【国連IPS=アンナ・シェン】
NPT運用検討会議開幕前日の5月2日、約15,000人の市民が核廃絶を訴えてニューヨーク市内を行進した。この群衆の中には、「ノーモア・ヒロシマ」と訴える横断幕を掲げた着物姿の日本人女性や、80歳の老婦人、世界から集った18人の市長等、多彩な顔ぶれが見られた。
参加者たちは当日の蒸し暑い天気にも関わず、ニューヨークの中心部タイムズスクェアーから国連本部前を経由して「国際平和・音楽フェスティバル(世界の音楽演奏と核廃絶・平和活動に関するブースが出店)」が開催されるダグ・ハマーショルド広場まで行進した。
参加した人々の核問題に対する見方は様々だが、「核軍拡競争を早急に終わらせるべき。」という一点において固く団結していた。
「今こそ世界から全ての大量破壊兵器を廃絶する時です。核兵器反対。戦争反対。YES WE CAN! そうなのです、これは実現しなければならないのです。」と、ピース・アクションの創設者、ジュディス・ル・ブラン氏は語った。
「今年の8月9日は、日本の長崎市に原子爆弾が投下されて65周年になります。」「私たちは皆、繋がっています。市民を核兵器から守るという確固たる信念を共有しなければなりません。私たちが団結すれば、政府を動かし、世界を変えることができるのです。長崎を最後の被爆地にするために連帯していきましょう。」と田上富久長崎市長は語った。
長崎から参加した吉田勲氏は1945年の米軍による長崎原爆投下の際、わずか4歳で被爆し、祖母と友人を失った。今回のNPT運用検討会議開催に合わせたニューヨーク訪問は吉田氏にとってとりわけ感慨深いものだった。
「今回の会議には多くの人々が熱い期待を寄せています。是非とも成功してもらいといと思っています。昨年の4月、オバマ大統領は『核兵器なき世界』を目指すとの公約を掲げました。今回の会議に国際社会とヒロシマ・ナガサキの被爆者の思いが届くことを期待しています。」と吉田氏は語った。
環境安全のための多文化連合(MASE)のコーディネーター、ナディネ・パディリャ氏は「核兵器がもたらす人命の犠牲は、兵器の配備(と結果的な使用)に伴うものに限りません。そこには核兵器製造に伴う環境と健康に対する影響も含まれるのです。従って私たちは(こうした核関連活動から)土地を守るために闘わなければなりません。」と語った。パディリャ氏はまた、ウラン鉱山を閉鎖し、癌や流産など人体に様々な問題を引き起こす原因となっている放射性廃棄物の源を断つよう訴えた。
戦争で疲弊したコンゴ民主共和国におけるウラン採掘をやめさせることは、ニューヨーク在住のコンゴ人教授ヤーレンギ・ンゲミ氏にとっても重要な問題である。
「ウランは広島への投下された原爆に使用されました。そして現在、コンゴの(ジョセフ・カビラ)大統領はウランをイランに売却しているのです。テロリストを支援しコンゴ人を殺戮しているカビラ大統領を取り除かねばなりません。私はそれを訴えるために行進に参加しているのです。」と、ンゲミ教授は語った。
また他の参加者から、「NPT運用検討会議に世界の指導者が参集する機会を捉えて、米国は率先して自らの(核兵器開発の)状況について実態を公開すべきだ。」との意見も聞かれた。
「米国には今も3つの核兵器製造工場があり、その内の1つがテネシー州にあります。」と同工場閉鎖を訴えているオークリッジ平和同盟のラルフ・ハンチンソン氏は語った。
「米国は世界最大級の核保有国であり、未だに核兵器の生産を継続しています。また、米国は配備されている核弾頭の他にも1500発のアクティブストックパイル(=核兵器が配備されている場所に保管しているスペア)及び戦略予備として核弾頭を保管しています。米国が自国の管理状況について正直にならない限り、世界から核兵器を廃絶することはできません。」とハンチントン氏は語った。
「どうして米国には核兵器の所有が許されて他国には許されないのでしょう?これを道徳的にどうやって正当化できるでしょう?」とハンチントン氏は問いかけた。さらに、「国連総会において核兵器保有を巡って米露両国を非難する雰囲気があることから、今回の会議では国連が影響力を行使でできるだろう。」と付け加えた。
デトロイトピースアクションのメンバー、ダン・ロンバルド氏もこの考えに同意する。「米国は1970年にNPTが発行した際に示された軍縮ビジョンを順守すべきです。」「NPTは容易に結果が出せるものです。私は宗教的観点からNPTを支援するために参加しました。なぜなら、戦争や戦争への準備は神の意志に反するからです。」と、ロンバルド氏は語った。
平和市長会議「2020ビジョンキャンペーン」の国際ディレクター、アーロン・トヴィシュ氏は、「今こそ、核兵器を廃絶するという約束-オバマ大統領が少なくとも理論上受け入れた-を果たす時です。」「核兵器を製造する施設と解体する施設は同じであり、2019年までに全ての核兵器を解体することは可能なのです。これは政治的な決断を要する問題であり、今こそ、その決断をする時なのです。国際社会は向こう10年以内に、核兵器の廃絶に関して検証・モニタリングを行うシステムを構築することは十分可能です。」と語った。さらにトヴィシュ氏は、「今回の会議が核兵器の脅威に対してより包括的なアプローチを打ち出すことができるかどうかという疑問は残っています。」と付け加えた。
ドキュメンタリー映画「フラッシュ・オブ・ホープ-世界をまわるヒバクシャたち」を上映したコスタリカのエリカ・バニャレロ監督は、国連で、「いま地球上のすべての都市を7回以上にわたって破壊できるほどの核兵器が存在しています。」と指摘した。
バニャレロ監督は、今回のNPT運用検討会議では、前回の2005年の会議よりも力強く、問題への対処を前進させるような文書が採択されることを期待すると語った。
「世界の人々が、今日の世界には23,000発の核弾頭が存在し、その大半は米露両国が保有している事実を知っています。私たちはその数を削減していく必要があるのです。」と、パニャレロ監督は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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