【伊勢志摩IDN=ラメシュ・ジャウラ】
1945年8月6日に史上初めての原爆が投下され14万の犠牲者を出した広島へ「歴史的な」訪問を果たしたバラク・オバマ大統領が「核兵器なき世界」の実現を呼びかけたにも関わらず、米国の立場は、核兵器の禁止からは依然としてほど遠い位置にある。
これは、三重県志摩市の賢島で2日間に亘って開催された先進国首脳会議(G7伊勢島サミット)の締めくくりにあたって5月27日に発表した「首脳宣言」によっても裏付けられている。
サミットのホスト役を務めた安倍晋三首相は、豊かな文化、美しい景色、約2000年前に建造され、日本で最も尊重されている歴史的施設の一つである伊勢神宮に近いことを、伊勢・志摩をG7サミットの会場に選んだ理由だとしている。
こうしてG7首脳は伊勢神宮を取り巻く神秘的な土地を訪れることとなったが、この経験がG7首脳の決定そのものには、ほとんど影響を与えなかったようだ。G7の内、3つの核兵器国(米国・フランス・英国)と非核兵器国(日本・カナダ・ドイツ・イタリア)は、「不拡散・軍縮問題」を「最重要課題」のひとつに挙げていたが、32ページからなる「首脳宣言」文はこの問題にわずか9行しか割いていない。
G7の核保有3カ国で、1万5350発と推定される世界の核弾頭数全体のうち、3分の1を保有している。これら3カ国の管理下に5185発もの大量破壊兵器があるにもかかわらず、G7は「国際社会の安定を促進する形で、全ての人にとりより安全な世界を追求し、核兵器のない世界に向けた環境を醸成するとのコミットメントを再確認する。」と宣言している。
この文脈で、「首脳宣言」は、「核軍縮及び不拡散に関するG7外相広島宣言」及び「不拡散及び軍縮に関するG7声明」を承認した。
広島宣言は、70年以上前に長崎と並んで核攻撃を受けた都市において4月10日から11日に開かれたG7広島外相会合での議論を受けて出されたものだ。
広島出身の岸田文雄外相は、核兵器国と非核兵器国との間の対立は深まっており、核軍縮・不拡散をめぐる条件はますます厳しいものになってきていると説明した。
岸田外相はしたがって、核兵器なき世界の実現に向かってG7が広島からまさに今この時に強力なメッセージを発する必要性を強調した。この議論を受けて、G7外相らは広島宣言の発表に合意したのである。
G7外相らは史上初めて広島平和記念資料館を訪問し、原爆犠牲者慰霊碑に献花し、原爆ドームを訪れ、被爆の実相に触れた。
バラク・オバマ大統領はこれに倣い、「第二次世界大戦中に命を落としたすべての人を追悼するために」5月27日に米国の現職大統領としては初めて広島を訪問した。
「71年前の明るく晴れわたった朝、空から死が降ってきて世界は一変しました。」とオバマ大統領は述べた。「1945年8月6日の朝の記憶が薄れることがあってはなりません。あの運命の日以降、私たちは希望に向かう選択をしてきました。日米両国は同盟を結んだだけでなく友情も育み、戦争を通じて得るものよりはるかに大きなものを国民のために勝ち取ったのです。」
こうしたジェスチャーを多くの人々が評価しているが、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、米国は1兆ドルの核兵器近代化プログラムを開始しており、「米国は今後数十年も核武装国でありつづけようとしている」と述べている。
オバマ大統領の広島訪問に先立って、ICANのベアトリス・フィン事務局長は、「この7年間、オバマ大統領が核兵器に関して真の変化を生み出してくれるだろうと信じてきた人々にとっては、米国の核政策は失望以外の何ものでもありませんでした。とりわけ、核兵器禁止に向けた有望な新協議プロセスをボイコットしたことには失望しています。」と語った。
フィン事務局長はまた、「オバマ大統領は、『冷戦思考を終わらせ、米国とその同盟国の安全保障戦略における核兵器の役割を低減する』と2009年にプラハで呼びかけたにも関わらず、それには行動が伴っていません。」と指摘したうえで、「すべての核武装国と米国の核の傘の下にある国々は、軍縮の約束を繰り返し行う一方で、実際にはその安全保障戦略において核兵器に過度に依存しています。」と語った。
