地域アフリカ注目を浴びるナイジェリア拉致問題

注目を浴びるナイジェリア拉致問題

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

イスラム過激派武装集団「ボコ・ハラム」が先月中旬(先月14日深夜から15日未明)にナイジェリア北東部ボルノ州チボクで寄宿舎学校を襲撃し、女子高生200人以上を拉致したというニュースが、今月上旬から米国でも注目を集めている。

政治家や活動家らが、米政府に対して、ナイジェリア政府を支援して拉致被害者の所在を特定し救出するよう強く求める一方、主要テレビネットワークも、朝晩の報道番組で拉致された少女らに関する最新情報を伝えるなど、こぞって報道合戦を繰り広げている。

指導者のアブバカル・シェカウが5月5日のビデオ声明の中で「少女らを奴隷として売り飛ばす」と脅しをかけたボコ・ハラムについては、オバマ政権内外のアフリカ専門家の間では、従来からその凶暴さと北アフリカ及びサヘル地域の他のイスラム過激派との結びつきが指摘されてきたものの、一般の米国人の間では全く無名に近い存在だった。ところが今回の一連の報道で、一気にその悪名を馳せることとなった。

「政策研究所」のアフリカ専門家エミラ・ウッド氏は、「メディアは拉致事件が発生した当初は、この問題に注目していませんでした。」と指摘したうえで、「しかし今では、ミシェル・オバマ大統領夫人が『少女を取り戻せ』(#BringBackOurGirls)というハッシュタグを書き込んだパネルと掲げた自身の写真をツイートし、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーもこの問題解決を訴える発言をしています。」と語った。

ジョージワシントン大学のスティーブン・リビングストン教授(政治コミュニケーション論)は、「米国のほとんどの報道機関や米国民にとって、ナイジェリアは日常的に意識する対象とはなっておらず、例えば米国民の大半は、世界地図上でナイジェリアの場所を特定するのは難しいでしょう。」と指摘するとともに、このニュースを国際社会が注目するスポットライトの下に持ってきた功績は、ソーシャルメディアを積極的に活用したナイジェリアの市民社会組織にある、と語った。

またリビングストン教授は、「とりわけ子供を持つ人々にとっては、このニュースは、感情的なレベルで非常に理解しやすい話題です。ボコ・ハラムの所業は明らかに悪であり、事件を理解するのに多くの時間を必要としません。(誘拐された少女たちの救済を訴える)署名運動には、気持ちよく応じられるトピックです。」「その点では、ウガンダ中央アフリカ共和国の一部を10年以上に亘って恐怖のどん底に陥れてきた『神の抵抗軍(LRA)』の指導者ジョセフ・コニーの逮捕と、そのための米軍の関与強化を訴えた30分のユーチューブビデオが数千万人に視聴され、社会現象となった『Kony2012』と類似しているといえるでしょう。」と語った。

オバマ政権は、『Kony2012』キャンペーンが始まる前から、コニ―と側近の動きを追跡、妨害、そして最終的には捕まえるため100人の軍事顧問団(緊急の場合には戦闘に対応はできるが、その任務はあくまで、コニ―と側近幹部の排除を目的とする現地国軍パートナーに対する情報提供や助言に限定:IPSJ)を周辺諸国に派遣している。驚くにあたらないが、ボコ・ハラムについても、拉致された少女たちを救出しLRAの場合と類似の措置をとるよう、オバマ大統領に対する国民の風当たりが強まっている。

President Barak Obama
President Barak Obama

これまでのところ、オバマ政権の対応としては、ナイジェリアのグッドラック・ジョンソン大統領が各国から受入れていると報じられている軍事顧問並びに現地治安部隊との連絡調整及び情報提供・助言を任務とする総勢10人の「連絡班」を派遣したにとどまっている。

また米当局は、拉致された少女たちが連行されたと思われるナイジェリア北部と周辺地域を対象にした無人偵察機による捜索体制を構築していることを明らかにした。米軍は、カメルーン、チャド、ニジェールに無人偵察機の基地を持っている。

しかし米連邦議会議員の中からは、より強力な軍事介入を求める声が日増しに強まっている。共和党のスーザン・コリンズ上院議員は、5月8日、CNNの取材に対して「少女たちを救出するために特殊部隊を派遣すべきだ。」と語った。

同様に、情報特別委員会の委員長をつとめている民主党のダイアン・ファインスタイン上院議員も「連絡班の派遣はあくまでも問題解決に向けた第一歩の措置に過ぎません。この卑劣な罪を犯したテロリストを見つけ出して捕獲、取り除くために必要な措置ならば、なんでも支持するつもりです。」と述べている。

