ニュースハーグ核安全保障サミットの話題となった非核国ウクライナ

ハーグ核安全保障サミットの話題となった非核国ウクライナ

【国連IPS=タリフ・ディーン】

前評判が高かった「核安全保障サミット」(NSS)は、3月25日まで2日間にわたりオランダのハーグで開催されたが、ウクライナ騒乱をめぐる問題に政治的に終始してしまった。旧ソ連のウクライナは、1994年に約1800発の核兵器を廃棄し、世界でも最も成功した軍縮の取り組みだと評価されていた。

しかし、ここには答えが出ていない問題が残っていた。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、もしウクライナが今でも米国とロシアに続く世界第3位の核保有国であり続けていたとしても、果たして軍事介入を行っただろうか、という疑問である。

John Loretz/IPPNW
John Loretz/IPPNW

核戦争防止国際医師会議」(IPPNW)のプログラム・ディレクターであるジョン・ロレツ氏は、ウクライナが仮にソ連崩壊後も核兵器を保有し続けたとして、この紛争の経緯が今と違った形であるとすれば、唯一考えられる状況は、「2つの核兵器国が、政治的危機のさなかで、互いに考えられないことをする(=核兵器を使用する)意思を試し合っているというものになるだろう。」と指摘したうえで、「核抑止は機能し、従ってウクライナは核兵器を保有していればより安全だっただろうとする主張は、安直であり、とても支持することはできません。」と語った。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙は3月19日付の社説で、ウクライナが核兵器を保有していたとするならば、プーチン大統領がこれほど素早くクリミア(自治共和国)を侵略したかどうかはわからない。しかし、少なくともプーチン大統領はもう少し躊躇したであろう。」と指摘したうえで、ウクライナの運命は「イランや北朝鮮といった世界のならず者国家に、核施設あるいは核兵器を放棄する意志を弱めさせたのではないか。」と論じた。

さらに同紙は、「そして、サウジアラビア、そしておそらくはエジプトを含めた一部の中東諸国は、もしイランが核武装化すれば、自らも核オプションを検討することになるだろう。ウクライナの運命は、米国からの保証を信用していない国々の意志を固めるだけの結果に終わるのではないか。」と論じた。

グローバル安全保障研究所」のジョナサン・グラノフ所長は、こうした議論を否定して、「WSJ紙の論理が正しいと仮定してみましょう。そうすると、核兵器の拡散を押しとどめている核不拡散条約(NPT)の中心的な前提が、条約に従って核という恐ろしい兵器を保持せずにきた180ヵ国を超える国々の安全保障上の利益に反しているということを意味してしまいます。」「大多数の国の安全保障上の利益に反するような条約は長持ちしません。」と語った。

Jonathan Granoff
Jonathan Granoff

米国法曹協会(ABA)軍備管理・安全保障委員会の上級顧問でもあるグラノフ氏は、「より問うべき問題は、核兵器を保有する国が増えることで世界はよくなるのか、それとも、NPTが要求するように核兵器を普遍的に廃絶することがより安全な道なのか、ということです。」と指摘したうえで、「もし核兵器が普遍的に禁止され、核兵器が生み出す恐怖や敵意が減少すれば、より安全な世界における私たち共通の利益をより冷静に見極めることができるのではないだろうか?」と問いかけた。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)欧州安全保障プログラムの責任者イアン・アンソニー博士は、「核兵器による安全保障の未来を、そもそも達成不可能な完全なるリスク不在の上に構築していくことはできません。つまり、世界的な核による安全保障は、達成してからそれを永続的に保てるようなものでなく最終的な状態ではありえないのです。」とIPSの取材に対して語った。

アンソニー博士はまた、「核の保安上のリスクを低減するために必要な道具立ては、変化する政治的、経済的、技術的条件に沿うように、継続的に作り替えられなくてはなりません。」「核保安の取り組みを長期的に維持していけるかどうかは、このプロセスをいかに多国間化できるかに結局のところかかっています。」と指摘した。

