ニュース核廃絶 vs. 核抑止力──中間点は可能か?

核廃絶 vs. 核抑止力──中間点は可能か?

【ウィーンLondon Post=オラミデ・サミュエル】

およそ80年間、核兵器は世界の安全保障を形づくってきた。それは、あまりに恐ろしいために使用できず、しかしあまりに戦略的に重要であるために放棄できないというパラドックスの象徴である。核兵器の全面廃絶を目指す「核廃絶」と、戦争を防ぐ手段として報復の脅威に依拠する「核抑止力」の間には、根深い対立が存在する。この対立は道徳的命題と地政学的現実を突き合わせるものであり、核心的な問いを提起する──対立する両者の間に、中間的な立場は存在しうるのか?

核兵器を保有する9か国が約12,500発の核弾頭を抱える現在(Global Zero, 2023)、そのリスクは計り知れない。本稿では、歴史的背景、ロシア・ウクライナやインド・パキスタンといった最近の事例、そして今後の展望を通じて、現実的な中間路線が存在しうるかを考察する。

歴史的背景

核兵器は、第二次世界大戦中に米国の「マンハッタン計画」を通じて誕生し、1945年の広島・長崎への原爆投下によってその破壊力が世界に知られることとなった。この出来事がもたらした倫理的衝撃は、世界の軍事戦略と外交政策に深く刻み込まれた。

冷戦時代、米ソ両大国は「相互確証破壊(MAD)」という戦略に依拠し、核戦争の勃発を回避しようとした。これは、いずれかが先制攻撃すれば、双方が壊滅的な報復を受けるという前提に基づいており、抑止理論の中核を成すものであった。

この戦略的バランスは、いまだに一部の国々が核兵器保有を正当化する根拠となっている。

現代の事例:ロシア・ウクライナ、インド・パキスタン

21世紀に入り、核兵器の現実的脅威はむしろ高まっている。ロシアのウクライナ侵攻(2022年)では、ウラジーミル・プーチン政権がたびたび核兵器使用の可能性を示唆し、西側諸国に対する抑止力として機能させようとした。これは、核兵器が依然として地政学的駆け引きの道具として使われていることを示している。

一方、南アジアでは、インドとパキスタンという2つの核保有国が、カシミール問題をめぐってたびたび緊張を高めている。両国とも先制不使用政策を標榜しているが、実際には衝突のたびに核戦争の可能性が取り沙汰される。

これらの事例は、核兵器の保有が必ずしも安定をもたらすとは限らず、むしろ危機を増幅させうることを示している。

核廃絶への道:理想か現実か?

核廃絶を主張する立場は、核兵器の人道的・環境的・倫理的リスクを強調する。国連の「核兵器禁止条約(TPNW)」は、核兵器の開発・実験・配備・使用、さらには使用の威嚇までも禁止する包括的な枠組みであり、2021年に発効した。

しかし、核兵器を保有するどの国もこの条約に署名していないことが、現実とのギャップを象徴している。現実的な安全保障上の脅威に直面する国々にとって、完全な核廃絶は理想主義的すぎると受け取られることが多い。

中間点は可能か?

この対立を乗り越えるには、妥協と現実主義に基づく中間的アプローチが必要かもしれない。たとえば以下のような施策が考えられる:

  • 段階的削減:すぐに全廃するのではなく、各国が段階的に核兵器を削減する。
  • 先制不使用政策(No First Use):核保有国が核兵器を先に使用しないと誓約することで、リスクを低減する。
  • 透明性の強化と信頼醸成措置(CBMs):核兵器の数や戦略についての情報公開、定期的な対話の枠組みを導入する。
  • 地域的非核兵器地帯の拡大:ラテンアメリカ、東南アジア、アフリカのように、地域ごとに非核兵器地帯を創設する。
  • デュアルトラック戦略:核抑止を維持しつつ、核軍縮への道筋を確保する。

これらのアプローチは、現実的な安全保障の懸念と、核廃絶という倫理的理想の間を橋渡しする可能性を持つ。

結論:共存か、選択か

核廃絶と核抑止の対立は、単なる政策の違いではなく、世界の未来をめぐる根本的なビジョンの対立である。中間点が可能かどうかは、国際社会がどれだけ現実を見据えつつ理想を追求できるかにかかっている。

究極的には、核兵器のない世界が可能か否かではなく、そうした世界をどのように築いていくかが問われている。核兵器が存在する限り、私たちは終末の可能性と隣り合わせで生きることになる──そのリスクを許容し続けるのか、それとも変革への道を選ぶのかが、いま問われている。(原文へ

This article is brought to you by London Post in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

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