【トロント/ワシントンDC・IDN=J・C・スレシュ】
米国がロシアとの間で結んでいる新戦略兵器削減条約(新START)を2026年2月4日まで延長することを米国のジョー・バイデン大統領が決めて、軍備管理の専門家らは胸をなでおろしたが、ペンタゴンは「これは核兵器拡散にさらなる制約を課すためのロシア・中国とのより大きな協議の始まりに過ぎない」としている。
ペンタゴンは、米国国防総省の本部が入った建物の名称である。ペンタゴンの名称は、米軍の象徴として、国防総省とそのリーダーシップを指すものとして使われている。
米統合参謀本部副議長のジョン・E・ハイテン空軍大将は、オンラインで開催された2月26日の米空軍協会航空宇宙戦シンポジウムで、ロシアとの新STARTは「核兵器に制限を課し、その履行を検証する手続きがある点で、望ましいものだ。」と語った。
新STARTは、ロナルド・レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ両大統領が開始した、米ロの戦略核戦力を検証可能な形で削減する二国間プロセスを継続するものだ。新STARTは、1994年に発効した第一次戦略兵器削減条約(START I)以来、米ロ間で初の検証可能な核軍備管理条約となった。
「戦略攻撃兵器のさらなる削減・制限に向けた措置」に関する条約として公式に知られる新STARTは、2011年2月5日に発効した。元々の有効期限は2021年2月5日までの10年間で、双方が合意すれば5年間の延長が可能だった。
ハイテン大将は、米ロ両国ともに2018年2月5日までに条約の定める制限以内に戦略核を削減し、それ以来、制限を順守していると語った。その制限とは以下のようなものである。
・配備済みの大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、核兵器搭載能力を持つ重爆撃機の合計を700基機以内。
・配備済みのICBM、SLBM、核兵器搭載能力を持つ重爆撃機に搭載した戦略核弾頭の合計を1550発以内。各重爆撃機は、この場合、戦略核弾頭1発と換算する。
・配備済みおよび未配備のICBM発射基、SLBM発射基、核兵器搭載可能な重爆撃機の合計を800基機以内。
核兵器を運搬する能力のあるICBM、重爆撃機、潜水艦が、米国の核戦力の三本柱である。
「核の三本柱は、ロシアや中国、また、ある程度までは北朝鮮やイランを抑止して、米国やその同盟国に対して核攻撃をさせないために重要なものだ。」と統合参謀本部副議長のジョン・E・ハイテン空軍大将は語った。
第二次世界大戦中の1942年1月に戦略面の調整強化を図るために創設された統合参謀本部は、以来、米国の軍事計画の中心にあり続けてきた。
しかし、新STARTの延長は「核兵器拡散にさらなる制約を課すためのロシア・中国とのより大きな協議の始まりに過ぎない。」核魚雷や核巡航ミサイル、海上発射弾道ミサイルのような新兵器をロシアは開発しつつあり、米国防総省はこれらを「米国にとっての脅威であり、新STARTの規制を受けないもの」と捉えている。
ハイテン大将は次に中国問題に言及して、「中国は世界で最も急速に軍備強化を進めている核兵器保有国だ。地球上のどの国よりも速いペースで新型核兵器を生産している。新たな運搬プラットフォームも構築しつつある。また、新しい施設や航空機、様々な種類のミサイル、そして我々が防護手段を持たず、かつ核兵器を搭載可能な極超音速兵器を生産しつつある。」と語った。
「そして、中国との間ではいかなる形でも軍備管理協定が存在しておらず、彼らの核ドクトリンがどうなっているのかも窺い知ることはできない。これは非常に難しいところだ。」とハイテン大将は付け加えた。
米国防総省は、ロシアは核兵器の近代化プロセスを完了しつつあり、中国はその最中にあるが、米国は未だに緒に就いたばかりという問題認識を持っている。
米国は、ロシアに対抗するために信頼性の高い海上発射巡航ミサイルを持ち、新STARTによっては規制を受けないままロシアが製造し続けている低出力核兵器と戦術核兵器に対抗するために、潜水艦に搭載できる少数の低出力核兵器を持つ必要がある、とハイテン大将は語った。
「三本柱への投資を継続し、敵国の能力を注視し続ける必要がある。なぜなら、我々は核の対立と核戦争を避けたいと考えているからだ。それを避ける唯一の方法は、敵方を抑止することだ。」とハイテン大将は語った。
これは「質的な意味での核軍拡競争が進行中」であるとみなしうる明確な証拠であり、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が警告していることである。『ブルームバーグ』のアンドレアス・クルース論説委員は「核の大惨事の危険が迫っている」と警告している。
実際、ペンタゴンは、「ロシアと中国が能力の高いシステムをそれぞれに開発している」という認識の下、近代化計画の中で極超音速兵器に最も力を入れている。
極超音速兵器は、超高層大気(8万~20万フィート)を、音速を遥かに超えるマッハ5以上の速度で飛翔することができ、防衛側が予測不能な形で攻撃を加えることができる。
米国防次官(研究・工学担当)室で極超音速兵器の責任者を務めるマイク・ホワイト氏は「超高度における作戦は、航空防衛と弾道ミサイル防衛との間に空隙を生み出す」とオンライン開催の米空軍協会航空宇宙戦シンポジウムで語った。
この部署は、変革的な戦争遂行能力を開発・実施する極超音速兵器近代化戦略を策定している。ホワイト氏は、この戦略は、戦術的な戦場において、死活的な重要性を持つ海上・沿岸・内陸部の標的を、自らの損害を最小化しつつ、長距離を移動し、極めて短い時間の中で叩く通常型極超音速攻撃兵器を空・陸・海に展開することを要素としていると説明した。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
関連記事: