【ワシントンIPS=ジム・ローブ】
バラク・オバマ大統領に近い有力シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」が5月13日、「イランの核保有は防止することが望ましいが、仮に核を持ったとしても米国はイランを抑止することが可能だ」とする報告書を発表した。
『すべてが失敗したとしても:核兵器国イラン封じ込めという難題』と題された報告書は、イランによる核の使用、あるいは非国家主体への核移転を抑止し、中東の他の国々に核能力を持たせないようにする「封じ込め戦略」について概説している。
オバマ政権第一期で国防総省中東政策部門のトップを務め、この80ページに亘るCNAS報告書を著したコリン・カール氏は、「米国はイランの核武装化を阻止するためにあらゆる手段を講じるべきであり、いかなるオプションも排除すべきでない。」と述べている。
またカール氏は、「しかし、武力行使も含め、イランの核武装を阻止するための努力が失敗に終わる可能性も想定しておかなければなりません。」「その場合には、核武装化したイランが米国の死活的利益と同盟国に与える脅威を管理し軽減するための戦略が必要となってきます。私たちはまさにこのことに焦点を当てているのです。」とIPSに宛てたメールの中で述べている。
この報告書は、オバマ政権は、(外交努力や経済制裁が失敗に終わった場合には軍事行動に出ると威嚇することも含めて)これまで一貫して「予防政策」を推進してきており、ここであからさまにアプローチを転換することは、「イラン核問題に効果的に対処するために必要な信頼性そのものを損ないかねないため不可能だろう。」と指摘している。
しかし同時に、あらゆる予防措置が試される前に、イランが「中止・反転不可能な核兵器製造能力」を持つか、秘密裏に核兵器を製造してしまうかもしれない。さらに、米国やイスラエルが軍事行動に出ても、イランの核計画には小規模の損害しか与えられず、むしろ、体制維持のためには核抑止が唯一の道だと見なすイランの強硬派を勢いづかせる結果に終わる可能性がある。
この報告書は、「これらのどのシナリオにおいても、米国は、現在の方針に関わりなく、封じ込め政策への移行を余儀なくされるだろう。」と指摘したうえで、「米国政府は効果的な戦略の必要条件を検討する必要がある。」と主張している。
核計画は核兵器開発のためのものであることを一貫して否定してきたイランに対処する米国のオプションについて、ますます多くの論説が出されているが、この新しい報告書がそれに加わることになった。
一方、米国の諜報当局もこの6年間にわたり、イラン指導部は核兵器開発の決断を下していないものの、ひとたび決定が下されれば、その核計画の進展とインフラからすれば、核爆弾を速やかに製造することは可能、との見方を報告してきた。諜報各部局は、イランが「核兵器製造」能力を獲得しようとすれば、それを探知することは可能だと自信を表明している。
オバマ政権は、2009年の発足以来、イランの核兵器開発阻止について「二重トラック」アプローチを採用してきた。すなわち、イランと、国連安保理5大国(米国・英国・ロシア・中国・フランス)にドイツを加えたいわゆる「P5+1」交渉プロセスによる外交努力と、イラン経済を「弱体化」させることを目的とした厳しい経済制裁(一部は多国間だが、大部分は単独)を課す経済的圧力の2本立てである。
経済制裁は既に混乱したイラン経済に深刻な影響を及ぼしているが、イラン政府は、フォルドウの地下ウラン濃縮施設のすべての操業停止や20%濃縮ウランの大部分の国外への移送などの大幅な妥協については、これまでのところ拒否している。
カザフスタンのアルマトイで先月開催した会合以降、「P5+1」・イラン間では多少の意見交換があるものの、来月に行われるイランの大統領選待ちで外交交渉は一時停止状態にあるようだ。
外交的成果が上がらない一方で、イラン核計画の技術は日々進歩している。イランは、来年春か夏ごろまでのきわめて短い期間で核爆弾1発を製造するのに十分な濃縮ウランを手に入れるものとみられている。こうした状況の中、米国では徐々に対立構造が顕在化してきている。
オバマ政権によるより厳しい制裁と「信頼性のある武力行使の威嚇」を求める親イスラエル派とタカ派勢力が一方におり、外交をより重視すべきだと訴えるハト派勢力が他方にいる。