複雑な核燃料サイクルを持つ一部の国は、核安全保障サミットに参加しなかった。「しかし、これらの国もどこかの時点で関与し、プロセスに入ってこなければならないだろう。」とアンソニー博士は付け加えた。

ハーグサミットは、非国家主体やテロリストが核兵器あるいは核物質を入手することを予防するのが目的であった。

ハーグ核安全保障サミットは3回目で、1回目は2010年にワシントンDCで、2回目は2012年に韓国ソウルで開かれた。

先述のウクライナの運命に関するWSJの仮定の議論について、グラノフ氏は、「WSJ紙の近視眼的な見方は、経験的に定義可能な脅威を歪めるものです。その脅威の中でもとりわけこれ以上無視することができないのは、核兵器には引き続き、偶発的、意図的、あるいは狂気によって使用されうる現実的なリスクがあるということです。」と語った。

そのうえでグラノフ氏は、「(私たちは核兵器で威嚇し合うよりも)ロシアや米国、英国、中国、インド、イスラエル、パキスタン、フランス、北朝鮮、ウクライナの全ての市民が等しく直面している人類の存亡に関わる脅威、例えば、気候変動や熱帯雨林の破壊や海洋汚染、さらには感染病やサイバー安全保障、テロ、金融市場のようなきわめて重要なグローバルな脅威に関して協力し合う方がよいのではないでしょうか?」と語った。

ロレツ氏はIPSの取材に対して、「核抑止が機能するとの証拠はなく、単にこれまで失敗していないにすぎないのです。もし『核抑止が失敗することはありえず、100%機能すると信じている者がいるとすれば、単に空想の世界を生きているのです。』と指摘したうえで、「1962年のキューバ危機を思い起こしてみるとよいでしょう。単純でばかばかしいような幸運が(核戦争勃発という)大惨事の回避と関係しただけで、合理的な意思決定があったわけではないのです。事実、そんなものは殆どなかったのです。」と語った。

さらにロレツ氏は、「より多くの国が核兵器を取得するようになると、抑止が破れて核兵器が使用される日が単に近づくことになります。ほとんどの国がこの避けがたい結論に数十年前に到達しているのです。だからこそ我々にはNPTがあり、世界から核兵器を完全になくすまでの間、その重要性を失わせないよう懸命になっているのです。」と指摘した。

ロレツ氏は、(核兵器の人道的影響に関する国際会議/非人道性会議)2013年のオスロ会議、2014年のナヤリット会議から生まれた近年の「人道的アプローチ」は、誰が保有していようと核兵器の存在そのものが問題であり、核の使用を予防する唯一の確実な方法はその非合法化と廃絶だという理解を基礎にしています、と語った。

「この人道的な観点は、核兵器の政治的な有用性に関するあらゆる主張を無効にします。

Second conference on the humanitarian impact of nuclear weapons
Second conference on the humanitarian impact of nuclear weapons

なぜなら核兵器の政治的有用性を訴えるいかなる主張も、結局のところは核兵器を使うと脅しをかければ相手方か引き下がるだろうというギャンブルに帰着するからです。」とロレツ氏は強く主張した。

「現在の危機においては、そのようなギャンブルは、誰もやるべきではないロシアン・ルーレットのゲームになってしまうだろう。」とロレツ氏は語った。

「議論の便宜上、ソ連が崩壊したときに残された戦略核兵器をウクライナが保持していたと仮定してみましょう。」とロレツ氏は語った。

「はたしてそれによって、地域に長くあった違いが対処しやすいものになったでしょうか? あるいは、ロシアが、大きな政治的・経済的野望を持つ地域において、力を誇示することを控えようとするでしょうか? あるいは、ウクライナの欧州との関係、特に北大西洋条約機構(NATO)との関係が、今よりも単純なものになり、ロシアにとって挑発的なものでなくなっていたでしょうか?」

「そんなことは断じてあり得ないというのが答えです。」とロレツ氏は主張した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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