなる核不拡散・核軍縮をめざす次世代の政策決定者の間で革新的な発想を育み、より多くの人々を巻き込むうえでの出発点となる」ことが期待されている。

「核不拡散措置を強化し、核軍縮を通じてグローバルな安全保障を達成するという共通の責任について、人々の凝り固まった態度と進展がほとんど見られない現状を克服するには、革新的な思考が必要である。」と報告書は論じている。

このプロジェクトは3つの問いを提示している。第一に、核兵器に関する意思決定のサイクルにおいてもっとも影響力を持っているのは誰か、そして、この状況を転換することが可能か否か。

第二に、核に関する議論が、より注目を集める他の政策領域や運動とより緊密に統合されるとすれば、それはどの領域において、いかにして可能か。

第三に、新興の政策立案者や公衆、メディアと核兵器問題とがより強く響き合うようにするにはどうすればよいか、なぜそうなるのか。

調査は、米国と英国において次世代を担う青年層の参加者を対象に行った一連のワークショップの結果である。ワークショップは、課題や、関与のメカニズム、討論で出てくる可能性のある新たな次元、(核兵器と気候変動の関係といったような)他の領域との関係性を把握することを目的としたものであった。

従来、核問題が表の議論に出てくる際、思慮ある議論がなされることはめったになく、むしろ、特定の立場をナイーブだとかタカ派だとかレッテル貼りするために、浅薄で象徴的な議論として特徴づけられる傾向がある。

調査は、新たな声を議論に持ち込むことを呼び掛け、若者世代の政策立案者の登場を促す方法を試みている。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの責任者タリク・ラウフ氏はIDNの取材に対して、「BASICの報告書は、核兵器に関する思考と言説が長年の間にいかに陳腐なものになって来たか、そしていかにして世界にとっての主要な危険リストから滑り落ちてきたかに焦点を当てたものです。」と語った。

「報告書は、核軍縮を通じて世界の安全保障を確保することについて、旧態依然とした態度で思考停止状態が続いている現状を打破する必要性から、将来における核兵器政策を、若者世代の安全保障と関心事に、より一層関係づけさせようとする意思に満ちています。結局のところ、こうした次代を担う若者世代は、数千発の核兵器と、数千トンの兵器級核物質を引き継ぐことになるのですから。」と、ラウフ氏は指摘した。

またラウフ氏は、「報告書の重要な内容のひとつは、英国・米国の若者は、自国の核兵器にそれほど関心を持ってはいないが、核保有国がさら増えたり、テロ集団に核が拡散することを懸念しているという点にあります。」と語った。

「この新世代は、お目出度いことに、(彼らが育った)ツイッターやフェイスブックのような仮想の世界には核兵器は何の関連ももってこなかったことから、核保有の現実に無知であり、その結果、関心を持っていないのです。しかし彼らは、事故か或いは非国家主体によるものかは別として、万一核爆発が不幸にも引き起こされることがあれば、否応なしに、眠りからたたき起こされることになりのです。」と、核不拡散条約(NPT)2015年運用検討会議の2014年準備委員会会合議長の元上級顧問を務めたラウフ氏は語った。

ラウフ氏はまた、「主流のメディアにおける核兵器に関する数少ない議論はたいてい、敵対国の[核の脅威に関する]恐怖を煽るものですが、一方で自国の核兵器や関連政策及び支出については無視しています。」と指摘した。

ICAN
ICAN

「この報告書は、若者に対して核兵器に関する教育や情報を早期の段階、まずは学校教育から提供し始めるべきだと勧告しています。この点については『核の瀬戸際における私の旅』と題する回顧録を最近出版したウィリアム・J・ペリー元米国防長官のような、核兵器政策に関する直接の経験を持つ人々の見解や、『博士の異常な愛情』『未知への飛行』『世界を救った男』のような映画に注目することが有益です。」ラウフ氏は語った。

My Journey at the Nuclear Brink by William J. Perry/ Stanford University Press
My Journey at the Nuclear Brink by William J. Perry/ Stanford University Press

「BASICの報告書は、核兵器の問題や人類の存亡に係わる地球規模の安全保障に関して若い世代を巻き込む方法を探るうえで重要な貢献となります。」と、国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)渉外政策調整部検証安全保障政策課長(2002~11)を務めた経験もあるラウフ氏は語った。

BASICのこのプロジェクトで利用された方法は例えば、フォーカス・グル―プの参加、ラウンドテーブルや専門家との対話イベントの開催、14~30歳の欧州の若者を対象にした核兵器に対する意識調査、デジタルツールを用いた関与、若者世代との対面的なネットワーキングなどがある。

報告書の重要な知見には、例えば、核兵器が修正主義国家(=現在の国際秩序に不満を持つ国家)や非国家主体の手に渡った場合に引き起こされる将来への不安を除けば、米英の若者達にとって、核兵器はあまり関連のないものだと見られている点が挙げられる。

「核兵器の問題は、(米英の若者達にとって)普段の意識や視野からは外れた、三面記事からも切り離された話題であり、日常生活との関連付けが難しいというだけではなく、政治や軍事の領域においてもあまり影響のない問題だと見られている。」

前の世代が核兵器に対して大いに有用性と恐怖を見出し、その恐怖を基づく複雑な抑止関係を確立したのに対して、次の世代は、その帰結は自分たちにほとんど関連のない問題だとみなしている、と報告書は結論づけている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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