ニュース核弾頭数減少にも関わらず核軍縮への道のりは遠い

核弾頭数減少にも関わらず核軍縮への道のりは遠い

【ニューヨークIPS=タリフ・ディーン】

核拡散防止条約(NPT)で核保有国として認定されている米ロ英仏中の5カ国にインド、パキスタン、イスラエルを加えた8カ国が保有している核弾頭総数は20,500発以上で、2009年時点と比較すると2000発以上減少している。しかしこうした壊滅的な兵器の5,000発以上が依然として実戦配備されており、その内約2000発は高度な「即応態勢」に置かれている。

こうした最新数値は、スウェーデンの軍備管理・軍縮に関する独立シンクタンク「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」が6月7日に発表した、世界の軍備動向に関する2011年の年次報告書に収録されている。

現在、世界最大の核兵器保有2大国はロシア(11,000発の核弾頭を保有)と米国(8,500発)で、フランス(300発)、中国(240発)、英国(225発)、パキスタン(90~110発)、インド(80~110発)、イスラエル(80発)が続いている。

 同年次報告書は、米露両国が2010年4月に締結した新戦略兵器削減条約(新START)において双方の戦略核兵器の削減(配備上限をそれぞれ1550発とする)に合意した点を指摘する一方で、「しかし米露両国は現在、新たな核兵器システムの配備を進めているか、または配備の意志を明らかにしており、無期限に核兵器を保有する決意と思われる。」と記している。

またSIPRIは、隣接する核兵器保有国インド・パキスタン両国については、核弾頭の装着が可能な新型弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発を引き続き進めているほか、「核兵器製造目的で核分裂性物質の生産能力拡大を推進している。」と分析している。

従って、世界の核弾頭数は確かに減少しているが、核軍縮は依然として、ほとんど進展していない状況にある。

この状況について、グローバル安全保障研究所(GSI)のジョナサン・グラノフ所長は、「量的な側面だけ見れば、もちろん核弾頭数が削減されたことは評価すべきでしょう。しかし質的な側面にも着目すれば、核兵器事業に多額の資金が投入され核兵器の近代化が進められている現実も踏まえる必要があります。」と語った。

グラノフ氏は、「核軍縮に向けた全般的な進歩というものは、核兵器保有国と非保有国が協力して、核廃絶という方向性を共通の目的として明確に設定することができて初めて成し遂げることができるのです。」と指摘した。

そのような明確な方向性を打ち出せるかどうかは、今後国際社会が、国際協定や法律文書の枠組みを通じて法的拘束力を持ち例外なく適用される核兵器禁止に向けて、準備プロセスに着手できるかどうかにかかっている。

「そのような明確なコミットメントがあれば、段階的に核弾頭数を削減することが、すなわち核兵器の政治的・軍事的重要性を引き下げることにつながるという意味合いを持たすことができるのです。」とグラノフ氏は付け加えた。

最も重要な点は、核兵器を廃絶するという国際社会のコミットメントであり、「これに関してはレトリックも行動が伴って初めて信用に足るということになるのです。」とグラノフ氏は語った。

SIPRIのシャノン・カイル上席研究員は、「米露両国が合意した新START条約は、数十年に亘る核戦力維持を前提とし、核兵器の近代化を国防政策の重点に据えていることから、本当の意味での核軍縮に向けた一歩とは言えません。」と語った。
 
米国の核兵器計画を監視・分析している西部諸州法律財団(WSLF)のジャクリーン・カバッソ事務局長は「SIPRI年次報告書は、私が長年に亘って-少なくとも米国上院が包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を拒否したことに関連して1990年代半ばから指摘してきた点を実証するものです。つまり、米国の核兵器計画は、『たとえ数は削減しても、より近代化された核兵器で永遠に優位を保つ』というコンセプトに基づいているのです。」と語った。

「核弾頭数が想像を絶する夥しい数にのぼったピーク時から比べると現在は大幅に削減されていることから、一般にこれを軍縮と混同する傾向があります。しかし、20,000発を超える核弾頭が僅か8或いは9カ国の掌中にあり、人類と地球にとって耐え難い脅威であり続けているというのが今日の現実なのです。」とカバッソ氏は強調した。
 
「冷戦が終わり、バラク・オバマ大統領が高尚な軍縮レトリックを唱えている一方で、核兵器の先制使用が、依然として米国-これまで戦争で核兵器を使用した唯一の国-の安全保障政策の根幹を占めているのです。」とカバッソ氏は指摘した。

そしてこうした米国の核兵器の先制使用を基礎に置く核抑止政策は、他の核兵器保有国の大半の国々における安全保障政策に反映されている。

かつて米国上院のCTBT批准拒否は、その後の「核兵器の近代化及び備蓄性能維持計画」に巨額の政府予算を投入する道筋をつけることとなったが、今回の上院による新START批准承認は、この傾向にさらに拍車をかける結果となった(例:オバマ政権は核兵器近代化5カ年計画のために850億ドルの支出を約束等)。

「こうした新START批准承認を条件とした上院の要求をオバマ政権が受け入れた結果、STARTプロセスは向こう数十年に亘って核弾頭及び運搬手段の近代化を伴うものとなり、事実上軍縮の流れに反するものとなってしまっているのです。」と2008年に「国際平和ビューロー」のショーン・マクブライド平和賞を受賞したカバッソ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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