広島でオバマ大統領は安倍首相に随伴されていた。その安倍首相は、核軍縮を呼びかける一方で、米国の核の傘に依存し、核兵器を禁止する新たな条約を目指す取り組みに反対する「偽善的なスタンス」ゆえに、国内で厳しい批判に直面している。
ICANはさらに、「オバマ政権は、核兵器の禁止、いわゆる『人道の誓約』の推し進める非核兵器国の間で強まっている運動に関わることができていません。米国は実のところ、核軍縮に向けた新たな法的措置を議論するために国連総会によって設置された『核軍縮に向けた第2回公開作業部会(OEWG)』における審議をボイコットしているのです。」と述べている。
日本はどうかというと、5月2日から13日にかけてジュネーブで開催された『核軍縮に向けた第2回公開作業部会(OEWG)』(第二会期)に参加はしたが、核兵器に依存することは国家安全保障上必要だと主張して、核兵器禁止を交渉するプロセスの開始に反対しているのである。しかし、米国やその他の核武装国がボイコットしたにも関わらず、世界の多数の国々は、核兵器を禁止する新条約の交渉を開始する用意ができている、とICANは主張している。
「5月のジュネーブでの『核軍縮に向けた第2回公開作業部会(OEWG)』に不参加あるいは後ろ向きな形でしか参加しなかったことを考えると、これらの国々が『核兵器なき世界』を象徴的に訴えていることは皮肉としか言えません。」「もしこの2人の指導者が核軍縮を真剣にとらえているのなら、核兵器禁止のプロセスを呼びかける世界的な動きになぜ加わらないのでしょうか?」「広島訪問だけでは不十分です。両首脳の誓約を評価する真の試金石は、核兵器を禁止する新たな法的文書を交渉しようとする世界的なプロセスを支持するかどうかにあります。」とピースボートの川崎哲氏は語った。
フィン事務局長はまた、「プラハ演説の後、オバマ大統領は核軍縮に向けて世界をリードする機会を失いました。オバマ大統領は今回米国大統領として初めて広島を訪問しましたが、それでもこの問題におけるリーダーシップは、『人道の誓約』を承認した120カ国以上の非核兵器国の広範な連合から生まれてきているのです。」
ジュネーブでの『核軍縮に向けた第2回公開作業部会(OEWG)』から2週間、G7伊勢志摩サミットの首脳宣言が発表された。OEWGの2回の会期(2月22日~26日、5月2日~13日)では草案に合意することはできなかったが、8月に行われる最後の3日間の会期では、国連総会への勧告を含んだ最終報告書の交渉に進むことになっている。
ICANは、信仰を基盤とした団体を含む市民社会からの支持を活性化するうえで決定的に重要な役割を果たしている。5月2日に発表された、さまざま宗教団体による共同声明では、核兵器廃絶が道徳的・倫理的に絶対必要であることを強調している。35近い宗教団体・個人が賛同したこの共同声明は5月3日、作業部会の議長を務めるタイのタニ・トーンパクディ大使に手交された。
UNFOLD ZEROは、市民社会の主要な役割を強調して、「核軍縮に向けた多国間交渉を2017年に始める推進力は今や強まっている。これは約20年に亘って阻止されてきたものだ。」と述べている。
UNFOLD ZEROのパートナー団体には、平和首長会議、ピースデポ、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)、バーゼル平和事務所、国際反核法律家協会(IALANA)、中堅国家構想(MPI)などがあり、大きな支持を動員している。
非核兵器地帯(NWFZ)を通じて各々の地域で既に核兵器を禁止している国々のグループからも共同で作業文書「核軍縮を前進させる:核兵器地帯の視座からの提案」(WP34)が提出されている。この115か国は、ラテンアメリカ、南太平洋、南極、東南アジア、アフリカ、中央アジアに設けられている非核兵器地帯に属する国々の一部である。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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