INPS Japan/ IPS UN Bureau Report「核実験禁止条約の将来いまだ見通せず」と国連が指摘

「核実験禁止条約の将来いまだ見通せず」と国連が指摘

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1996年に国連総会で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)は、ひとつの大きな理由によって、いまだに発効していない。それは、既に183カ国が署名し、164カ国が批准しているにも関わらず、発効要件国(44か国)のうち、依然として主要な8か国が、条約への署名、あるいは批准を拒否しているためである。

未署名3か国(インド、北朝鮮、パキスタン)と未批准5か国(米国、中国、エジプト、イラン、イスラエル)は、条約採択以来19年間、CTBTとの関わりを避けている。

潘基文事務総長は、「核実験に反対する国際デー」記念会合が開催された9月10日、CTBT未署名・未批准のすべての国々、とりわけ当該主要8か国に対して、「核兵器なき世界を目指すための欠かせないステップ」としてのCTBTに署名・批准するよう、改めて呼び掛けた。

現在、多くの核保有国が、自発的な核実験の中断(モラトリアム)を実施している。

「しかし、それが法的拘束力を有する条約の代わりとはなりえません。なぜなら、それは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が3度にわたって核実験を実施した事実が物語っています」と潘事務総長は語った。

国連事務総長によるこの警告は、北朝鮮が核兵器生産のための動きを再開したとの報道が15日に出される中で、なされたものだ。

しかし、「これら8か国が近い将来にCTBT署名・批准に動く可能性は低い。」とジョン・ハラム氏は指摘する。ハラム氏は、「核軍縮を目指す会」(PND)とシドニー大学(オーストラリア)平和・紛争研究センターの共同プロジェクトである「人間の生存プロジェクト」(HSP)のメンバーである。

ohn Hallam/ University of Sydney

「これら8か国が2016年までにCTBTに署名・批准をすることはなさそうだ。」とハラム氏は語った。

例えば米国は、署名は済ませているが、共和党がCTBTの批准に明確に反対している。

ハラム氏によれば、インドとパキスタンも、CTBTに署名・批准のいずれも行わないとの意思を明確にしているという。「とりわけ、ナレンドラ・モディ政権下のインドが署名・批准する可能性はほとんどないでしょう(一方、インドの核軍縮運動は長年にわたってCTBTの署名・批准を求めてきた。)」とハラム氏は語った。

さらにハラム氏は、「中国とその他数か国は、米国が条約に批准次第、自分たちもそうすると主張しています。」と語った。

「核実験に反対する国際デー」を記念して9月10日に開かれたハイレベル・パネルディスカッションで潘事務総長は、「核実験を終わらせるという目標は、私の外交官としてのキャリアを通じて、重要な関心事でした。」と指摘したうえで、「国連事務総長として、そしてCTBTの寄託者として、私は核実験の法的禁止を成し遂げることを重要視し、歴史上最大規模のものも含め、456回もの核実験が行われてきたセミパラチンスク核実験場(カザフスタン)に自ら足を運びました。そして、核実験の被害者と面談し、核実験が社会や環境、経済に及ぼした永続的な被害をこの目で見てきました。」と語った。

潘事務総長はまた、「70年前にニューメキシコ州で最初の核実験が行われて以来、世界では2000回以上の核実験が繰り返されてきました。そしてこれらの実験によって、世界中で、手つかずの自然環境と地元の人々に大きな被害がもたらされました。」と語った。

潘事務総長は、「核実験による環境、健康、そして経済への打撃から二度と立ち直れなかった人々も多くいます。地下水の汚染、がん、白血病、放射性降下物 – これらは核実験による有毒な遺産の一部にすぎません。」と指摘したうえで、「過去の実験の犠牲者に敬意を表する最善の方法は、今後いかなる核実験も行わせないことです。」と訴えた。

CTBTは、核兵器の開発を量的、質的に制限するための法的拘束力を持つ検証可能な手段である。

ハラム氏はIPSの取材に対して、「米国は、ネバダやアラスカ、マーシャル諸島を含む太平洋地域、宇宙空間において、1000回以上の核実験を行ってきました。」と語った。

ネバダ核実験場で行われた実験は、風下の住民に対して大規模な汚染をもたらし、深刻な健康被害を生じさせた。

"Daigo Fukuryū Maru" by carpkazu - Licensed under public domain via WikimediaCommons
“Daigo Fukuryū Maru” by carpkazu – Licensed under public domain via WikimediaCommons

米国が行った最大の核実験は15メガトンの「キャッスル・ブラボー」で、これによって日本の漁船「第五福竜丸」の乗組員全員が被爆(久保山無線長が半年後に死亡)し、マーシャル諸島も汚染された。

一方、ソ連が行ったこれまでで最大の核実験は、北極圏にあるノバヤゼムリャ島で60年代初頭に行われたもので、「ツァーリ・ボンバ」(爆弾の皇帝)として知られている。

60メガトンの同実験は、ネネツ人の神聖なる狩猟地を蒸発させ、世界中に放射性降下物をまき散らし、地震波によって数時間にわたり地球を鐘のように振動させたのである。

ハラム氏は、「ソ連は約800回の核実験を行ったが、その多くがセミパラチンスクで行われ、広範な放射性物質による汚染を引き起こし、地元の人々に壊滅的な被害をもたらしました。」と語った。

さらに、英国(そのほとんどがオーストラリアのマラリンガエミュフィールド)、フランス(アルジェリアと仏領ポリネシア)、中国(新疆ウィグル自治区)、インド(ラジャスタン州ポカラン)、パキスタン(バロチスタン)、北朝鮮によって核実験が行われ、フランス・中国・英国による核実験では地元住民や実験参加者の間で放射線由来の疾病に苦しみ死に至るものが相次いだ。

「核実験は、核軍拡競争と核拡散の屋台骨を成しています。従って、核実験の再開、或は(北朝鮮を含め)いずれかの国が新たな核実験を行うことになれば、決して望まない奈落へと世界を近づけることになるでしょう。」とハラム氏は語った。

「核兵器の拡散を止め、『核実験に反対する』規範を定着させるための最善の道は、核実験を違法化している包括的核実験禁止条約を発効させることです。」とハラム氏は訴えた。

ICAN
ICAN

他方、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、世界的なオンラインキャンペーンである「ATOM」(実験の禁止=Abolish Testing、我々の使命=Our Mission の頭文字をとったもの)を開始し、世界の指導者に対して核実験を完全に終了させるよう呼びかけている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

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