女性上院議員20人全員が、ボコ・ハラムに対してより強力な措置をとるよう訴える書簡に署名した。さらにそのうちの数名は、5月8日、女性に対する暴力の防止と対策を米外交官と対外援助事業の最優先事項に義務付ける「国際女性に対する暴力反対法(I―VAWA)」案を上院に再提出した。

全米3大ネットワークで平日に放映されるイブニングニュース(夜の30分ニュース番組のうち約22分)の内容を1988年以来統計にして蓄積している「ティンドール・レポート」を発行しているアンドリュー・ティンドール氏も、先述のウッド氏と同じく、米国のマスメディアが事件発生時ではニュースを無視し、2週間後の5月8日になってようやく取り上げた点を指摘した。

ティンドール氏は、「問題は、不注意というより、これがセンセーショナルな話題だということに(メディアが)気付くのに時間がかかったということでしょう。」「サハラ以南地域の問題は、特に米国人が関わっていない場合は、通常主要メディアでほとんど取り上げられることはありません。しかしこの事件の場合は、女性の教育を受ける権利を否定するアルカイダとのつながりが疑われるイスラム過激派武装集団が関与していることや、少女たちが寄宿学校から誘拐されるというセンセーショナルな側面があったことから、例外的に強い注目を集めることになりました。」と語った。

またティンドール氏は、昨年タリバンの襲撃を生き延びて少女の教育を受ける権利を訴えるグローバルキャンペーンを率いたマララ・ユスフザイさんに関するニュースがメディアで大いに注目された事例を挙げながら、「イスラム社会における少女教育の問題は、視聴者の注目を浴びるトピックであることが証明されています。」と語った。

「しかし、本来ならば事件発生直後に大きく取り上げられるべきところがそうはならず、先週になって突然全米のメディアが大々的に報じるようになったのです。」とティンドール氏は指摘した。

5月8日以来、全米の3大ネットワークは全体の放映時間の約1割にあたる32分をこの「ボコ・ハラムによる女子高生拉致事件」に関する報道に充てている。またそのうち2つのネットワークは今週になって記者をナイジェリアに派遣している。この報道熱は、2012年の『Kony2012』報道(12分)を大きく上回るものである。

ちなみにこの32分の報道時間は、全米3大ネットワークが今年になって扱ったサブサハラアフリカ関連の最大のニュースである、南アフリカ共和国のオスカー・ピストリウス氏の裁判に関する報道時間の半分弱を占めている。

義足をつけた南アの陸上選手で恋人を殺害したと疑われている有名人オスカー・ピストリウス氏に関する2013年における報道(51分)は、サブサハラアフリカ関連ニュースとしてはネルソン・マンデラ元南ア大統領の死去・葬儀関連の報道に次ぐものだった。ティンドール氏は、「ボコ・ハラムによる女子高生拉致事件」に関する報道は、今後も引き続き三大ネットワークの注目を浴びていく勢いだとみている。

しかし、ウッド氏もリビングストン氏も、メディアが騒いだことで強力な軍事介入が行われれば、逆効果になる可能性があると危惧している。この点について、リビングストン氏は、米国が軍事介入すれば、「ナイジェリア政府は西側石油資本や米英の傀儡」というボコ・ハラムの主張を裏付けるような形になってしまう恐れがあると指摘している。

ウッド氏は、米国は昨年末にボコ・ハラムをテロリストリストに加えたが、ナイジェリアでは現状に不満を抱いている貧しい若者たちの間で「かえって、ボコ・ハラムの地位を高める結果になった。」と指摘したうえで、「軍事介入は、拉致された少女たちの救出と問題の根本原因に対処するうえで、事態をかえって悪化させかねない。」と語った。

他方、右派勢力はこの事件を利用して政治的攻勢を開始した。ジョン・ボルトン元国連大使は、今回の拉致事件はイスラム急進勢力の危険性を「改めて示したもの」だと指摘するとともに、オバマ政権は北アフリカとサヘル地域におけるイスラム過激派武装勢力の拡大を無視してきた、と主張した。

またネオコン系のウィークリー・スタンダード紙は、(2016年民主党大統領候補として有望な)ヒラリー・クリントン前国務長官を、ボコ・ハラムをテロリストに加えるよう求める下級職員からの提言を認めようとしなかったとして批判している。(原文へ

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