【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】
北朝鮮は、長らく「隠者の王国」と呼ばれてきたが、依然として政治的にも、経済的にも、地理的にも、世界から孤立し続けている。
厳格な制裁措置や国際的な孤立化政策をもってしても、また、深刻な食料不足が発生しているにもかかわらず、この国(正式名称を「朝鮮民主主義人民共和国」)が、米国・英国・フランス・ロシア・中国・インド・パキスタン・イスラエルと並ぶ世界9カ国目の核保有国として、核開発を推進させることを妨げなかった。
『ニューヨーク・タイムズ』は、韓国の首都ソウルからの報道で、北朝鮮が10月11日、国防発展展覧会を開催し、弾道ミサイルを含む最新の軍備装備品を展示した、と報じた。
「今回の軍備装備品の展示は、北朝鮮が近年行ってきたものとしては最大級だ。」と同紙は評している。
会場に掲げられた巨大な横断幕には「我々は独立独歩の核保有国だ」、「我々は偉大なるミサイル保有国だ」等の愛国心に満ちたメッセージが記されていた。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)核軍縮・軍備管理・不拡散プログラムのマット・コルダ研究員はIDNの取材に対して、「北朝鮮の交渉担当への接触が何度か試みられたものの、米国のジョー・バイデン政権は、自身の対朝鮮半島政策が前任者のものとは異なっているというメッセージを、金正恩総書記に納得させることに失敗している。米国側からアプローチを変えない限り交渉のテーブルには復帰しないと金総書記が言明しているだけに、このことは深刻な問題だ。もしバイデン政権がこれを断れば、今後数年で北朝鮮は軍備を拡大することになろう。」と語った。
コルダ氏はまた、「核兵器を搭載した弾道ミサイルは1950年代の技術であり、北朝鮮が核開発の初期においてそうであったように、他国からの支援があれば、この概念を実行することはそれほど難しいことではない。」と指摘したうえで、「現時点では、北朝鮮の科学者や技術者は自国設計のシステムを開発することが可能になっており、北朝鮮核計画の動機となっている安全保障問題がすぐに解決されない限り、道路を移動できる固形燃料型大陸間弾道ミサイルなどの新しい能力を北朝鮮が入手することは時間の問題だと私は見ている。」と語った。
「平和・軍縮・共通の安全保障キャンペーン」のジョセフ・ガーソン代表はIDNの取材に対して、北朝鮮が、核兵器や、ますます進化し危険の度合いを強める運搬手段を開発しているのは、これまでに認識してきた(外国からの)攻撃の脅威に対する論理的/非論理的な対応であると語った。
「北朝鮮の核計画は、度重なる米国による核の威嚇や、米日韓同盟による軍事的威嚇への対応としては合理的なものだろう。誰かが自分に銃を向けていれば、自分の銃を相手に向ける。我々の核戦力を無力化するかもしれないミサイル防衛を誰かが開発していれば、我々としてはそのシステムを出し抜く核兵器を作ることになるだろう。」
「まともな米中政策を求める委員会」の共同創設者であり、『帝国と核兵器:世界を支配するためにいかにして米国は核兵器を使うか』の著者であるガーソン氏は、これは典型的な核軍拡競争のスパイラルであり、中国の「最小限抑止力」の開発に関しても事情は同様だと語った。中国の核戦力は強化され、「中規模抑止力」にアップグレードされつつあるようだ、とガーソン氏はみている。
米国や他の核保有国が核戦争に備えているように、北朝鮮もまた、C・ライト・ミルズが「狂気の現実主義」と呼んだものを実行しつつある。もしその核兵器が最小限であっても発射されることになれば数千万人が大虐殺の巻き添えを食うことになる。
「さらに悪いことに、それによって地球を滅ぼしかねない核戦争が起きる可能性がある。『核の冬』が引き起こされ、人類文明は終焉を迎え、私たちが知るあらゆる命がほぼ絶滅するだろう。」とガーソン氏は警告した。
CNNは10月13日、「北朝鮮の指導者は、一連のミサイル実験を念頭に、「敵対的」な米国から国を守るためには兵器が必要だと語った。」と報じた。
「米国は最近、わが国家に敵対的でないというシグナルを頻繁に発信しているが、敵対的ではないと信じられる行動的根拠は一つもない」と金総書記は語ったとされる。
国営メディア「朝鮮中央通信」が発表した展覧会の写真には、世界で最大の弾道ミサイルのひとつ「火星16号」が写っていると識者らはみている。
さらには、理論上音速の20倍で飛翔し、高い機動性故にミサイル防衛システムによる撃墜がほぼ不可能といわれる超音速滑空弾も写っているという。
CNNによれば、金総書記はこれらのミサイルについて「我々の貴重な(兵器)」と語り、どの国も平時にあっても強力な軍事力を維持しておくべきだと語ったという。
国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)は、8月30日に発表された声明で、朝鮮民主主義人民共和国が寧辺核施設の原子炉を再稼働したとみられることを「深く憂慮している」と述べた。
IAEAは、寧辺核施設の5メガワット原子炉は核兵器用のプルトニウムを生産し、北朝鮮の核計画の中心に位置しているとみられるとの見解を示した。
国連のステファン・ドゥジャリク報道官は会見で、「アントニオ・グテーレス国連事務総長はこれらの報道について認識しており、最新の情勢について憂慮している。」と指摘したうえで、「事務総長は北朝鮮に対して、核兵器に関連した活動をやめ、他の関連諸国との協議を再開するよう求めている。外交的関与こそが、引き続き朝鮮半島の持続的平和と完全かつ検証可能な非核化への唯一の道だ。」と語った。
北朝鮮との関係の現状について問われた米国務省のネッド・プライス報道官は10月15日、記者団に対して、「ご存じのように北朝鮮に関する我が国の戦略は、究極の目標である朝鮮半島の完全非核化に向けて同盟国やパートナー国と緊密に連携し足並みをそろえていくことだ。同盟国である日本や韓国との協議を特に重視しているのはそのためだ。」と語った。
プライス報道官は、アントニー・ブリンケン米国務長官が就任後初の外遊は日本と韓国の歴訪だったと指摘した。国防長官もこの外遊に同行しており、日本と韓国で「2+2」の枠組みで各々の外務大臣、防衛大臣と会談をもった。
「米国政府は、日米韓三カ国関係にもコミットしている。それがどれほど重要か認識しているからだ。例えば、ブリンケン国務長官は、9月にニューヨークで国連総会が開催された機会や先般の外遊の機会を利用して、この三カ国の枠組みで日本や韓国の関係者と会談を重ねてきた。北朝鮮核交渉の実務を総括するソン・キム北朝鮮特別代表も、同じく日本や韓国の関係者と会談を重ねている。」
また、「現段階で発表できる会談はないが、この究極の政策目標を前進させるために、二国間だけではなく、三国間でも緊密に協力し続けると言えば十分であろう。」と、プライス報道官は語った。
特別の提案はあるのかと問われたプライス報道官は、全体的な政策目標に向かって前進すべく、条件を付けずに北朝鮮と会談する用意があると語った。
「我々はメッセージを伝えているし、北朝鮮との討議について特定の提案も行っている。」
さらに、「そうしたメッセージや提案についてここで詳細に語るわけにはいかないが、以前も申し上げたように、インド太平洋地域や日本、韓国の同盟国を含めた、世界中の同盟国・パートナー国との関与を続けながら、北朝鮮との前向きな外交に関与し続ける用意や意志があるということだけは明確だ。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
関連記事: