【ローマIPS=サビーナ・ザッカロ】
イタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ首相の性スキャンダルに関連してセックスワーカーの存在が注目されているが、その影で人身売買の被害にあっている何万人という女性がいる。
2月17日、ミラノ地裁はベルルスコーニ首相の未成年売春婦買春疑惑等での公判開始を決定した(初公判は4月6日の予定)。検察当局は、ベルルスコーニ首相が昨年18歳未満のモロッコ国籍の少女カリマ・エル・マフルーグさんにお金を払って性交渉を行った容疑で捜査を進めている。
捜査対象の少女たちは合計14人に及んでおり、その多くが若い移民で、容疑によるとベルルスコーニ首相は彼女たちが暮らしていたミラノ郊外のアパート代を払っていたとされている。
こうした少女たちは、今回の事件がなければ社会のスポットを浴びない、いわば見えない形の奴隷制-欧州に蔓延る人身売買組織-の氷山の一角にすぎない。「セーブ・ザ・チルドレン」イタリア支部が2010年に出した報告書によると、2000年から2008年の間に保護され支援を受けた売春女性は少なくとも5万人に上るという。その内、4466人はルーマニア、エジプト、バングラデシュ、アフガニスタンから同伴者なしできた未成年者の移民であった。こうした人身売買組織の被害者の大半は必要な証明書類を持たない15歳から18歳の少女たちである。
東北イタリアで人身売買の犠牲者に対する保護活動を行っている「売春婦の人権を求める会」の創立者カルラ・コルソ氏は、「私たちが活動を開始した90年代には、アルバニア、ルーマニア、モルドバなどの東欧からやってくる女性が多かったです。しかし最近では、ナイジェリアやコロンビア、中国などの出身女性も多くなりました。」と語った。
しかし、人身売買の被害にある女性たちと接触を図ることはきわめて困難である。それでもなお、売春組織を告発する女性たちもいる。
コルソ氏は、「警察と協力した女性は社会的保護のプログラムに参加でき、1年間の在留許可がもえられる。それが、新しい人生の出発点となる」と語った。
この問題の研究者であるエミリアーナ・バルドニ氏によると、最近は組織のやり方が巧妙化しているという。以前は物理的暴力やレイプなどで女性を支配することも少なくなかったが、最近では、詐欺や心理的操作など、被害女性にそれと気づかせない手法がとられることが多い。
2008年にベルルスコーニ政権は新法を制定し、路上で営業する売春婦と買春人双方に対して刑務所への収監を含む罰則を強化した。しかし、この法律によって人身売買組織は地下に潜ることになり、被害女性たちは通りから警察の目が届きにくい個人アパートへと移されたのである。コルソ氏は、「路上の売春婦に厳しい法律を課しながら、(アパートで)売春婦が富裕層と交歓するするのは良しとする…。この国は、昼間は品行方正に過ごすことを要求しながら、夜は『プライベート』を口実に何をしてもいいという二重モラルがまかりとおる状況なのです。」と語った。
またコルソ氏は言う。「こうしたパーティーガールズと呼ばれる夜の女たちは街頭の売春婦と同じように被害者なのです。もし成功しようと思うなら、有力者に近づいてベッドをともにするしかないようにもっていく社会の仕組みの被害者です。唯一の違いといえば、彼女らはプラダのバッグを買うために体を売り、街頭の売春婦は生活の糧としてそうするということでしょうか。」(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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