元軍人・諜報関係者・外交官も含めた外交政策関係者のほとんどは後者寄りの考え方である。「イランプロジェクト」「大西洋評議会」「カーネギー財団」「国益センター」などによる厳選されたメンバーから成るタスクフォースが最近出した報告書では、「交渉において米国がより柔軟に対応すべきだとのコンセンサスがエリート間で強くなってきている」としている。
しかし、イスラエルロビーが幅を利かせている米議会では、依然として圧力による打開を求める強硬派が優勢である。上下両院で現在審議されている措置は、仮に承認されれば、イランに対する事実上の禁輸措置にあたるような形で、外国企業・金融機関を狙い撃ちするものである。
CNASの対イラン政策関連の最新報告書は、このどちらの戦略についても言及していない。ただカール氏は、米国は交渉を柔軟に行うよう、過去に論じたことがある。しかし、同氏の今回の議論は、仮に「予防」戦略が失敗に終わった場合に米国が核保有国イランと共存できるかどうかについて、タカ派とハト派との現在の論争に拍車をかける効果を持つだろう。
カール氏と2人の共著者ラジ・パタニ、ジェイコブ・ストークスの両氏によると、封じ込め戦略は、抑止、防衛、妨害、エスカレーション防止、非核化の5つの要素を統合したものであるという。
「抑止」とは、とりわけ、イランが核兵器を使用した場合に米国が核で報復するとの威嚇を強化し、中東の他の国々に対して、独自の核能力を保持しないとの誓約と引き換えに核の傘を拡大するものである。
「防衛」とは、米国のミサイル防衛能力及び中東での海軍展開を強化し、湾岸諸国やイスラエルとの安全保障協力を強めることで、イランが核兵器を持つメリットをなくすことを目指したものである。
「妨害」とは、「イランの影響力拡大に耐えうる中東の環境を形成すること」で、例えば、エジプトやイラクを(イランに対する)戦略的な対抗手として強化すること、湾岸地域における「進歩的な政治改革を推進すること」、ヒズボラに対する対抗手としてのシリアの反体制派やレバノン軍を穏健化させるための援助強化などが含まれる。
「エスカレーション防止」とは、イラン関連の危機が核戦争に発展することの防止を意味し、「先制攻撃指向の核ドクトリンや不安定化を招くような核態勢を採らないようイスラエルを説得すること」、有事における意思疎通メカニズムを構築しイランとの間で信頼醸成措置を探ること、「体制転覆」が米国の目的でないことをイランに納得させること、危機において「面子を保つための出口」をイランに提示すること、などである。
最後に、「非核化」とは、対イラン制裁を維持・強化し臨検を強化することで、イランの核計画を封じ込め、不拡散体制へのダメージを和らげることである。
同報告書は、こうした戦略には大きなコストも伴うとしている。たとえば、「米国の中東に対する安全保障上のコミットメントが著しく増大する」ため、アジア太平洋地域への軍事的「リバランス」戦略が困難になること、アラブの同盟諸国における「改革推進の取り組みをきわめて難しくすること」、「オバマ政権が核廃絶を主張する一方で米国の安全保障戦略における核兵器の役割を拡大させてしまうこと」、などである。
この報告書に対しては、一部の著名なネオコンたちからすぐさま厳しい批判が投げかけられた。イスラム教徒が国民の大半を占める国家とまた別の戦争を行うことにはっきりと消極的なオバマ政権は、「[名目はともかく]実質上の封じ込め」戦略を採って、予防戦略を避けるであろうと彼らは警告してきた。
しかし、カール氏が指摘しているように、もし米国が、「イランの核兵器使用や、イラン政府のパートナーや代理テロリストのネットワークによる攻勢を抑止することができると示せる」ならば、核武装化したイランを「封じ込め抑止する」ことは米国にとって「もっとも悪くない」政策になるかもしれない、と1年半前に結論づけたのは、ネオコン系シンクタンクの「アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)」の報告書であった。
封じ込めに関するカール氏の立場と同様の見方が、ブルッキングス研究所所員でCIAの元分析官だったケネス・ポラック氏が出版予定の『考えられないこと:イラン、核兵器、米国の戦略』でも表明されると見られる。ポラック氏の2002年の著書『迫りくる嵐:イラク侵略に賛成する理由』は、当時、多くのリベラル派や民主党支持者らをイラク侵略賛成に回らせる効果を持った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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